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【DUCATI ムルティストラーダ 1200S 動画+試乗】今、最も進んだモーターサイクルの姿を見た

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
DUCATI Mulutistrada1200S

「自らに課す、終わりなき進化の旅」。今夏、北海道で開催された新型ムルティストラーダ1200のプレス向け試乗会が開催されたが、そのプレゼンテーションの冒頭に飾られた言葉だ。新型ムルティストラーダはまさにそれを体現したかのような素晴らしいパフォーマンスを見せつけてくれた。その後、都市部で行った長期試乗の経験も含めて、モーターサイクルジャーナリストのケニー佐川氏がインプレッションをお届けします。

全方位マシンがそのすべてをバージョンアップ。今最も進んだモーターサイクルの姿がある

2010年にデビューしたムルティストラーダ1200の初期型は、4つのカテゴリーの性能を1台に集約した「4バイクス・イン1」のコンセプトで登場。ボタンひとつで瞬時に「都市コミューター」、「長距離ツアラー」、「高性能スポーツバイク」、「エンデューロモデル」に変身するライディングモードが話題を呼んだ。2012年には電子制御サスペンション「スカイフック」を搭載した2代目が登場し、しなやかな走りをさらに深化。そして、3代目となる今回は初のフルチェンジを行い、エンジンから車体、足回りのすべてにおいて革新的なアップデートが行われた。

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外観は一見、従来型と大きく変わらないように見えるが、よくよく見ると、カウル形状からフレーム構成、メーターデザインまで何ひとつ同じものがない。ウインドプロテクション向上のため左右に張り出した”頬骨”がアグレッシブさを強調している。

跨ってみると、シート部分が従来比で40mmも絞り込まれたボディのおかげで足着き性は明らかに向上している。加えて可変式シートは800mmまでシート高を下げられるので、多くのライダーが普通に乗れるはずだ。

さらに嬉しいのが、ハンドル切れ角が片側40度に増えたこと(従来は38度)。まさに国産並み以上に切れるので、狭い路地の多い日本では重宝する。可変バルブシステムにより低速トルクに粘りが出たことも含め、日常での使い勝手が格段に良くなったことが何より大きな進歩だと思う。渋滞路は熱的にもさすがに辛いが、普通に街乗りもストレスなくこなせるマシンになったと思う。

そこに大きく貢献しているのが、新たに導入された「テスタストレッタDVTエンジン」。走行状況と回転数に応じて連続的にバルブタイミングを調整して、常に最適な出力特性を作り出してくれる仕組みだ。例えば、高回転域ではスーパーバイク並みの伸びやかなパワーが立ち上がり、低中速域では力強くスムーズなトルクが際立ってくる。実際、極低速でのトルクの谷が緩和されたことで、従来であれば苦手としていたUターンなども不安なくこなせるようになった。「開ければ気持ちいいけど極低速がちょっと・・・・・・」というLツインの既成概念をついに変えた、と言ってもいいほど大きな進歩だと思う。

北の大地で感じたムルティストラーダの本領

北海道では大いにその性能を楽しむことができた。DVTは高速コーナーの立ち上がりにおいても、普段より1速高めのギヤでも盛り上がるトルクに乗せて弾けるように加速していく。まるでライダーのアクセル操作を先読みしているかのような俊敏なレスポンスだ。それでいて、ツキが穏やかで出力特性がリニアなので疲れにくい。DVTの導入により、トップパフォーマンスが向上しただけでなく、振動も大幅に低減されて快適性もアップ、さらに燃費も向上するなど良いこと尽くめ。一気に距離を稼ぎたいロングツーリングでの恩恵は計り知れない。

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そして、最新のアルゴリズムで制御された「スカイフック」(Sモデル)が、路面のウネリや轍を軽いフットワークでいなしていく。通常のコンベンショナルなサスペンションであれば底付きするようなギャップでも、まるで意に介さず乗り越えていくのだ。ちなみに電子制御サスではないSTDタイプとも乗り比べてみたが、やはり差は歴然。スカイフックの滑らかで上質な乗り心地はまさに感動ものである。

ブレーキシステムもさらに進化した。フロントにはパニガーレと同様のブレンボ製M50モノブロック・ラジアルキャリパー(Sモデル)が搭載され、リヤディスク径も拡大するなどさらに強力に。加えて、ボッシュ製慣性測定ユニット(IMU)が制御するコーナリングABSは、新たに「バンク角」と「ピッチング角」をセンシングすることで、フルバンク時でも安心してブレーキをかけることを可能としている。とはいえ、さすがに試す度胸はなかったが。また、車体の傾斜を感知してカーブの先を照らしてくれるコーナリング・ヘッドライトが新たに装備されたことも含め、安全マージンを格段に高められたと言えるだろう。

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ライディングモードの機能そのものは従来型と変わらないが、DVTと進化したスカイフック、コーナリングABSのおかげで「アーバン」はより扱いやすく、「ツーリング」はより快適に、「スポーツ」はよりエキサイティングに、そして「エンデューロ」はよりアグレッシブに攻められるようになった。圧巻だったのは、北海道での林道コース。所々に泥濘のある砂利道をスロットル全開で突っ走っていくことができる。マシンの挙動は驚くほど安定していて、自分が急にダートのエキスパートになったかと錯覚するほど。このパワーと車重に加え、17インチのロードタイヤであることを考えると驚異的だ。これも最新の電子制御の賜物なのだと、後で冷静になって気づいた。

進化したのは走りだけではない。新型ムルティストラーダにはブルートゥースを標準装備(Sモデル)したマルチメディア・システムが搭載された。スマホがより便利に活用できるようになっただけでなく、専用アプリによって走行データの管理やSNSとのリンクも可能になるなど、ライディングの楽しさはさらに広がった。

流れるような曲線美を纏ったシルエットや、視覚に訴えるバックライト付きコントロールスイッチ、フルカラーTFT液晶ダッシュボードなど、車体を構成するコンポーネンツのひとつひとつが芸術的な美しさに満ちている。全方位的に進化を遂げた新型ムルティストラーダだが、その価値はスペックシートに表れるものだけではない。乗った者だけに与えられる、この上なく上質で優雅な時間こそがムルティストラーダ1200の真価なのだ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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