先生の業務 保護者が負担? 学校の働き方改革のゆくえ

(写真:アフロ)

 文部科学省の中央教育審議会において、教員の働き方改革に関する議論が大詰めを迎えている。その成果として今後、学校現場で具体的に進展しうるのは、教員の負担軽減策である。このとき、いくつかの業務については家庭に負担がのしかかると予期される。はたして家庭に、その受け皿はあるのだろうか。データの分析からは、重大な課題が見えてくる。

■長時間労働の「見える化」

 教員の働き方改革の必要性が叫ばれている。教員の勤務実態に関する各種調査が実施され、文部科学省の中央教育審議会に設置された「学校における働き方改革特別部会」では、2017年6月から一年半にわたって議論がつづき、先月上旬には答申案が発表されたばかりである。

 従来から、学校の内外を問わず「教員は子どものために尽くして当然」と考えられてきた。そのため、教員の長時間労働の実態にはなかなか関心が寄せられてこなかった。

 ところが各種調査の結果が発表されたり、またSNS上で現職教員らが異常な労働状況について声をあげたりするようになったことで、急速にその問題への理解が拡がってきた。教員の働き方の「見える化」である。

■教員の業務の「自分事化」

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 そしていま、中教審が答申案で掲げているのは、これまで教員が抱えてきた業務を減らしたり、また業務の一部を学校外の人材に移譲したりするという方針である。

 その主要な移譲先の一つとして想定されているのが、家庭(保護者)である。教員のただ働きに頼りすぎていた部分を、家庭でも責任をもって引き受けるべきではないかと考えられている。

 だが、はたして家庭にそのような余裕はあるのだろうか。PTAジャーナリストの大塚玲子氏は「先生の仕事を減らすのはいいとしても、代わりに保護者の仕事が増えるのでは、やはり理解は得づらい」「先生の無償労働を保護者の無償労働に変換するだけでは埒が明きません」と、警鐘を鳴らす(詳しくは、大塚玲子「『先生の働き過ぎ問題』は保護者に関係ない?」を参照)。

 教員の働き方が「見える化」したところまでは、よかった。保護者を含め多くの人びとから前向きな反応を得ることができた。だが、今後は教員が担ってきた業務が、家庭の負担になるかもしれない。保護者における、教員の働き方の「自分事化」が始まっていく。

■学校以外が担うべき業務

中教審の答申案に示された具体的な業務改善事項(計14項目) ※答申案のp. 28より転載
中教審の答申案に示された具体的な業務改善事項(計14項目) ※答申案のp. 28より転載

 中教審の答申案では、具体的な業務改善として、図にあるとおり14項目が示されている。そしてたとえば「基本的には学校以外が担うべき業務」については、「基本的な責任は家庭や地方公共団体等にある」(答申案p. 31)とされる。

 具体的に一点目の「登下校に関する対応」については、次のように記されている。

 通学路を含めた地域社会の治安を確保する一般的な責務は当該地域を管轄する地方公共団体が有するものであることから、登下校の通学路における見守り活動の日常的・直接的な実施については、基本的には学校・教師の本来的な業務ではなく、地方公共団体や保護者、地域住民など「学校以外が担うべき業務」である。

出典:新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(素案)

 同じように、二点目の「放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導されたときの対応」についても「児童生徒の補導時の対応等については、児童生徒の家庭の事情等により、やむを得ず教師が対応しているケースもあるが、第一義的には保護者が担うべきである」と明記されている。

■保護者は負担を受け入れるのか

 教員が負担していたすべての業務が、保護者に移譲されるわけではない。しかしながら、これまで学校から提供されていた教育サービスが、そのまま学校の外に切り出されれば、学校教育の当事者である保護者の負担は、増えることはあっても減ることはない。

 その意味で、教員の働き方改革は今後、負担が自分事化する保護者(さらには地域住民など)に理解を求めていく必要がある。

 教員の負担軽減への協力について、興味深いデータがある。

 連合総合生活開発研究所が昨年11月に発表した、労働者を対象とする第36回の「勤労者短観」(勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査)である。第36回の調査では特別に、教員の働き方に関する質問が設けられた(報告書はこちら)。

 私は連合総研に個票データ(分析される前のデータ)の提供を依頼し、連合総研の厚意により個票データを入手することができた。その分析からは、保護者は負担軽減への協力に理解を示してくれているものの、その遂行は容易ではないことが見えてくる[注1]。

■協力には消極的

学校から依頼されたときに協力すること(全体) ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成
学校から依頼されたときに協力すること(全体) ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成

 まずは、学校の各種業務について、保護者や地域住民を含む労働者全体の意識を概観しよう。「学校から次のようなことを頼まれたら、あなたは協力しようと思いますか」という質問に対して、「協力する」と回答した者(調査対象は労働者である)の割合は、図示したとおり、いずれの業務においても、きわめて小さい

 たとえば、「登下校時の見守り活動」に協力してもよいと答えているのは、回答者のうち7.6%にとどまっている。他方で、「当てはまるものはない」が80.1%に達している。

■保護者は相対的に高い関心

学校から依頼されたときに協力すること(保護者/保護者以外の労働者) ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成
学校から依頼されたときに協力すること(保護者/保護者以外の労働者) ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成

 ただし、小中高生の保護者とそれ以外の回答者を比べてみると、ちがいが見えてくる。

「登下校時の見守り活動」についていうと、保護者では16.1%が、保護者以外の労働者は5.6%と、10.5ポイントの差が確認できる。16.1%はけっして高いとは言えないが、それでも労働者一般よりは、教員の負担軽減に協力的である。

 その他にも「クラブ活動・部活動のボランティア指導員」や「学校運営に関する地域の協議会等への参加」においても、保護者において相対的に、協力の意識が確認できる。

■誰がより協力的か

週の労働時間と「協力する」者の割合 ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成
週の労働時間と「協力する」者の割合 ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成

 ところで保護者のなかでは、誰がより協力的なのだろうか。その答えからは、学校の業務の外部化における、きわめて重大な課題が見えてくる。

 ここで焦点を絞って、中教審がとりあげた14項目の一点目にあげられていて、かつ上の分析においても「協力する」という回答がもっとも多かった「登下校時の見守り活動」に注目しよう。

 業務の協力に際して強い影響を与えると思われる性別と労働時間を考慮して、保護者データの分析をおこなった。

 すると、「協力する」の回答者が多いのは、女性(母親)でかつ週の労働時間が20時間未満の者であることがわかる[注2]。その割合は、37.0%にのぼる。日中にいくらか時間に融通が利きうるからこそ、登下校時の見守りに時間を割くことができるものと推察される。教員の働き方改革は、この社会全体に根づいている性別役割分業や長時間労働とも深くリンクしているようである。

 先ほどの、保護者が他の労働者に比べて「協力する」と答えている割合が高いのは、保護者のうち女性(母親)でかつ労働時間がかなり限られている者の影響によるところが大きいと言える。

■教員の働き方改革は社会全体の課題

 上記の知見を言い換えると、男性あるいは労働時間の多い女性は、学校の業務を引き受けることが困難と感じているということだ。

 誰だって、毎日働いているところに新たな仕事が追加されるのは、しんどい。だからと言って、教員の長時間労働をこのままにしておくわけにもいかない。

 2019年は、まもなく確定する中教審の答申を受けて、各自治体のレベルで教員の働き方改革が実行されることになる。保護者や地域住民にとっては、教員の業務改善が、自分事化してくる。

 だがここまで見てきたように、保護者であるかどうかに関係なくそもそも「協力する」と考える者が少ない。そして、学校からサービスを直接提供される保護者であったとしても、ある程度の時間数働いている者においては、業務の外部化に「協力する」ことは難しい。日本社会を覆う性別役割分業や長時間労働も、その背景にある。

 学校の業務の外部化を安易に唱えるだけでは、改革はすぐに行き詰まる。学校と保護者の間に、仕事の負担をめぐって軋轢が生まれることも、あるかもしれない。

 日本の教育はいま、危機的状況にある。教員の働き方は、教育問題ではなく社会問題である。社会全体の課題として、皆でこの現状を直視していかなければならない。

  • 注1:調査期間は、2018年10月1日~5日。WEB画面上での個別記入方式によるインターネット調査。調査対象は、首都圏と関西圏に住む20代から60代前半までの、民間企業に雇用されている者で、計2000名が回答。第35回調査からは、首都圏と関西圏以外のすべての地域に調査対象が拡大されたものの、連合総研の報告書では、首都圏と関西圏が焦点化されている。一方で全国のデータは「参考」扱いとされているため、本記事もそれにならい、首都圏と関西圏の計2000名について分析をおこなった。
  • 注2:男性において週の労働時間が20時間未満でかつ「協力できる」と回答した者はゼロ人である。参考までに、20時間を区切りとした場合、さらには30時間を区切りとした場合のクロス表をここに掲載する。いずれも傾向は類似している。

性別・労働時間別に見た「協力する/協力しない」の割合 ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成
性別・労働時間別に見た「協力する/協力しない」の割合 ※連合総研の個票データをもとに筆者が作成