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生徒に部活は必須 管理職含む教員の2割が誤解

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

 学校教育において部活動は、授業とは異なり、生徒の自主的な活動と規定されている。27日に文化庁が発表した「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」にも、強制参加の抑制が明記されたばかりだ。ところが全国調査のデータを分析してみると、管理職を含む2割の教員は、部活動を各教科と同じ、必ず生徒が学ぶべき事項と誤解している。

■強制参加の問題

 2018年は、国の部活動改革が大きく前進した一年であった。今年3月のスポーツ庁による「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」に次いで、今月27日、文化庁から「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が発表された。

 報道では、週に2日以上の休みをとるといった休養日の設定に注目が集まっているが、私が注目するのは、生徒の強制参加の抑制に踏み込んだ点である。

 文化部ガイドラインでは、「望ましい部活動の在り方」として、「各学校においては、生徒の自主性・自発性を尊重し、部活動への参加を義務づけたり、活動を強制したりすることがないよう、留意すること」が明記されている。「留意すること」と表現は控えめだが、そもそも運動部のガイドラインでは強制参加の問題については言及がなかっただけに、かなり踏み込んだ記述と言える。

■自主的な活動のはずなのに

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 ここ数年部活動改革が進むなかで知られるようになってきたこととして、部活動はそもそも国の学習指導要領の総則において「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と規定されている。

 たとえば、早朝やお正月休みの練習を「自主練」と呼ぶことがある。だが、部活動は成り立ちからして、そもそも「自主練」である。

 それにもかかわらず、実際には部活動に部員全員が強制的に参加させられ、そのなかの「自主練」においてさえほとんどの部員が参加する。自主的とは名ばかりで、強制が慣行化されている(強制参加の実態ついては拙稿「部活の強制入部 やめるべき」を参照してほしい)。

■部活動は「教育課程外」

 さて、この自主的な活動というのは、学校教育界の用語で言い換えると「教育課程外」と表現される。

 学習指導要領の総則において、部活動は「教育課程外」と定められている。この「教育課程」というのは、学校の教員であれば誰もが知っている言葉で、学校教育法施行規則では、中学校の場合次のように規定されている。

第七十二条 中学校の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語の各教科(以下本章及び第七章中「各教科」という。)、道徳、総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする。

 平たく言えば、「教育課程」とは学校で必ずおこなわれるべき事項である(編成主体は学校)。そして上記にあるとおり、その事項のなかに、「部活動」は含まれていない。

 事実、今月6日に文部科学省の中央教育審議会が発表した「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(素案)」においても、「部活動の設置・運営は法令上の義務ではなく、学校の判断により実施しない場合もあり得る」ことが明示されている。

■「教育課程内」という誤解

学習指導要領における部活動の位置づけ ※全国調査のデータをもとに筆者が作図
学習指導要領における部活動の位置づけ ※全国調査のデータをもとに筆者が作図

 部活動は「教育課程外」であり、学校において必ず実施されるべき事項ではない。

 ところが「自分はずっと教育課程内だと思っていた。初任の頃から部活動はやって当たり前のことだと勘違いしていた」という教員に、私はこれまでたくさん出会っている。

 このような背景から、私はちょうど一年前に、公立中学校を対象に実施した全国調査において、そのことを質問した(調査の概要は、本記事下部を参照)。

 「あなたは、現行の中学校学習指導要領において部活動がどのように位置づけられていると思いますか」という質問に対して、全体の回答は、上の図のとおりである。

 「教育課程外」と正しく回答したのは58.3%で、その他に「教育課程内」が24.0%、「記述はない」が4.5%、「わからない」が13.2%である。

■校長と教頭・副校長も勘違い

学習指導要領における部活動の位置づけ(管理職/教諭) ※全国調査のデータをもとに筆者が作図
学習指導要領における部活動の位置づけ(管理職/教諭) ※全国調査のデータをもとに筆者が作図

 「教育課程外」という正答が多数派だったのは救いだが、「教育課程内」というまったく逆の回答があったことは、重大な問題として受け止めなければならない。

 部活動は、けっして各教科と同じような位置づけにはない。部活動に参加しようがしまいが、それは生徒自身の判断にゆだねられていて、そこに強制があってはならない。

 ただし先ほどのデータには養護教諭(保健室の先生)や栄養教諭をはじめ部活動指導にあまり関係がない立場の回答者も含まれている。そこで職階別の観点を導入して、管理職(校長、教頭・副校長)と教諭(主幹教諭、教諭)に限ってデータを見てみよう。

 驚くべきは、学校教育の法規を熟知しているはずの管理職の誤答が、けっして少なくない点だ。

 管理職の「教育課程内」という誤答は、19.7%にのぼる。教諭の23.4%とそれほど大きな差はない。「教育課程外」という正答が教諭よりも19ポイント多かったことが、せめてもの救いである。

■法規よりも慣行が優先される

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 管理職は、学校で部活動をおこなう場合には、当然その管理運営について熟知していなければならない。管理職選考試験では、教育法規は重要事項であったはずだ。部活動が「教育課程内」という誤解のもとでは、生徒にとって部活動の強制性がきわめて高くなる。

 学校ではしばしば、法規よりも慣行が優先される。

 もちろん、長年にわたって受け継がれてきた慣行は大切だ。だが、部活動の強制参加を含め、そうした慣行はしばしば説明のつかないことを生徒に要求する。生徒や保護者が反論しても、「そういうものだから」と返されて、相手にされない。

 この一年の部活動改革をめぐる動きは、そうした慣行に見直しを迫るものである。「そういうものだから」では、来年もまた同じことがくり返される。

【「中学校教職員の働き方に関する意識調査」の調査概要】

  • 実施期間:2017年11月~12月(一部、2018年1月)。部活動や勤務の具体的な状況については、2017年10月時点の平均的な実態を想定して回答してもらった。
  • 調査対象:北海道、岩手県、秋田県、山形県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、静岡県、大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、広島県、徳島県、福岡県、佐賀県、大分県、沖縄県の計22都道府県にある公立中学校。教員数や学校数などの情報をもとに、各都道府県で複数の中学校を抽出し、当該校の教職員全員(校長、副校長・教頭、主幹教諭、教諭、養護教諭、常勤講師、非常勤講師、事務職員など)に質問紙を配布した。調査対象となった中学校数は284校で、うち221校(77.8%)から回答があった。回収できた個票の総数は3982票である。
  • 回収状況:回収済個票数/調査対象教職員数=3982/8112=49.1%
  • 調査対象者の特性(偏り):属性(性別、年齢)について、実際に回答した中学校教諭の状況と、全国の中学校教諭のそれとを比較してみると、その差はわずかであった。本調査における計22都道府県の回答者は、全国47都道府県における中学校教諭の状況をあらわすに相応しいと言える。
  • 調査実施者:本調査は、名古屋大学に所属する内田良・上地香杜・加藤一晃・野村駿・太田知彩の共同研究により実施した。成果の一部は、『調査報告 学校の部活動と働き方改革:教師の意識と実態から考える』(岩波ブックレット、2018年11月)として刊行している。ただし本記事の分析結果は未公表のものである。なお調査結果の第一報(速報)は2018年4月に、このヤフーニュース個人に「新年度 部活したくない教員5割 『学びの時間を増やしたい』」と題して発表している。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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