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教員の部活指導 校長の苦悩 「負担軽減のために強制」の判断

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図

■運動部活動のガイドライン骨子案が発表される

 スポーツ庁が1月16日に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」の骨子案を発表し、部活動改革の機運が盛り上がっている。骨子案には教員の過重負担への配慮が明記され、負担軽減に向けての期待が高まる。

 一方で、昨年11月に発表されたばかりのスポーツ庁の全国調査を丁寧に読み解いていくと、学校現場の複雑な状況が見えてくる。じつは個々の教員は部活動の指導から離れたくても、校長が部活動の指導を全教員に強制しているのだ。

 なぜ教員の思いとは裏腹に、部活動指導が強制されるのか。最新の調査から見えてくる学校現場のリアルと、その背景要因に迫りたい。

■全員顧問制に対する現場の意見

部活動の指導に全教員を当たらせるべきか(運動部顧問の回答) ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図
部活動の指導に全教員を当たらせるべきか(運動部顧問の回答) ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図

 この2年ほど、SNS上では「部活がしんどい、やりたくない」という教員の声が多く聞かれるようになった。その教員らは、学校には「部活をやりたがる同僚がたくさんいる」と、現状を憂いている。たしかに、職員室では部活動を支持する声が大きいからこそ、「部活がしんどい」先生たちは、職員室ではなくSNSで声をあげている(拙稿「ツイッターが生み出した部活動改革」)。

 しかしながらスポーツ庁の「運動部活動等に関する実態調査」(2017年7月実施)によると、個々の教員レベルでは、部活動指導の強制に大多数が賛同しているというわけではない。公立中学校の運動部顧問への質問で、部活動の指導に全教員を当たらせるべきかどうかについて、「全教員を当たらせるべき」は33%、「希望する教員のみを当たらせるべき」は38%とあるように、いわゆる「全員顧問制」(前者)と「希望制」(後者)の支持は、同程度の割合である。

■校長の判断で全教員に強制

学校では全教員が部活動指導にあたっているか(校長の回答) ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図
学校では全教員が部活動指導にあたっているか(校長の回答) ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図

 ところが、校長による学校としての判断を見てみると、じつに97%の学校が「全員顧問制」をとっている。個々の教員の意向、とくに「希望制」がよいという教員の思いはまるで無視されて、「全員顧問制」が採用されているのだ。

 たしかに私はよく、現職の先生たちから次のような声を耳にする――「教員一人ひとりはそれぞれに意見があっても、職員会議で部活動の全員顧問が問題視されることはない」と。つまり、個別のレベルではさまざまな思いがあったとしても、それが校長を筆頭とする集団のレベルになると、「全員顧問制」が当たり前に通用するようである。

■校長の最大の悩みは・・・

部活動に関する校長の悩み ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図
部活動に関する校長の悩み ※スポーツ庁「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』」をもとに筆者が作図
顧問教員の負担が大きすぎるか ※『中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書』をもとに筆者が作図
顧問教員の負担が大きすぎるか ※『中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書』をもとに筆者が作図

 ここまでのデータからは、校長はまるで教員の思いを踏みにじっているようにも見える。だがここで注視すべきは、校長は顧問の過重負担を最大の悩みとしてあげている点である。

 スポーツ庁の調査では、校長に対して、部活動に関する悩みの有無として、「顧問教員の負担軽減」「顧問の知識・技能不足」「保護者の理解不足」「部員(生徒)の学業との両立」など計17の項目(複数回答)がたずねられている。それらのなかでもっとも悩みが多かったのが「顧問教員の負担軽減」であり、約8割もの校長がそれを選んでいる。

 これと同様の結果は、神奈川県の中学校・高校調査(2013年6~7月実施)からも確認できる。「顧問教員の負担が大きすぎる」ことについて、「そう思う」「ややそう思う」という回答は、保護者、外部指導者、教員、校長のなかで、校長がもっとも多い。

■苦渋の判断「負担軽減のために強制」

 校長は、教員の負担を軽減したいと強く感じている。それにもかかわらず、教員の「希望制」の思いをくみ取ることなく、部活動指導を教員に強制している。これはなぜか。

 その答えのヒントは、上述のスポーツ庁がたずねた計17の「悩み」項目において、「顧問教員の負担軽減」の次に多かった項目、すなわち「顧問の不足」にある。

 校長は、部活動指導を担当してくれる人員が不足していると感じている。慢性的な指導者不足のなかで、部活動を維持しなければならない。このとき、学校内のすべての教員に部活動指導を強制することによって、なんとか人員不足を補おうとするのだ。

 逆に言えば、仮に教員の4割を占める「希望制」の意見を尊重した場合、学校の部活動は一気に指導者を失い、もはや成り立たなくなってしまう。それゆえに教員の「希望制」の思いに蓋をして、「全員顧問制」のかたちをとり、現状の部活動を維持しようとする。そして、だからこそ「顧問教員の負担軽減」が最大の悩みとなっているのである。

■現場の葛藤から見える答え

内田良「部活動は教員の仕事か? 中教審『中間まとめ』に期待すること」(ヤフーニュース個人)
内田良「部活動は教員の仕事か? 中教審『中間まとめ』に期待すること」(ヤフーニュース個人)

 この葛藤は、けっして校長固有のものではない。

 部活動指導は「希望制」がよいと思いつつも、次善の策として「全員顧問制」をとるべきという教員はたくさんいる。「部活動の指導から抜けたい気持ちはわかるけど、そうされると、残された私たちの負担が増えてしまう。だから、みんなで負担すべき」と考えるのだ。校長の考え方と同じように、全教員で公平に負担を分け合うことで、個々の教員の負担を減らしていこうという見解である。

 しかしながら、そのような答えにたどり着く限り、今日の部活動は何も変わらないし、改革も進まない。そもそも部活動指導は、教員に強制されるべきものではない(拙稿「部活動は教員の仕事か?」)。教員の善意に寄りかかって、部活動は運営されてきた。これがまず大問題である。

■部活動の「総量規制」

スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン骨子(案)」(2018年1月16日)
スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン骨子(案)」(2018年1月16日)

 肥大化した部活動を維持するために、全教員をフル稼働させる方法はあきらめるべきだ。そして、指導を希望する人員(教員や地域人材)で部活動がまわっていくように、部活動を大幅に縮小していく方向に舵を切るべきである。私はこれを「部活動の総量規制」と呼んでいる。

 冒頭のスポーツ庁が今月発表したガイドライン骨子案は、部活動の活動量について「週当たり2日以上の休養日」、「長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度」、「大会数の上限の目安等を定める」と、具体的に総量規制に踏み込んでいる。現状からすればこの規制では不十分であるし、その他にも注文をつけたいことはいくつかあるものの、それでも少しばかり改革が前進したように思う。

 教員もそして校長も苦悩している。この現実から、部活動の未来を考えていかなければならない。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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