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「休めない」 夏休みの部活動

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

■夏休み中も練習

 甲子園(全国高等学校野球選手権大会)、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)、総文祭(全国高等学校総合文化祭)など、この夏を盛り上げた「部活動」の全国大会も、今日、全中(全国中学校体育大会)の最終日をもって幕を閉じる。

 テレビや新聞を見ていると、「全国大会」一色だけれども、現実には各地域や各競技種目・文化活動において、全国大会とは別の大会やコンクールが開催されている。そしてそれらの大会に出場するために、生徒は今日も当たり前のように練習を重ねている。お盆を除いて「ほぼ毎日」活動している運動部の生徒が4割に達するとの調査結果もある。

 全国大会につながる大会で早くに負けたとしても、生徒は次の大会に向けて日々練習に励む。華々しい「全国大会」に隠れがちな、夏休みの「いつもの部活動」に迫ってみたい。

■活動予定表は練習で埋められている

夏季休暇期間中の部活動予定表(例)
夏季休暇期間中の部活動予定表(例)

 さて、図に示したのは、公立高校の夏休み中における部活動の活動予定表(例)である。とある自治体にある複数の公立高校の予定表を参照して、筆者が再構成した[注1]。見てのとおり、毎日のように練習が入っている。

 部活動によっては、8月11日~13日のお盆休み期間中も、当たり前のように練習が入っていたり、練習試合が組まれていたりする。該当する部活動では、生徒も先生もお盆休みがないということなのだろうか。

 また、表中の野球部がそうであるように、夏休みの間、休みが計3日間しかない部活動もあった。ただでさえ蒸し暑く体力が消耗する時期に、「学校教育」の名のもとで生徒は休みなく部活動に励んでいる。

■「ほぼ毎日」が4割強 運動部活動

夏休み期間中における部活動の活動頻度(図はベネッセのウェブサイトより)
夏休み期間中における部活動の活動頻度(図はベネッセのウェブサイトより)

 夏休みに特化して部活動の活動日数をたずねている調査は、ほとんど存在しない。かろうじてベネッセのオンラインによる保護者対象の全国調査が、その実像の一端を教えてくれる。

 2013年9月にベネッセが実施した調査[注2]によると、中高生における夏休みの部活動の頻度は、運動部で「ほぼ毎日(お盆を除く)」が44.3%を占めている。これが割合としてもっとも高く、次に「週に3~5日(お盆を除く)」が38.4%である。

 「ほぼ毎日」と「週に3~5日」の両者で計82.7%に達することから、運動部に所属する大多数の中高生は、夏休み中も頻繁に部活動に参加しているということができる。

■生徒は「休みたい」、大人は「休ませたくない」

「活動しない期間を設けること」を「よいと思う」割合(神奈川県教委による調査)
「活動しない期間を設けること」を「よいと思う」割合(神奈川県教委による調査)

 夏休みにこれほどまでに活動日が多い状況を、生徒はどう受け止めているのか。

 興味深い調査結果がある。2013年に神奈川県教育委員会が県内の中学生・高校生とその保護者さらには教員などを対象に実施した運動部活動に関する調査[注3]からは、生徒の「もっと休みたい」という声が聞こえてくる。

 「一年間のある時期に活動しない期間を設けること」について「よいと思う」と回答した者の割合は、中学生と高校生はおおよそ7割に達する。他方で、教員や保護者らの「よいと思う」の回答は、2割を下回っている。

 生徒はまとまった休みがほしいけれども、大人たちは概して、そう思っていない。生徒と大人との差は、あまりに大きい。子どもの気持ちは尊重されることなく、教員をはじめ大人はみんなで、子どもを部活動に縛り付けている。私たち大人たちがなすべきことは、子どもたちの声に耳を傾けることである。

 そしていま一度、私たちは学習指導要領の文言に目を向けるべきだろう――「部活動」は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」(中学校学習指導要領、高等学校学習指導要領)。

注1:けっして極端な例ではなく、当該自治体ではよくありうる例を示している。なお、個別の高校や部活動の特定につながることがないよう固有の情報を削除・改変し、典型例として再構成した。

注2:

調査時期:2013年9月4日から2013年9月10日まで。

回答者数:1540名。

調査対象:中学生・高校生の保護者。

なお、2015年8月26日から9月1日にかけても同様の調査がベネッセにより実施されているものの、夏休みの部活動日数について詳細な数値がわからなかったため、本記事では2013年の調査を用いた。

注3:

調査時期:2013年6月27日から2013年7月31日まで。

調査対象・回答者数:下記の表のとおり。

調査対象ならびに回答者数
調査対象ならびに回答者数
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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