組み体操の負傷事故 大幅減 教育行政が動いた2016年

組み体操における負傷事故件数の件数と減少幅(2015~2016年度)

■大阪市は7割の減少、名古屋市は9割の減少

冬に入って、全国各地から今年の運動会における組み体操の事故情報が入ってきている。いずれの自治体でも、事故が大幅に減少している。ここ数年ネットやマスコミ報道でたびたび問題視されてきた組み体操の事故は、この2016年に一気に改善に向かったようだ

大阪市では、2015年度は市立小学校の293校が組み体操を実施し42件の骨折が起きた。そして2016年度は201校が実施し、骨折は12件に減少した(11/23 朝日新聞)。 

名古屋市では、2015年度は202校が組み体操をおこない、28件の骨折があった。2016年度は154校が実施し、骨折は3件にまで減った(12/21 NHK NEWS WEB ※リンク切れ)。

骨折の件数は2015年度比で、大阪市は7割の減少、名古屋市は9割の減少と、大幅な減少が達成された。その他にも、愛知県、静岡県、千葉県、三重県の負傷事故状況が報道されていて、いずれの自治体においても事故件数は大きく減少している[表1]。

表1 組み体操における負傷事故件数と実施校数の変動(2015~2016年度)
表1 組み体操における負傷事故件数と実施校数の変動(2015~2016年度)

■なぜ減ったのか

なぜこれほどまでに、事故件数が減ったのか。その答えは、「各自治体が組み体操の段数制限(中止を含む)に取り組んだから」に尽きる。

上述の大阪市は、2016年2月に、組み体操において巨大化が進んだ「ピラミッド」と「タワー」の技を禁止とし、さらに4月には2人組の肩の上に一人が立つ「灯台」も禁止とした。その結果、前年度比で7割もの骨折を減らすことができた。

名古屋市は、「ピラミッド」は4段、「タワー」は3段までを目安とし、さらには最上段の児童の足場となる高さを2m以下とするガイドラインを2月に作成・配付し、事故の9割減を達成した。

11/8 静岡新聞:静岡県の小学校における組み体操の実施状況(2015~2016)
11/8 静岡新聞:静岡県の小学校における組み体操の実施状況(2015~2016)

静岡県は、組み体操の具体的な実施状況が明らかになっている。県は今年度、「ピラミッド」は3段、「タワー」は2段までとするよう現場に要請し、その結果、組み方の高層化は抑制され、「ピラミッド」は3段が、「タワー」は2段が主流となった。骨折の件数は、7割も減少した(11/8 静岡新聞)。(なお細かい点であるが、表1にあるとおり、各地の組み体操の実施校数も減少している。この値の読み方については、本記事最下部で、補足として解説する。)

■教育行政が動いた2016年

2016年2月7日:拙稿「組体操 文部科学省が突然の方針転換」
2016年2月7日:拙稿「組体操 文部科学省が突然の方針転換」

各自治体の成果から見えてくるのは、教育行政の対応が、事故防止に重大な役割を果たしているということである。

2016年は、これまで「現場の裁量にまかせる」「介入はしない」と傍観を続けてきた教育行政が、ついに安全対策の要請に舵を切った一年であった。

その動きは2月に始まる。2月3日に、超党派の議員有志が開催した「組体操事故問題について考える勉強会」が発足した。勉強会の発足を受けて、それまで「学校独自に判断すべき」という態度を一貫させてきた文部科学省は、5日についに「重大な関心をもって、このことについて文部科学省としても取り組まなければいけない」(馳浩大臣(当時))と回答したのであった(拙稿「組体操 文部科学省が突然の方針転換」)。

国の態度が変われば、自治体も動きやすい。国に歩調を合わせるかたちで、複数の自治体が組み体操のあり方について、段数の制限等の積極的な介入を進めることになった。

■教育行政が動くことの重大さ

図1 全国の小中高における組み体操の事故件数(2011~2015)
図1 全国の小中高における組み体操の事故件数(2011~2015)

ここで私が「教育行政が動くことの重大さ」を強調するのは、学校現場の自主規制にはあまり期待ができないからである。

事実、教育行政がほとんど動きを見せなかった2015年まで、組み体操の負傷事故件数は、ほぼ変化がない。

組み体操の事故に関する問題は、2014年5月にネット上で火が付いた。それ以降、春と秋の運動会シーズンに合わせて、マスコミは幾度と危険性を訴え、私自身もシーズンごとに複数の記事をネットや雑誌に発表し啓発活動を続けた。2014年の時点で、組み体操を指導してきた多くの学校関係者に、この問題は周知されていたと考えられる。

2015年に入ると、それまで巨大組み体操を普及してきた雑誌や団体は、軒並み「安全」の重要性を説くようになった。教育行政よりも、確実に動きが早かった。

教育行政は「現場の裁量にまかせる」と放任の態度を続け、そして学校現場から漏れ伝わってくる情報は、「例年どおり実施」ばかりであった。

議論は変わったけれども、学校現場は変わらない。それを痛感したのが、2014~2015年にかけてであった。「現場の裁量にまかせる」と言い続ける限り、学校は動けない。こうして負傷事故の全国統計は、2015年度までほとんど変化なく、年間約8000人の子どもが組み体操で負傷していった[図1]。

■「安全な組み体操」の実現に向けて

2016年4月29日:拙稿「緊急特集 『安全な組体操』を求めて」
2016年4月29日:拙稿「緊急特集 『安全な組体操』を求めて」

2016年はその意味で、本当に大きな前進があった。文部科学省や教育委員会が動き、事態の改善が進んだ。

ただ、私が依然として危惧するのは、教育委員会が具体的な規制に踏み込むことなく、現場の裁量にまかせている地域である。実際に、今年の秋の段階でも、巨大なピラミッドやタワーを披露した学校がたくさんある。

また、低い段数だからと油断して、従来どおりの雑な指導により骨折してしまうケースもある。低い段数でも安全は最優先だ。

教育行政主導による、「安全な組み体操」の実現を切に願う。

☆★☆★☆★☆★

2016年を締めくくるにあたって、組み体操の事故減少について報告できることを、この問題に携わってきた一人として、本当にうれしく、またありがたく思う。

組み体操事故の社会問題化において、ネットが果たした役割は大きい。教育行政を動かしたのは、ネット上の一人ひとりの声であると、私は考えている。その声が積み重なって、子どものケガが一つひとつ減っていく。

社会の課題解決は、私たちの手にかかっている。

<補足:「安全な組み体操」の拡がりに期待>

表1に示したとおり、負傷事故の件数だけでなく、実施校数の変動もいくつか明らかになっている。ここで確認したいのは、おおむね実施校数の減少幅以上に、負傷事故件数の減少幅が大きい点である。

たとえば名古屋市は、実施校数は23.8%の減少幅にとどまっているが、負傷事故件数は89.3%もの減少幅である。素朴に考えると、実施校が約2割減れば、事故件数も約2割減る。だが実際にはそれ以上に事故件数が減っている。

つまり、単純に組み体操を取りやめにしたから事故件数が減っただけではなく、組み体操を実施した学校が、従来よりも安全面に積極的に配慮したからこそ、事故件数が大幅に減ったと考えるべきである。その意味で、「安全な組み体操」が全国に拡がりつつあると期待される。