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不登校「先生が原因」 認知されず ―学校調査と本人調査のギャップから考える

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
教師との関係を不登校の理由とするのは、学校と本人との間で約16倍の開きがある。

■不登校の理由 本人への調査はナシ?!

学校における、いじめ、暴力行為、不登校、自殺などの現況が集約される「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」が、今年で50回目を迎える。

「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」のページ
「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」のページ

1966(昭和41)年度の「不登校」(当時は「学校ぎらい」)に関する調査に始まり、今日ではさまざまな項目が追加されている。毎年、秋頃に結果が発表されており、2015(平成27)年度の結果もそろそろ発表されるのではないかと考えられる。

さて、この長らく調査されてきた「不登校」について、気がかりなことがある。不登校の調査結果を見てみると、小中別、国公私立別、学年別の不登校児童生徒数といった基本的な数値にくわえて、各児童生徒が不登校になった理由や不登校を続けている理由など、実情により踏み込んだ分析がある。

ところが、不登校経験者たちに話を聞くと、「調査目的で不登校の理由を聞かれたことは一度もない」というのだ。調査されていないのに、数字が公表されている。これはいったいどういうことなのか? そして、その公表されている数字は、不登校経験者の認識とどれくらい合致しているのだろうか。

■不登校経験者が覚えた違和感

イメージ画像 提供:写真素材 足成
イメージ画像 提供:写真素材 足成

先に結論の一部を述べるならば、「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」は、学校が回答したものである。したがって、不登校になった理由というのも、学校がそう判断したに過ぎないのであって、本人がどう思っているかとは、一致しない可能性がある。

私がこうした関心をもったのは、自らも不登校経験のある石井志昂氏(不登校新聞社編集長)から問題提起を受けたためである。石井氏は、「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」において、不登校をした本人の意見が反映されないままに調査が実施され、不登校の理由が語られていくことに違和感をもったという。とくに学校側が、教師との関係を「不登校の理由」にあげる割合が、極端に少ないのではないか、というのだ。

じつは、不登校経験者に直接質問をした調査が存在する[注1]。調査では、かつて中学校で不登校を経験した生徒に追跡調査を実施し、不登校当時やその後の状況が尋ねられている。成果は、2014年7月に、『平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書』として公表されていて、そこには不登校になった理由について回答の結果が示されている。

■不登校になった理由は複数ある

不登校になった理由:不登校経験者本人への調査
不登校になった理由:不登校経験者本人への調査
不登校になった理由:学校への調査
不登校になった理由:学校への調査

はたして、学校が回答した「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(以下、適宜「学校調査」)と、不登校経験者本人が回答した追跡調査(以下、適宜「本人調査」)との間には、どのようなちがいがあるのだろうか。

本人調査は、2006年度時点で公立の中学3年生であり不登校であった者を対象としている。したがってここで比較対象とすべきは、2006年度時点の学校調査(「平成18年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」)における公立中学校のデータである。

両調査の対象者や「不登校の理由」に関する質問内容は、厳密には同じものではないが、いくつかの点で十分に比較可能である[注2]。まず全体的な傾向として目につくのは、「不登校の理由」14項目全般において、本人調査の値が学校調査の値より大きい点である。つまり、不登校経験者のほうが学校よりも多く、複数の「不登校の理由」を選んでいるということになる。

本人調査では一人あたり2.8項目(4,486÷1,604)、学校調査では一人あたり1.2項目(115,411÷99,959)が、不登校の原因としてあげられている。大まかに言えば14項目のなかでは、本人は不登校になった原因を約3つ選び、学校はおおよそ一つに絞っているということである。

本人の目線からすると、不登校に至るにはさまざまな要因や問題がある。だが学校側は、そうした複合的な原因とはとらえていないようである。

■不登校の理由は先生にもある? 認識のギャップ

学校調査と本人調査における認識のギャップ
学校調査と本人調査における認識のギャップ

14項目の「不登校の理由」には、親、友人、教師との人間関係が含まれている。両調査ともに、人間関係のなかでもっとも数値が高いのは、友人との人間関係である[注3]。この点は想像に難くないが、この記事でむしろ強調したいのは、学校側と本人側との認識のギャップである。

図を見てほしい。まず「親との関係」を原因と考える割合を見てみよう。不登校の理由には、親の影響があると考えるのは、学校調査も本人調査もそれほど大きなギャップはなく、1.5倍の開きにとどまっている。次に「友人との関係」を原因とみるのは、3.2倍の開きがある。

ここまでであれば、学校と本人の間のギャップは、複数の原因を選ぶかどうかの範疇にとどまる。上述のとおり、不登校経験者は複数の原因を指摘する傾向(一人あたりで、本人調査では2.8個、学校調査では1.2個の原因)があるため、いずれの項目においても2~3倍の開きが出てしまうからだ。

イメージ画像 提供:写真素材 足成
イメージ画像 提供:写真素材 足成

だがその範疇を超えて問題なのは、「教師との関係」である。学校調査では教師が原因であるとの回答は1.6%(学校調査のなかでは、もっとも数値が小さい)にすぎないが、本人調査では26.2%にもなる。学校と本人の間に16.3倍の開きがある。本人としては、「先生のせいだ」と思っていても、学校側はまるでそのようには考えていないということだ。

「不登校は先生のせいだ」ということが言いたいのではない。大事なことは、認識のギャップを認識するということだ。本人と学校が、まったく異なる「不登校の理由」を思い描いていては、会話さえ成立しない。

子どもの声をちゃんと拾い上げること、これは学校や教育行政そして私たち大人全員に課せられた作業である。

[付記]

石井志昂氏からの問題提起を受けて分析した結果の一部は、すでに石井氏に回答済みである。その回答をもとに、不登校新聞においても記事が発表されている(10/15『不登校新聞』444号)。細かい点で数値の扱い方が本記事とは若干異なっているものの、基本的には同様の結果が示されている。

[注1]文部科学省が省内に「不登校生徒に関する追跡調査研究会」を設置して実施したもので、いじめや不登校の研究で日本の教育界をリードしてきた森田洋司氏(鳴門教育大学特任教授)が研究会の座長を務めた。

[注2]「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」に記載されているのは、不登校となった生徒全員である。他方で、追跡調査では、2006年度当時に中学3年生で不登校であった生徒のなかで、2011年に「調査の協力に応諾した者」(調査実施は2012年)である。また、不登校の理由については、両調査ともに14項目があげられており、各項目の類似性も高い。そのなかでも本記事が扱う、親/友人/教師との人間関係については、質問項目の類似性はとりわけ高いと考えられるため、比較検討の対象とした。

[注3]「友人との関係」の数値は、学校調査では「いじめ」と「いじめを除く友人関係をめぐる問題」の合計値、本人調査では「友人との関係」と「クラブや部活動の友人・先輩との関係」の合計値とした。また、「親との関係」の数値は、学校調査では「親子関係をめぐる問題」、本人調査では「親との関係」を参照した。「教師との関係」の数値は、学校調査では「教職員との関係をめぐる問題」、本人調査では「先生との関係」を参照した。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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