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学校柔道 121件目の死亡事故 中上級者の頚部事故に向き合う

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

■今年もまた…

人知れず、学校の柔道でまた生徒が死亡した。事故が起きたのは4月25日、そして今月の10日に死亡、河北新報が第一報(「柔道の試合後に部員死亡」)を13日に報じた。学校の柔道では1983年度以降、121件目の死亡事故である。

世界柔道選手権大会で袖釣込腰をかけた際に頚部を損傷した事例(全柔連『柔道の安全指導〔第4版〕』)
世界柔道選手権大会で袖釣込腰をかけた際に頚部を損傷した事例(全柔連『柔道の安全指導〔第4版〕』)

私が知る限り、この事案を報じたのは河北新報(続報1本を含む)のみである。この重大事案は、いまにも忘れ去られようとしている。

重大事故の防止においてもっとも大切なのは、重大事故から学ぶことである。各事案がまるでなかったかのように忘れ去られていけば、私たちは何も学ぶことができず、また同じ事故が繰り返されていく。

■頚部を損傷

頸髄損傷のメカニズム(全柔連『柔道の安全指導〔第4版〕』)
頸髄損傷のメカニズム(全柔連『柔道の安全指導〔第4版〕』)

この事故は、柔道における典型的な頚部外傷の事案である。

事故は、仙台市内の私立高校で起きた。亡くなったのは柔道部3年の男子生徒。県高校総体への出場者を決める部内の選考会で、試合に出ている最中の出来事であった。

生徒は投げ技をかけた際に、バランスを崩して頭から倒れていき、頸椎と脊髄を損傷したという。すぐに病院に運ばれたものの、約2週間後に帰らぬ人となった。

■ラグビー、柔道、水泳に多い頚部外傷

学校におけるスポーツ事故の実態を調べてみると、頚部外傷による死亡事故は、それほど多くは起きていない[注1]。頚部の事故の場合、(柔道に限らず)死には至らずとも、(重度の)障害を残すケースが多い。

学校管理下の事故については、「障害」というカテゴリで事故事例を集約・分析することができる。そこで、主要部活動にける20年分(1994-2013年度)の「障害」事例を拾い上げて、分析にかけた[注2]。

高校の主要部活動別にみた過去20年間における頚部外傷による障害事故の発生率
高校の主要部活動別にみた過去20年間における頚部外傷による障害事故の発生率

まず頚部外傷による障害事例について、高校における事故の発生率を算出すると、ラグビー、柔道、水泳が、他の競技種目と比べてとくに発生率が高いことがわかる。柔道事故についてはここ数年、頭部外傷(脳振盪や急性硬膜下血腫)の危険性が繰り返し指摘されてきたが、頚部外傷についてはまだ注意喚起が不十分である。頚部外傷に関して、事故実態の検証と事故防止の啓発が不可欠である。

■中上級者における頚部の事故

頭部外傷による障害事故は、中高いずれも初心者に起きやすい
頭部外傷による障害事故は、中高いずれも初心者に起きやすい
頚部外傷による障害事故は、中上級者に起きやすい
頚部外傷による障害事故は、中上級者に起きやすい

次に、柔道に絞って、学年別の件数を調べた。頭部外傷による障害と比較すると、頚部外傷の特徴がはっきり浮かび上がってくる。

頭部外傷は中学校と高校いずれも一年生で多発している。初心者に事故が起きやすいとみるべきであり、これは柔道関係者の間で周知の事実となっている。

他方で、頚部外傷は中学校よりも高校で多く発生し、さらに2年生や3年生で事故が起きている。頭部の事故が初心者であったことを想起するならば、頚部の事故は中上級者あるいは実力者に起きやすいと言うことができる。なお、全日本柔道連盟『柔道の安全指導〔第4版〕』においても、「初心者ではなく、ある程度の柔道経験者が受傷」と指摘されている。

■試合と練習

頚部外傷による障害事故は、練習よりも試合中に起きやすい
頚部外傷による障害事故は、練習よりも試合中に起きやすい

最後に、試合と練習のちがいを示したい。引き続き、頭部と頚部の事故を比較してみると、頭部外傷による障害事故のうち、試合中に起きているのは19.0%に過ぎない。

他方で、頚部外傷の場合には、試合中が65.0%を占めている。試合時間は練習時間に比べれば、時間も日数もかなり限られているはずであるから、試合中における頚部外傷の発生頻度(密度)はかなり高いと言える。

そして、さきほどの学年別の分析も踏まえるならば、頚部外傷の事故は、中上級者が真剣勝負を繰り広げるなかで起きているとみることができる。

■事故防止に向けて

今回の仙台の事案は、高校3年の男子生徒が、県大会出場のための学内選抜の試合に出場するなかで発生した。状況からは、それなりに実力がある者どうしの闘いだったと推察される。

頸部の事故は、実力者たちが投げたり投げられたりするなかで、何とか勝とうとあるいは負けまいと、体勢に無理を強いるなかで起きていると考えられる。初心者が頭部を損傷する事故と異なり、中上級者が真剣勝負で頚部を損傷する事故を防ぐのは、けっして容易ではない。

内田良「柔道事故 死亡ゼロが続いていた」(2014年12月7日)
内田良「柔道事故 死亡ゼロが続いていた」(2014年12月7日)

しかし、だからといって諦めては、事故は繰り返されるだけである。かつては柔道の頭部外傷でさえ、「柔道だから仕方ない」と言われたものだ。それでも、全日本柔道連盟が安全対策に乗り出し、重大事故は一気に減少した「柔道事故 死亡ゼロが続いていた」※ただし、昨年度に死亡ゼロ記録は止まる)

頸部の重大事故を、いかに減らすことができるか。今回の事故を忘れ去ることなく、大事な教訓として、私たちはここから学んでいかなければならない。

[注1]

筆者の集計では、1983~2014年度までにおいて部活動時の死亡事故では、頭部外傷によるものが178件、頚部外傷によるものが12件である。

[注2]

学校管理下の事故については、「障害」というカテゴリで事故事例を集約・分析することができる。そこで、日本スポーツ振興センター刊の事故事例集をもとに、主要部活動にける20年分(1994-2013年度)の「障害」事例を拾い上げて、分析にかけた。

障害事故の発生率の算出にあたっては、頚部外傷による障害事例について、高校で発生した事故件数を各部活動の部員数で除した。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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