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岐阜でプール飛び込み事故 学校のプール 溺水防止で低い水深

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
スタート台からの飛び込みによる頸髄・頸椎の損傷(高木 1994)

■岐阜で救急搬送 全身にしびれ

また、プールの飛び込み事故が起きた。

岐阜県多治見市立の中学校で、6月26日(金)の午前、体育の授業中にスタート台からプールに飛び込んだ3年生の男子生徒が、プールの底で頭部を打った。生徒は救急搬送され、命に別状はないものの、27日の時点でも全身がしびれた状態にあるという(詳しくは「産経WEST」

26日といえば、私がまさに「くり返されるプール飛び込み事故 底に激突 頭頸部の重度障害」と題する記事を発表し、飛び込み事故への警鐘を鳴らした日である。過去31年間に、学校のプールで169件の飛び込みによる障害事故が発生している。記事は、ヤフートピックスにも取り上げられ、大きな反響を呼んだばかりであった。

■水深は1.1m 溺水防止を目的とした浅い水深

記事の反響のなかには、「私も頭を打ったことがある」という経験談がいくつもみられた。私の身近にも経験者がいる。幸いにしてその方々は大事には至らなかったものの、それくらいにプール底への激突は頻繁に起きているのである。

飛び込み事故が起きる最大の要因は、水深の浅さにある。じつは学校のプールは、「溺水」の防止を想定して設計されているために、水深が低い。逆にいうと、そもそも飛び込みをするには、十分な深さが確保されていないのである。

日本水泳連盟のプール公認規則によると、競泳競技会用のプールとしては、国際大会用で水深3m以上、国内大会用(全国大会)で水深2m以上が推奨されている。他方で、多治見市の事故では、水深は1.1mであったという。昨年にN市で起きた中学2年生の重度障害事故も、水深は1.2mであった。

■学習指導要領では「水中からのスタート」

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1mとちょっとの水深。スタート台という高い位置からその浅い水深に向けて飛び込めば、事故が起きるのももっともである。

上述の障害事故事例169件のなかには、プールサイドからの飛び込みで障害が残ったものもある(全169件の事故事例概要は、「学校リスク研究所」にて無料で公開中)。プールサイドからでも底に頭部を打ちつけてしまうほどに、学校プールの水深は浅い。

中学校の学習指導要領では、スタートに関しては「水中からのスタート」とするべきことが明記されている。多治見市の中学校でどのような指導があったのかはまだわからないものの、スタート台あるいはプールサイドからであっても、飛び込みは絶対に禁止されるべきである。

なお、高校では現行の学習指導要領では、「段階的な指導」のなかで「飛び込みによるスタート」が教えられる。中学校と高校でプールの構造が大きく変わらない以上は、高校においても飛び込み指導は禁止されるべきであろう(高校のほうが中学校より水深はあるかもしれないが、その分、生徒の体格も大きくなっている)。

飛び込みができるに越したことはない。だが、重大なリスクを冒してまで、浅いプールで飛び込みを習得すべき理由はない。

■同じ事故がくり返される

すでに述べた昨年のN市における重度障害事故においても、生徒はスタート台から飛び込みをしてプール底に激突し、首の骨を折った。今回の多治見市の事例もまた、残念ながらまるで「コピペ」のような事故である。

事故が「コピペ」される理由は、簡単である。過去の重大事故から、私たちが学ぼうとしないからである。N市の事例はけっして教訓とされることなく、また同じ事故が起きてしまった。

今回の多治見市の事故は、私が調べた限り、「産経WEST」で報道があっただけである。ほとんど誰の目にも触れることなく、そして、何の警鐘も鳴らされることなく、同じ事故がくり返されていく。私たちが声をあげない限り、きっとまた同じ悲劇が続くことになる。

<文献>

有田一彦、1977、『あぶないプール』三一書房。

高木英樹、1994、「人体による安全なスタート及び危険なスタート動作のシミュレーション」合屋十四秋他『平成4・5年度文部省科学研究費補助金(総合A)研究成果報告書』,20-27.

高嶺隆二、1992、「水泳授業中の事故に関する一考察―逆飛込み事故の原因とその指導法について」『体育研究所紀要』(慶應義塾大学)32(1): 65-79.

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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