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体罰には甘い処分 「懲戒免職」はゼロ 処分件数の多さに目を奪われるな

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

■処分件数の多さに目を奪われてはならない

文部科学省が、30日、2013年度の全国公立学校における教員の懲戒処分状況を発表した。そのなかで注目されたのが「体罰」であり、マスコミは一斉に「過去最多」「大幅増」「4000人処分」といった見出しをつけた。

危機感を煽るかにも思える見出しのわりには、記事の中身は冷静なものが多かった。たしかに、「体罰」の処分件数は3953件と,昨年度の2253件よりも約1700件も増加している。だが、「各自治体で実態把握や処分の厳格化が進んだことが背景にある」(毎日新聞)、「体罰に対する認識が変わり実態が把握されるようになった」(NHK)とあるように、処分件数が増えたのは、暴力的な教員が増えたというよりは、「体罰」に対する行政や学校の認識が厳しくなったからだといえる。

■本当に「体罰」への対応は厳しくなったのか?

ただし、それらの記事が報じていないことが一つある。それは、処分の重さである。

2013年度、車の「飲酒運転」では、68件の処分があり、うち約半数の33件がもっとも厳しい「懲戒免職」の処分を受けている。また、「わいせつ」行為についてはさらに厳しく、205件の処分中、約6割にあたる117件が「懲戒免職」である。

他方で、「体罰」はというと3953件の処分のうち「懲戒免職」は、なんとゼロ件である。生徒の被害のなかには、鼓膜損傷が24件、骨折・ねんざが31件ある。「わいせつ」行為では6割が「懲戒免職」とされているのとは、対照的である。

「体罰」は、たしかにたくさん発覚するようになった。でも、発覚してもその処分はじつに甘い。マスコミの報道からは「体罰への対応が厳しくなった」かのような印象を受けるが、現実にはそのような傾向は認められない。

■「体罰」に寛容な教育界

「体罰」事案への処分が甘いのは、2013年度に限ったことではない。

「体罰」の処分件数は多いが、懲戒処分はほとんどない
「体罰」の処分件数は多いが、懲戒処分はほとんどない

文部科学省のウェブサイトで処分関係のデータが入手できる2007年度以降をみてみると、グラフにあるとおり、「体罰」は他の問題行為と比べて処分件数は圧倒的に多いものの、「懲戒免職」の件数はほとんどゼロに近い(計3件)【注】。

部活動の指導のなかで、リンチに近い暴力があっても、「教育の一環です」という主張がまかりとおることさえある(「体罰」教員、懲戒免職0.08%の怪「リンチでも、責任が問われない!」)。

「体罰」に教育界が寛容であることについて、私たちはじっくりと向き合っていく必要がある。

注:図のなかにある「傷害・暴行等(一般)」というのは、たとえば教員が休日に学校の外で一般人に対して傷害を負わせたような場合を指す。学校管理下で子どもに傷害を負わせたような場合には、「体罰」でカウントされている。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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