全柔連と事故被害者の会 歴史的歩み寄り――シンポジウム開催「子どもを守る“安全の両輪”にしたい」

シンポジウム「柔道事故をどうなくすか」6/29(日)12時~ @日本青年館

被害者不在のパフォーマンス

全日本柔道連盟(全柔連)が、ついに事故被害者と手を組む。全国柔道事故被害者の会が主催するシンポジウムに、急遽、全柔連関係者の登壇が決定したのである。

これまで学校管理下だけでも、30年間で118名の中高生が柔道で命を落としてきた。主要部活動のなかで、柔道部の死亡率は断トツだ。これほどまでに重大事故が続いてきたにもかかわらず、全柔連は事故被害者の存在にまったく目を向けようとしてこなかった。

2009年冬頃から、全柔連が遅まきながら重大事故に関心を示すようになったことは確かである。しかしながら、それがパフォーマンスにしか見えないことは、被害者とその家族が誰よりも強く感じてきた。なぜなら、2010年以降の個別の重大事故発生においても、または個別の民事裁判においても、全柔連は相変わらず何のコメントも発表せず、まるでそんな被害者などどこにもいないかのような態度をとってきたからである。全柔連は重大事故に本気で向き合おうとしているのか、被害者の不信は深まるばかりであった。

被害者の会と全柔連の動き(2009~)
被害者の会と全柔連の動き(2009~)

突如おとずれた雪解けの機会

全柔連の態度に大きな変化が見られたのは、4月30日のことであった。松本市の柔道教室で起きた事故の刑事裁判(柔道事故としては日本で2例目)で指導者に有罪判決(詳しくは「柔道事故――強制起訴の刑事裁判で画期的な有罪判決」を参照)が下されたとき、全柔連は判決直後に都道府県連盟に対して安全指導に関する通達を発出したのであった。この対応には、被害者の会メンバーは皆、驚かされた。

これまで全柔連が、個別の事例に対して公に反応を示す(裁判対応は除く)ということはなかった。2013年8月より新会長の宗岡正二氏(新日鉄住金代表取締役会長)の体制に移り、全柔連はようやく内部からの組織改革に着手したようである。

全柔連がいま、本気で安全対策に乗り出そうとしてる――被害者の会会長の村川義弘氏はこの期を逃さなかった。上記の松本市柔道教室の判決において、指導者側が控訴せずに有罪判決が確定したのが5月15日。全柔連からはすぐに通達が出され、被告人からの控訴もない。この新たな潮流に敏感に反応した村川会長は、全柔連との協働を模索するようになる。

シンポジウムへの講師派遣――全柔連「ぜひ、やりましょう」

5月30日、これまで被害者の会と個人的につながりのあった全柔連幹部1名が仲介役となって、東京で全柔連の上層幹部2名と被害者の会の村川会長・澤田副会長が面談をおこなった。被害者の会からは、安全な柔道を確立するための要望書案が全柔連側に示された。そのなかの一つが、被害者の会主催のシンポジウムに、全柔連の幹部クラスに登壇してもらうということであった。提案を受けて、上層幹部はその場で「ぜひ、やりましょう」と即断だったという。

全柔連の命を受けたのは、全日本柔道連盟総務副委員長の経験もある正木照夫氏(八段、正木道場館長)である。松本市柔道教室の裁判でも、有罪判決に影響を与える重要な証言をしている。これまで被害者の会主催のシンポジウムでは、バルセロナ五輪銀メダリストの溝口紀子氏が何度か登壇し、報告をおこなっている。ただしそれは毎回、溝口氏個人の活動であり、けっして全柔連の看板を掲げてのものではなかった。なお今回、溝口氏はコーディネータとして、全体の調整役を務める。シンポジウム「柔道事故をどうなくすか」は、6月29日(日)の12時より、場所は日本青年館(501会議室)で開催される。私、内田良も登壇する。参加申し込みは、全国柔道事故被害者の会のウェブサイトを参照。

被害者の会の村川会長の言葉が、私の耳に強烈に残っている。「全柔連のことを許せないと思うこともあります。でもそうやって敵対していても、何も進まないんですよ。全柔連と被害者の会が“安全の両輪”となることこそが、子どもの安全を守るにはもっとも効果的な方法なんです」。

全柔連関係者たちも、きっと同じ気持ちだろう。子どもを守るために、私たちは必ずや協働できるはずである。当日は、私たちがよく知る柔道家も、複数名出席するとの情報もある。登壇者もさることながら、出席者からも目が離せない。