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2019年版QSアジア大学ランキングが公開。日本の大学の地位をどう読むべきか。

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

著名な世界大学ランキングのひとつQSの2019年版アジア大学ランキングが公開された。

たとえば日本語で読めるものなら以下のようなものがある。

19年版「アジア大学ランキング」発表 日本の大学は……- ITmedia ビジネスオンライン

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1810/24/news117.html

なおQSの元サイトはこちら。

また東大がアジア11位に「上昇」したことを見出しにし、肯定的に捉える報道も出ている(ただし、記事中には「日本の89校のうち77校で、今年度は(昨年より)低いランクとなっております」とも書かれている)。

QSアジア大学ランキング発表、東京大学は11位へ上昇

https://www.sankei.com/economy/news/181024/prl1810240017-n1.html

トップ10に目を向けてみると、内訳は中国3校、香港3校、シンガポール2校、韓国2校となっている。

QS ASIA 2019(https://www.topuniversities.com/university-rankings/asian-university-rankings/2019より引用)
QS ASIA 2019(https://www.topuniversities.com/university-rankings/asian-university-rankings/2019より引用)

日本からのランクインは昨年に引き続きゼロ。日本の上位5大学は11位に東大、14位に京大、16位に大阪大学、18位に東京工業大学、23位に東北大学となっている。私大の上位5校は36位に早稲田、42位に慶應、133位に東京理科大、163位に立命館、165位に上智大学。年長の読者の方などは「日本の大学はアジアトップ」と未だに誤解しているかもしれないので、念の為、再度強調しておくが、これは世界ランキングではなく、アジアランキングにおける位置付けである。

もうひとつ有名な世界的な大学ランキングにタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)がある。「ランキングの評価方法が異なると順位が大きく変動するのでは」という疑問もあるので、そちらのアジア版も確認しておきたい。

THE ASIA 2018トップ10大学(https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2018/regional-ranking#!/page/0/length/25/sort_by/rank/sort_order/asc/cols/statsより引用)
THE ASIA 2018トップ10大学(https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2018/regional-ranking#!/page/0/length/25/sort_by/rank/sort_order/asc/cols/statsより引用)

こちらは現時点では2018年版だが、アジアトップ10の内訳は香港3校、中国2校、シンガポール2校、韓国2校、日本1校(東大)となっている。日本の上位5校は8位に東大、11位に京大、28位に大阪大学、30位に東北大、33位に東京工業大学。私大上位5校は127位に慶應、135位に早稲田、151位に順天堂大、175位に東京理科大、201-250位に慈恵医大となっている。

どちらかといえば、QSのほうが日本の大学が甘めに評価されているようにも見える。QSとTHEのランキングのスコア算出基準はどうなっているのだろうか。下記がそれぞれの算出方法の元サイトである。

なお日本語で読める簡易なものがないかと検索していたら、九州工業大学が作成した資料が見つかった。

「Quacquarelli Symonds : QS」と「Times Higher Education : THE」 による世界大学ランキング(アジア)について

http://www.kyutech.ac.jp/archives/025/201607/ranking_asia2016.pdf

QSの指標は以下のとおり。

  • Academic reputation (30%)
  • Employer reputation (20%)
  • Faculty/student ratio (10%)
  • International research network (10%)
  • Citations per paper (10%) and papers per faculty (5%)
  • Staff with a PhD (5%)
  • Proportion of international faculty (2.5%) and proportion of international students (2.5%)
  • Proportion of inbound exchange students (2.5%) and proportion of outbound exchange students (2.5%)

https://www.topuniversities.com/asia-rankings/methodologyより引用)

なおTHEの指標は次のようになっている。

  • Teaching (the learning environment): 30%
  • Research (volume, income and reputation): 30%
  • Citations (research influence): 30%
  • International outlook (staff, students, research): 7.5%
  • Industry income (knowledge transfer): 2.5%

https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/methodology-world-university-rankings-2018より引用)

指標の計算方法も異なるのでいささか厳密さは欠くが両者を眺めてみると、QSは評判(reputation)の割合が大きくなっていることがわかる。「Academic reputation」と「Employer reputation」を足し合わせると50%が評判に割かれている。それに対してTHEでは「Research (volume, income and reputation)」30%のなかに「Reputation survey」が18%織り込まれている。タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが毎年実施する「Academic Reputation Survey」の結果を反映しており、要するに全体の5.4%が割り当てられている。学術と大学の自律性や相互評価(審査)の伝統を考えると評判を考慮するのは当然だが、相対的に評判が重視されるランキングで日本の大学は高く評価されているといえそうだ。

さしあたりQSの日本上位2校を見てみると、首位の東大のスコアの構成は下記のようになっている。

  • Overall Score: 85.3
  • Academic Reputation: 100
  • Employer Reputation: 99.5
  • Faculty Student: 94.2
  • Citations per Faculty: 72.2
  • International Faculty: 12.3
  • International Students: 25.5

https://www.topuniversities.com/universities/university-tokyo#888193より引用)

なお2位の京大のQSスコア構成は下記のとおり。

  • Overall Score: 81.2
  • Academic Reputation: 98.6
  • Employer Reputation: 93.2
  • Faculty Student: 95.7
  • Citations per Faculty: 56.6
  • International Faculty: 17.4
  • International Students: 18.2

https://www.topuniversities.com/universities/kyoto-university#888193より引用)

なお、アジア首位のシンガポール国立大学のQSスコア構成は下記のようになっている。

  • Overall Score: 92
  • Academic Reputation: 99.8
  • Employer Reputation: 99.1
  • Faculty Student: 91.8
  • Citations per Faculty: 72.8
  • International Faculty: 100
  • International Students: 80.7

下記がアジア2位の香港大学のQSスコア構成である。

  • Overall Score: 84.3
  • Academic Reputation: 96.7
  • Employer Reputation: 83.7
  • Faculty Student: 88.1
  • Citations per Faculty: 47.1
  • International Faculty: 100
  • International Students: 99.4

アジアトップ2と日本のトップ2の比較では、前者が主に実態面で評価され、後者が評判で評価されていることがわかる。厳密には量を増やし、またTHEのスコア傾向とも比較する必要があるものの、仮説としては気になるところである。他の環境(変数)が変化しないのであれば、実態が評判を上回っていればいずれ評判も改善していくと考えやすいのに対して、実態が評判に劣る場合、将来的に評判が改善していくとは考えにくくそちらも低下していくと考えるのが自然だからである。さしあたり今回のQSのランキングをぬか喜びしてはならないということはいえそうである。

なお日本の大学の世界ランキングにおける低迷や現状については、以下のようなエントリを書いたことがある。あわせて読んでみてほしい。

日本の大学に統廃合は本当に必要か?(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20180725-00090688/

なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20161101-00063990/

国立大学の現状についての基本的な4つの誤解について(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20161127-00064861/

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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