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派閥って何?総裁選の前に自民党の派閥について知っておきたいこと。

増澤陸チーフ図解オフィサー

安倍晋三首相が総理辞任の意向を示し、後任選びが激しさを増しています。その中で自民党の「派閥」についても話題に出ることも多くなってきました。一体、この「派閥」とは何なのでしょうか?自民党の派閥についてまとめてみました。

1. 公的な制度・組織ではない。

まず、派閥は法的に定められた制度でもなければ、自民党のルールで決められた組織でもありません。政策に関する任意の勉強会です。大規模なものになると事務所があり、専任の職員を雇っていたりしますが、小さなものでは法人化されているかどうかさえはっきりとは分かりません。政治家による任意のグループ。という位置づけです。

2. 正式名称は別にある。

「岸田派」「麻生派」など、人名で呼ばれる派閥ですが、実際には政策勉強会の名前があることが普通です。下記がその一覧です。必ずしも会長と派閥の通称が一致しているわけではありません。過去には報道機関によって呼び方が異なる場合もありました。

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菅氏は派閥に所属はしていませんが、昨年「令和の会」を作り、菅グループを率いています。

3. 派閥の役割って何?メリットは?

自民党「一強」の実像(中北浩爾 著 中公新書)によれば、派閥の役割とは下の5つに集約されます。

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誰を担いで総裁にするか?次の選挙はどう戦うかといった点で各グループに分かれています。

派閥に所属する議員はそのボス(領袖)を自民党総裁に推薦します。

その見返りとして、各所属議員は金銭的な支援を派閥から得ていました。盆や正月に「氷代」「餅代」が。選挙の際には選挙資金として1,000万円近いお金が渡されることもあったようです。

一方で、近年は政党交付金が国から党に配られ、党から派閥を介さずに議員に直接お金を配られるようになりました。政治資金の点では派閥の役割は小さくなってきているようです。

4. 派閥が総理を決める?

日本国憲法の下では、内閣総理大臣は下記のルールで決められることになっています。

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国民が国会議員を選び、国会の指名に基づいて、天皇が内閣総理大臣を任命します(憲法6条)。

ところが、実際には与党内に派閥があり、内閣総理大臣の推薦は派閥ごとに行われるのでこういった形になっています。

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国民が国会議員を選び、国会議員はそれぞれ党に分かれ、党の中でも派閥に分裂し、派閥の推薦で誰が内閣総理大臣を指名するか、が決められます。

これまで、自民党政権下においては、それぞれの派閥の領袖(トップ)が総理大臣として選ばれてきました。もちろん、最大勢力の派閥のトップが総理になりやすいわけですが、それだけというわけでもなく、さまざまな綱引きや、時には世論の影響を受けたりもして、誰を指名するかが決められてきました。

公的な制度ではない派閥の論理で内閣総理大臣が決まってしまうこともあることから、密室政治であるなどと批判もされています。逆に、政治記者などにとっては、派閥の歴史や力関係を学ぶことは政治の取材をする上では必須のこととなっているようです。

5. いまの派閥の勢力図は?

過去3年間、細田派の優位が続いています。細田派は安倍晋三首相の所属する派閥でもあります。(ただし、慣例上、党の重要役職についている間は派閥を離脱することになっており、現時点で安倍氏は派閥を離脱していることになっています)

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6. 派閥のない時期もあった?

自由民主党は結党以来、何らかの形で常に分裂しています。ただし、小泉純一郎氏が総理のときは、脱派閥が掲げられ、実際、大臣の指名において派閥を無視した人選が行われたり、新人議員(いわゆる小泉チルドレン)に対して、一定期間、派閥に入会しないように、という指示が出されたこともありました。

そこのころから官邸主導の政治となり、派閥の色合いというのは薄れてきています。

7. これから派閥はどうなるのか?総裁選は?

金銭的なメリットは薄れてきていますが、政策実現や陳情の処理など議員として仕事をするためには人的ネットワークはあって困るものではありません。近年では総裁選びと人的ネットワークが派閥の利点になっているようです。

1998年以降、清和会出身者が次々に首相になる(森喜朗、小泉純一郎、福田康夫、安倍晋三)など、派閥色が強くなっているとも見られます。

この記事の執筆時点において、下記の方が、自民党総裁選挙への出馬の意向を明らかにしています。

・岸田文雄氏 (岸田派)

・石破茂氏  (石破派)

・菅義偉氏  (無派閥・菅グループ)

このうち、菅氏は会見において、当選した場合、政策上は安倍政権の路線を引き継ぐと表明しています。そうした中、細田派、麻生派、二階派など5派閥が菅氏を支持すると報道されています。これらの派閥の議員数を加算すると自民党の議員数の7割を超える状況です。(9月2日17:30時点)

派閥の後押しはあるものの、菅氏有力のまま総裁に決定すると、無派閥での総理・総裁の誕生ということになります。

逆に、なぜ岸田氏、石破氏が劣勢にも関わらず立候補するのか?そこには次を見越した組織固めなど、いろいろな思惑があるのだと思います。

派閥の論理で内閣総理大臣や閣僚決められるとすると、国民にとっては、自分たちの知らないところで決められたという印象が強くなります。そのため、かりに派閥の力関係で決まったとしても、その後すぐに解散総選挙をして、新しい内閣総理大臣の元で国民に信を問うなど、わかりやすい形、民意を反映した形での政治に期待したいと思います。

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参考図書

自民党ー「一強」の実像 中北浩爾 著  中公新書

図中の人数、派閥の情報等は国会便覧(シュハリ・イニシアティブ)を元に筆者が作成しています。2020年2月時点の情報を参考にしており、それ以降の辞職・離党・派閥の変更等をすべて反映しているわけではありません。谷垣グループは無派閥に分類しています。

チーフ図解オフィサー

東京都在住のブロガー・ITコンサル。経済・経営の話題を中心に図解でわかりやすく解説することに定評がある。ブログ『それ、僕が図解します。』は、個人運営ながら、時には月間訪問者数20万人を超える人気ブログとなっている。世の中の分かりにくいことや納得の行かないことを少しでも減らすことを目標としている。図解を始めたのは約20年前から。仕事に必要な画面遷移図を描き続けているうちに、何でも図で説明できるようになった。得意としているのは、経済・経営、不動産、税金、終活・相続など。著書:『デジタルコンテンツ白書』編集委員(2007−2014)等 京都大学農学部卒。宅地建物取引士。相続診断士。

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