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「THE FIRST」発のBE:FIRST SKY-HIとともに目指す新たなスタンダード

レジー音楽ブロガー・ライター
(写真:アフロ)

育成プログラムとしての「THE FIRST」

日本テレビ系「スッキリ」およびHuluにて春先から放送・配信されていたオーディション「THE FIRST」が8月13日に完結。7人のボーイズグループ「BE:FIRST」のメンバーが発表され、オーディションを主催した「BMSG」の社長を務めるラッパーのSKY-HIも「スッキリ」への出演や記者会見などのメディア対応をこなしました。

「世界に通用するボーイズグループを作る」というSKY-HIの志とともに始まったこのオーディション。参加者のハイレベルなパフォーマンスやライバル同士の絆、さらにはオーディション中にSKY-HIから発せられる的確かつ相手へのリスペクトが伝わるアドバイスが大きな話題を呼び、スタート時から徐々に支持を拡大。「スッキリ」放送時には関連ワードがTwitterのトレンドに飛び交い、オーディション時のパフォーマンス動画も再生回数を伸ばしています。

SKY-HIが今回のオーディションを「育成プログラム」と言う通り、1ヶ月に及ぶ「富士山合宿」に参加した面々(ここに参加した15人のうち10人が最終審査に進みました)はボーカルやダンスのトレーニングを集中的に受けたことで劇的な成長を遂げました。この合宿での最終審査となった11人での「To The First」のステージはその成果が最高の形で結実した素晴らしいもので、このままデビューしても充分メインストリームで戦えるのでは?とすら思ってしまう迫力がありました。

SKY-HIの哲学、およびビジネスとしての革新

オーディションタイトルや新たなグループ名にもあるように、「FIRST」というのは今回の取り組みのキーワードです。審査基準としても「3つのファースト」として以下の考え方が掲げられていました。

「クオリティファースト」:パフォーマンスの基礎能力

「クリエイティブファースト」:音楽を考えて生み出す力

「アーティシズムファースト」:ステージ上で自身のあり方を証明できるか

そして、この前段にあるのが「人間ファースト」とでも言うべき考え方です。アーティストを「コンテンツ」として消費するのではなく、人間としての側面を守る。そういう環境を提供することで、まずは各自が「自分で自分を愛する」ことを理解し、その愛を周りに向けていく。そんな哲学が今回のオーディションでは一貫していました。

たとえば、オーディション途中でメンバーの呼称がフルネームからアーティストネームに変更になったことにも、SKY-HIの考え方が如実に反映されています。

彼らの名前の表記を、4次審査から本名のフルネーム表記からカタカナ表記のアーティストネームに変えたのも、そこに関わってます。特に今の時代には、『人に見られている自分』と『自分しか見ていない自分』の2つを明確に切り分ける必要があると思っているから。本名だとプライバシーの問題がある、とかでは全くなく、ただ本人自身にとって、その2つを切り分けられる時間が絶対に必要だと思っているからです。

もしSNSとかで自分でエゴサ(エゴサーチ)しようものなら、もう24時間それが気になっちゃう。そういう場で、いいことも悪いことも言われている自分を、“自分じゃない人間”というふうにある種、切り離せる状態を作っておかないと危険だなと思っています。

出典:SKY-HI 番組・ライブ…世に出ているものが自分の全て(NIKKEI STYLE 2021年7月21日)

また、今回のグループの選からは漏れた面々に対しても、それぞれの才能にあった形でソロでの契約や育成生としてのサポートが提示されました。個々のあり方を尊重したうえで寄り添うというスタンスが、そういった動きにも現れているのではないかと思います。

単に売れるグループを作るのではなく、カルチャーを生み出したい -- そのビジョンを綺麗事で終わらせないためには、ポップミュージックの世界に私企業として参入する以上「事業」としての目算が必要です。SKY-HIはもちろんそんなことは承知のはずで、すでにインタビューでも明かされている通りV LIVEやWeverseといった韓国のアプリを参考にした新たな情報発信のプラットフォーム作りにチャレンジしています。また、ファンを巻き込んだコミュニティ「B-TOWN」を組織して、収益基盤の構築とファンダムを絡めたマーケティングの知見獲得にも着手しています。

オーディションで落選したメンバーを含めた「THE FIRSTユニバース」とでも言うべきプラン、さらにはその情報を発信するための土台作りなど、事業としてのトータルプロデュースについてもSKY-HIおよびBMSGの動きは日本の音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないでしょうか。

BE:FIRSTは「音楽」で世界へ突き抜けられるか

もっとも、ここまで述べたようなBMSGとしての哲学やビジネスプランのユニークさは、その看板となるグループのBE:FIRSTの活躍があってこそ初めて完成します。

グループのメンバーとして選ばれたのは、それぞれ一芸に秀でながらもチームプレイのできる7人。ダンスの世界チャンピオンとしての実績も持つSOTAを筆頭に、華やかなステージパフォーマンスが展開されることは間違いありません。8月16日にリリースされるプレデビュー曲「Shining One」のティザーもそんな期待を高めてくれます。

一方で、グローバルトレンドを意識した今回の楽曲が、同じくプレデビュー曲の「Make you happy」で完全な「日本マーケット仕様」の展開(テイラー・スウィフト風のサウンドは「日本人好き」するものでしたし、「縄跳びダンス」のような一般層を巻き込む仕掛けもありました)を見せたNiziUのようなムーブメントを起こすことができるかはまだ未知数な部分もあります。

「志の高さ」は必ずしも「日本のマーケットにおける支持の大きさ」とは一致しません。おそらくBMSGの活動全体がそういった風潮そのものに対する挑戦になっているのではないかと思いますし、その点では音楽にこだわったアウトプットで一点突破を目指すBE:FIRSTのチャレンジは「日本の音楽シーンがグローバルな場所とさらに地続きになっていくか」という問いに対する試金石になるのではないでしょうか。

最近ではBTSを筆頭に韓国発のボーイズグループが世界で支持を集めており、その流れは日本にも入ってきています。また、JO1のようなKポップのメソッドで生み出される日本のボーイズグループも登場するなど、日本における「歌って踊る」のスタンダードも少しずつですが変わりつつあります。BE:FIRSTがそんな流れをさらに加速させるのか、注目していきたいと思います。

音楽ブロガー・ライター

1981年生まれ。会社員兼音楽ブロガー・ライター。会社勤務と並行して2012年に「レジーのブログ」を開設。作品論のみならず、社会における音楽の位置づけ、音楽ビジネスの変遷、ファンカルチャーのあり方など音楽シーンを俯瞰した分析が話題に。現在は音楽を起点に幅広いジャンルの記事を寄稿。著書に『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(宇野維正との共著、ソル・メディア)、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)がある。

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