音楽フェスは通信会社の「実験場」?フェスの動画配信がもたらす「音楽」と「通信」の未来

(写真:アフロ)

ソフトバンクが進める「フェスのYouTube配信」

昨年に引き続き今年も展開されたソフトバンクによるフジロックフェスティバル(以下フジロック)のYouTube配信。

7月26日から28日のフジロック開催期間中、YouTubeを通して様々なアーティストのステージを会場外から楽しむことができました。

今年はフジロックに続いて、本日8月16日から開催されるサマーソニック(以下サマソニ)でのYouTube配信も予定されています(東京会場のみ)。こちらもキャリアはソフトバンク。

「4大フェス」とも呼ばれる日本の代表的な夏フェス(残りの2つはロック・イン・ジャパン・フェスティバル、ライジングサンロックフェスティバル)のうち、2つをソフトバンクが配信することとなりました。

本稿では、ソフトバンクのこれらの取り組みを起点としつつ、「フェスの動画配信」がもたらすものを「フェス」「通信キャリア」それぞれの立場から考えてみたいと思います。

フェスは「外」に広がり、オーディエンスの「棲み分け」が進む?

フェスが動画配信を行うと、「チケットを購入して会場に向かう」以外の形で多くの人たちがそこでのライブを楽しめるようになります。

また、その動画を見た人たちが感想などをSNSに発信することで、フェス会場の外でもリアルタイムで大きな話題が生まれるケースもあります。

「会場」「チケット」といった物理的な制約を外して多くの人にライブを体験させることでフェスの価値はさらに高まり、ユーザーも直接参加できなかったイベントをリアルタイムで疑似体験できる。

そう考えれば、フェスの動画配信は「フェス主催者」「フェス参加者」の双方にメリットがある取り組みであると言えます。

ここで着目したいのは、「どこからでもライブを見ることができる」ということによって生じるかもしれない変化についてです。

今後「フェスでのライブをフェス会場の外から楽しめる」ようになった場合、それによってフェス参加者のゆるやかな「棲み分け」が起こるのではないでしょうか。

2019年時点で、「音楽フェス」というものは「濃い音楽ファンだけが音楽を楽しむために集う場所」ではなく「濃い音楽ファンに限らず様々なタイプの人たちが仲間同士で一体感を楽しむためのお祭り」になっています(詳細は拙著『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー 』をご参照ください)。

この状況を(ほんの少しの悪意を添えて)言いかえると、「音楽だけを楽しみたい人たちの居場所が少しずつなくなろうとしている」ということになります。

それであれば、「ライブを楽しみたい人」にとっては、フェス会場ではなく自分のパーソナルスペースでライブをじっくり見るほうがよほど快適です。この先VRやARといった映像技術やクオリティの高い家庭用の音響システムが普及していくと、遠隔地でも生のライブを見ているかのような体感を味わえる配信が実現するはずです。

そうなってしまえば、「フェスのお祭り感には興味ない」「ちゃんとライブが見たい」「雨の中で外にいるのはきつい」という人たちは必ずしも会場に足を運ぶ必要はありません。

そんな未来が到来した場合、「音楽のみを楽しみたい人」は自宅でステージ移動や天候の変化を気にせずにライブを堪能し、「会場の雰囲気や仲間との一体感を楽しみたい(もしくは音楽と合わせてそれらも楽しみたい)人」は会場に向かう、そんな「棲み分け」が起こるかもしれません。

また、フェスの主催者側も「VRでのライブ配信は有料で行う」「チケット購入者は後日ライブのアーカイブを見ることができる」など、その「棲み分け」を意識した形での新たなマネタイズの仕組みを作ることになるのではないかと思います。

通信キャリアは音楽ライブを「実験場」にする

ここまで「可能性」として述べてきたフェスの動画配信の高度化は、必ずしも荒唐無稽な未来予想図ではありません。

今年のフジロックはソフトバンクにとっての「プレ5Gサービス」の場と位置づけられ、会場ではフジロックのライブ映像をVRで体験できるという試みも行われていました。

■参考記事:ソフトバンクの「5Gプレサービス」を体感してきた

各通信キャリアが2020年のサービス開始に向けて準備を進めている5G(第5世代移動通信システム)。この技術革新による社会変革が各所で期待されています。

5Gが実用化されることにより、日常生活をさらに便利に、より安全にするサービスの創造や技術の変革が期待されています。10Gbpsを超えるような「超高速」「大容量」「低遅延」「多接続」「高信頼」などの特長を持つ「5G」が、AI、IoT、スマートカー、ロボット、VRなどの新しいビジネス領域を切り開いていくと予測されています。

出典:5G(第5世代移動通信システム)に向けたソフトバンクの取り組み

低遅延でリッチな動画データを転送できるようになれば「ライブ配信」の意味合いも「おまけ」的なものから大きく変わっていくと想定されます。

そうなったときに、音源の販売からライブに中心が移りつつある音楽ビジネスのあり方はまた新しいフェーズに突入すると思われます。

ソフトバンクがフェスの動画配信を新技術も絡める形で積極的に進めている一方で、競合企業であるドコモもPerfumeとのコラボレーションを通じて自社の通信技術に関する知見を蓄積・発信しています。

また、音響も絡めたVR技術の開発も進んでいるようで、このあたりの動きがおそらくどこかで音楽に関するプロジェクトとつながってくるはずです。

■参考記事:Perfume × docomoのコラボ動画「Future Pop Report」で描かれた、5Gのある未来

■参考記事:ドコモ、8K60pの3D/VRでスポーツを5G配信可能に。ヤマハ技術で音も360度

これらの動きの背景には通信キャリアとして「独自コンテンツを抑えておきたい」という思惑があるはずですが、それによって「音楽ライブが通信キャリアにとっての“最新技術の実験場”になっている」という状況が生まれているのはなかなか面白い流れのように思えます。それはすなわち、「音楽ライブが日本における通信技術をより発展させる端緒になるかもしれない」ということでもあります。

各キャリアが自らの新技術をトライする場としてライブを活用する。そういった動きがさらに一般化すれば、とかくビジネスとして後ろ向きに語られがちな音楽業界が再びカッティングエッジなポジションを得ることにつながるかもしれません。

ソフトバンクによるフェスのYouTube配信は、「フェスに参加できなくてもライブを楽しめる」という価値を音楽ファンに提示するだけでなく、音楽業界サイドと通信業界サイドのそれぞれのビジネスを一歩進める可能性に満ちた取り組みでもあります。

この先「音楽×通信技術」によってどんな体験が提供されるのか、とても楽しみです。