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政権交代したら「福島原発処理水放流」に「反対」から「容認」に傾いた韓国与党の豹変ぶり!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2021年の原発処理水海洋放流反対のソウル市議会決起大会(ソウル市議会HPか

 東京電力福島原発処理水の放流を検証する韓国の視察団が23日に来日するが、韓国内では放流を受け入れるための布石との見方が強い。

 韓国外交部は建前上「汚染水の浄化処理施設、海洋放流の関連設備の運用方式などについて韓国側が科学的、技術的な安定性の分析に必要な事項を確認できるよう日本側と協議する」と国民に説明しているが、受け入れを前提とした協議となるであろう。

 その理由は大きく分けて三つある。

 一つは、文在寅(ムン・ジェイン)前政権の脱原発政策を180度転換させ、原発推進に舵を切った尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が受け入れに前向きなことである。

 尹大統領は3月に来日した際、日韓議員連盟(日韓議連)役員らとの会談で福島原発処理水の海洋放流問題について「時間がかかっても韓国国民を説得する」と発言したと伝えられている。

 韓国政府は「そのような約束をした覚えはない」と否定しているが、尹大統領は従来「福島原発は爆発したのではない。地震と津波より被害が大きくなったが、原発そのものが崩壊したわけではない。放射線は基本的に流出されなかった」との持論を持っており、この放流問題を深刻に受け止めてはいない。

 次に、韓国は文在寅前政権の時から「日本が科学的根拠を示し、IAEA(国際原子力機関)の基準に従うならば、反対しない」との立場に立っていることだ。

 韓国は国際基準の検証と科学的方式と韓国の専門家を受け入れ、そしてIAEAの最終報告書で安全性に問題がないとの結論が出れば、それに従うことはすでに既成事実化しているようだ。

 最後に、政権与党「国民の力」が受け入れのための環境整備なのか「汚染水」ではなく、日本の「処理水」という表現を使用し始めたことにある。このことはすでに容認の方向に動いていることの表れでもある。

 野党時代の「国民の力」は菅義偉政権が2年前に原発の汚染水を浄化した後の処理水の海洋放流を閣議決定した際は反対の急先鋒に立っていた。

 ソウルと釜山の2大市長選挙で圧勝し、政権奪還を目指していた「国民の力」は親日イメージの払拭と文政権叩きの好機とみてこの問題では批判のオクターブをあげていた。

 例えば、当時「国民の力」の党代表権限代行であった朱豪英(チュ・ホヨン)院内総務は同党の非常対策委員会の場で以下のように日本批判を展開していた。

 「日本の放射能汚染水放流は極めて無礼で、日本は傲慢不遜極まりない態度を取っている。(中略)近接している隣国として未来設計を共にやるべきなのに隣国の生命と環境に密接に影響のある問題を一方的に決定しておきながら何の相談もなく強いては『韓国ごとき』と、度が過ぎる無礼を働いている。過去を反省しない帝国主義的傲慢な態度である。日本が国際社会でこうした態度を取れば、経済力と関係なく、永遠に2等国家としての謗りを免れないであろう。多くの国民が日本の一方的な放流決定はとても許すことができないと憤慨している。日本にもう一度覚醒を促す」

 現外相の朴振(パク・チン)議員もこの場で「文在寅大統領が出て、国民に懸案を説明し、対策を講じないのは大きな問題である」と文大統領を批判し、また、来年4月の総選挙で党公認を得るため大統領室の要請を受け、尹大統領の訪日を絶賛した脱北者出身の太永浩(テ・ヨンホ)議員も自身のツイートで「日本が我が政府に何の事前報告もなしに、一方的に福島原発汚染水措置を発表したのならばこれは基本的に隣国との間で持つべき外交的格式、礼儀も備えていない傲慢で横柄な行動と言える」と文政権に対して日本に毅然たる対応を取るよう迫っていた。

 さらに、同党の裵俊英(ぺ・ジュンヨン)スポークスマン(当時)は党のホームページに「文政府は福島汚染水から国民を守る能力と意志があるのか」との見出しの談話を載せ、文政権の軟弱な態度を以下のように叱責していた。

 「国民は政府が恨めしい。(なぜ政府は)日本の原発汚染水から国民を守ることができないのか。政府は日本の意志のためどうにもならないと抗弁しているが、実際は我が政府の無能がもたらした惨事である。米国とIAEAまでが事実上、日本の福島汚染水放出決定を支持するまで政府は一体、どのような措置を取ったと言うのか」

 特に文政権の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相が国会で「日本が科学的根拠を示し、IAEAの基準に従うならば、反対しない」と、日本に歩み寄る姿勢を示していた際の反発は凄まじかった。

 現在、尹政権下で国家安全保障室長のポストにある趙太庸(チョ・テガン)前議員は国会本会議で「日本が汚染水放出を検討していたことは2018年に公論化され、メディアでも懸念が表明されていた。それにもかかわらず、なぜ文在寅政権はこれまで(日本に対して)消極的、曖昧な対応をしてきたのか」と批判していた。

 鄭外相が「私の発言は我が国民の健康と安全を担保できる十分な科学的根拠、放流決定以前に我が政府との事前協議、国際基準に従って透明性のある方式で放流が行われるべきとの条件が充足されるならば必ずしも反対しないという意味だ」と釈明したことに対しても「外交部長官(外相)も、それに原子力安全委員会委員長もIAEAのあるウィーンに行き、我々の憂慮を伝えるべきなのにそうした努力もしていないではないか」と攻撃し、「日本が最もいうことを聞く国が米国なのにブリンケン国務長官やケリー気候変動問題担当特使の記者会見の内容をみると、米国は日本の立場を支持している。米国を相手にした外交努力が足りなかった」と鄭外相の怠慢を槍玉に挙げていた。

 また、同党の金善教(キム・ソンギョ)議員にいたっては「政府は国務調整室主幹で2018年10月に福島原発TF(タスクフォース)を発足させていた。ここで作成された対外秘現況資料には専門家の意見として『三重水素被爆の可能性は低い』とか『三重水素は海流に従い希釈され影響がないことが予想される」と書かれてある。これは我が国が作成した書類で間違いないのか?公式なシミュレーションを一度もせずに一部専門家の意見を聞いて文書を作成したのも問題だが、こんなものをもって国会で説明しようとしたのも問題で容認できない。まるで日本政府以上に日本を持ち上げているではないか。(文在寅政は)一体、韓国政府なのか、日本政府なのか?」と鄭外相を吊るし上げていた。

 結局、当時、外交委員会は「国民の力」所属議員を含め101人の議員の連名で「日本政府の福島放射性汚染水海洋放出決定を糾弾及び撤回を求める決議案」を採択したが、決議案では文政権に対して海洋放流の即時撤回の他に国際海洋裁判所への提訴や海洋放流時には日本産水産物の全面輸入禁止の報復措置を求めていた。

 政権与党の「国民の力」は野党の頃はこれほど強硬姿勢だったのに今では党No.2の尹在玉(ユン・ジェオク)院内総務は院内対策会議で「最近、野党はIAEAなどが科学的基準で検証することになっている福島放流水に対する様々な怪談を流し、国民を混乱に落としている」と、「汚染水」ではなく、「放流水」と表現し、放流受け入れに前向きな政府の後方支援に回っていた。

 また、日本の抗議を「一考の価値もない」と撥ねつけ、過去に2度(2016年と2018年)の竹島(韓国名:独島)上陸経験のある成一鍾(ソン・イルジョン)議員は野党の時には「日本は外交的に窮地に立たされる度に独島を外交カードに使おうとしている」と日本批判を展開していたが、この放流問題では今月11日にSBSラジオに出演した際に「一旦処理されて放流されるので汚染処理水と呼ぶべきではないか」と、日本に融和的な姿勢を示していた。

 党が担いで誕生させた尹政権を支えるため、あるいは来年の総選挙で公認を得るためとは言え、「国民の力」の議員らの180度の豹変は処理水放流に反対している人々にはどうやら背信行為に映っているようだ。

 同じことは野党「共に民主党」にも言えることで、一転政権を手放し、野に下ると、政府批判を展開し、尹政権のやることなすことすべて反対に回るという悪しき習慣はまさに「韓国病」と言わざるを得ない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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