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韓国政府の「元徴用工解決案」を韓国メディアはどう受け止めているのか? 公開討論会の報道を検証する!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
政府の「代位弁済」案に反対する韓国の市民団体(JPニュースから)

 韓国政府が日韓の最大懸案である元徴用工問題の解決案を説明し、理解を求めるために開いた昨日(12日)の公開討論会を韓国メディアはどう報じたのだろうか?今後、韓国の世論がどう動くのかを探る上でバロメーターとなるので韓国主要紙の記事を検索してみた。

 主要紙はこぞって1面で扱っていたが、大手保守紙「東亜日報」は「政府『徴用賠償金 韓国財団が基金造成』・・・被害者側『日本企業が責任を負うべき』と反発」の見出しを掲げ、政府案及び政府と元徴用工側の相反する主張を公平に取り上げ、比較的に客観的に報道していた。

 「ソウル新聞」は「政府が『強制徴用賠償を日本企業に代わり支給』を公式化の見出しの下、公開討論会で政府案が初めて公開されたことを報じていたが、その一方で「被害者側と立場の相違が克明に」のサブタイトルを掲げ、討論会が紛糾したことも併せて伝えていた。

 「韓国日報」は「外交部速度戦に割れた討論会・・・戦犯企業の謝罪と賠償はうやむや」の見出しでも明らかなように「大法院(最高裁)で敗訴した日本企業に政府が率先して免罪符を与えた形となった」とみなし、「(政府が)被害者の意思を無視すれば、2015年の慰安婦合意の前例が反復される恐れがある」と書いていた。 

 「京郷新聞」は「政府『日本は謝罪も賠償も困難、第3者弁済・・・強制動員解決案は日本の意のまま』」の見出しの記事と3面に「日本が抜け、被害者同意が排除・・・『屈辱的な解決策』で逆風は不可避」のタイトルの解説記事を載せていた。

 同紙はまた、社説(「韓国企業が金を出す強制動員解決案を押し付けるべきではない」)でも取り上げ、「政府案への意見収斂の最後の手続きとして用意された討論会は被害者と市民団体の反発で跛行に終わった。このような解決案では被害者の同意は得られないということが確認された」と断じ、「このままでは問題解決を急いだあげくに破局してしまった2015年の慰安婦合意が再現される」として政府に対して「時間がかかっても被害者が受け入れることのできる解決策を模索すべきである」と提言していた。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に最も批判的な「ハンギョレ新聞」も1面に「強制動員解決策に日本が抜けた・・・政府・韓国企業が賠償」の見出しの記事を載せ、社説(「韓日関係に焦って強制動員被害者の意向を無視すべきではない」)でも「政府が韓日関係改善を急ぐため強制動員解決案の歴史的意味も、被害者らの苦痛に対する謝罪と慰労を無視し、解決案を押し付けるならば韓日関係は一層悪化し、逆風を受けることになるだろう」と政府の対応を痛烈に批判していた。

 保守紙「朝鮮日報」と「国民日報」もそれぞれ社説で扱っていたが、政府寄りで進歩勢力から「親日」と揶揄されている「朝鮮日報」は「本当に難しかった『徴用解決策』、日本も供応を」との見出しでも明らかなように「『韓国企業がなぜ日本企業の返済をしなければならないのか』との一部の反発には一理があるが、これ以外に現実的な解決策がないのも事実である」とし、政府の解決策に理解を示した。それでも「反日世論」を意識したのか、最後に「日本政府も過去の協定(1965年の日韓請求権協定)だけを持ち出すのではなく韓国政府の友好的な措置に供応すべきである。日本企業の自発的な財団参与を防ぐべきではない。また過去史謝罪表明消極的であってはならない」と注文を付けていた。

 どちらかと言えば中立的な立場にある「国民日報」の社説の見出しは「強制徴用問題の解決のためには被害者と日本を説得せよ」となっており、結論として「この問題を解決する鍵は戦犯企業の賠償参与と被害者に対する謝罪表明である。政府は日本政府にこの点をはっきりと伝え、被害者らが納得できる解決策を見いだすようもっと努力すべきである」と韓国政府に進言していた。

 経済紙の「韓国経済」と「毎日経済」もこの問題を社説で取り上げていた。

「韓国経済」の社説の見出しは「徴用代位弁済解決策 日本政府と企業も前向きな姿勢が必要」と、これまた日本に注文を付けていたが、元徴用工側にも現実的な対応を求めていた。

 韓国政府の解決案を「苦肉策」とみなす同紙は北朝鮮の脅威の増強で日韓関係の復元は急を要するとして「政府案は根本的な解決策ではないが、被害者らもひたすらにそっぽを向いている時ではない」として譲歩を求めながらもその一方で未来志向的な観点から日本側にも「隣国に不幸をもたらした歴史に対する加害者の不断の謝罪と解決努力が必要である」と促していた。

 しかし、同じ経済紙であっても「毎日経済」の社説は日本に辛辣だった。

 同紙は「強制徴用を対岸の火事と見る日本の無責任な態度」との見出しで「政府案に日本の謝罪と賠償など被害者側の要求が抜けているのが問題である。解決に向けての日本の態度は対岸の火事をみる無責任な態度を見せている」として日本に対して「被害者が納得できる謝罪と誠意ある態度を見せるべきである」と主張していた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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