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対中配慮で北朝鮮は核実験をやれないのか? 5年前と今年の「金正恩祝電」と「習近平答電」の違い!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
習近平主席と金正恩総書記(労働新聞から)

 世界最大の大陸間弾道ミサイル「火星17」の開発を成功させた北朝鮮にとって次の目標は核の小型・軽量化と超大型核爆弾の生産である。報復手段として米本土を攻撃できる核ミサイルを手にするには7度目の核実験が不可欠である。

 その7度目の核実験はすでに咸鏡北道吉州郡豊渓里の南側(3番)坑道の試掘が終わっており、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の決心次第でいつでも実験が可能な状況にあると言われて久しい。しかし、中国共産党大会が10月22日に終わっても、また米国が11月8日の米中間選挙にぶつけるのではと警戒していたものの沈黙したままである。

 今月は明日の11月29日が北朝鮮にとっては最後の記念日である。5年前に「今日は国家武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業を実現した意義のある日である」と言わしめた北朝鮮初の大陸間弾道ミサイル「火星15」の発射を成功させた日である。仮に、この日もスルーすれば、年内は発射ボタンを押すタイミングを失することになる。

 金総書記の妹、与正(ヨジョン)党副部長が11月22日に談話を発表し、「我々を武装解除しようとしたり、我が国の自衛権の行使をけなすならば超強硬に対応する。そうなれば(米国は)致命的な安保危機に直面する」と予告しているが、それもこれも米国の対応次第である。現状のままでは2012年、2014年の時のように核実験が見送られる可能性もある。

 オバマ政権下の2012年には4月頃から3度目の核実験が取り沙汰されていたが、実際に核実験があったのは翌年の2013年2月12日であった。また、2014年も3月30日に北朝鮮が外務省声明を出して「新たな形態の核実験」を示唆したことから4度目の核実験の可能性が取り沙汰されたが、この時も核実験が実施されたのは2年後の2016年1月だった。

 北朝鮮が準備万全にもかかわらず核実験を躊躇っている理由の一つに中国への配慮、あるいは中国の圧力が指摘されている。

 現在の中朝関係は円満良好である。金総書記の3度の訪中と習近平主席の訪朝により中朝関係は極めて緊密な関係にあり、戦略的意思疎通も盤石であると言われている。その証左が中国共産党第20回大会で3選を果たした習主席に宛てた金総書記の祝電とそれに対する習主席の答電である。

 金総書記の祝電は北朝鮮のメディアが10月23日に公表しているが、中身は以下のとおりである。

 「中国共産党第20回大会が成功裏に行われ、習近平同志が党中央委員会総書記に再選されたとの嬉しい報に接して、最も熱烈な祝賀を送ります」

 「中国共産党第20回大会は中国の党と人民が総書記同志を中核とする党中央の周りに一層固く団結して新時代の中国特色の社会主義思想の旗印の下、中華民族の偉大な繁栄の歴史的過程を推進する上で画期的里程標をもたらしました」

 「総書記同志が中国共産党を導く重任を引き続き担うことになったのは全ての党員と人民の変わらない信頼と支持、期待を示しております」

 「総書記同志の指導の下、中国共産党と中国人民が中国特色の社会主義を堅持し、発展させ、社会主義現代化国家を全面的に建設する新しい道程で輝かしい勝利を収めるものと核心しております」

 「今日、朝中両党は団結と協力を一層強化しながら、いかなる情勢の変化と挑戦の中でも微動だにせず、社会主義を中核とする両国の関係発展を力強く牽引しております」

 「総書記同志と共に時代の要求に応じて朝中関係のより美しい未来を設計し、その実現を導き、両国での社会主義偉業を引き続き強力に主導していくことでしょう」

 「総書記同志が健康であることと、中国の党と人民のための責任ある活動でさらなる成果を収めることを心から願います」

 金総書記は5年前の第19回大会でも祝電を送っており、較べてみると一目瞭然だが、以下のようにそれは実に短く、素っ気ないものだった。

 「私は中国共産党第19回大会が円満に行われ、貴方が党中央委員会総書記、党中央軍事委員会主席に選挙されたことに心からの祝賀を送ります」

 「今日、中国人民は習近平同志を核心とする中国共産党中央委員会の領導の下で新時代の中国特色の社会主義建設の道に入っています」

 「中国共産党第19回大会が提示した課業を貫徹するための貴方の責任的事業で大きな成果があることを願っています」

 金総書記の祝電が冷淡なこともあってこの時の習主席の答電(11月1日付)もまた儀礼的で、以下のように中身のないものだった。

 「祝電を寄せてくれたことに中国共産党中央委員会を代表して、また私自身の名で朝鮮労働党中央委員会と委員長同志に心からの謝意を表します」

 「新たな情勢下で中国側は朝鮮側と共に努力し、両党、両国の関係が持続的に健全かつ安定的に発展するよう主導することによって両国の人民により立派な幸福をもたらし、地域の平和と安定、共同の繁栄を守護するため積極的に寄与していくことを願っています」

 「朝鮮人民が金正恩委員長を首班とする朝鮮労働党の領土の下、社会主義建設偉業で絶えず新たな成果を得ることを願っています」

 中朝関係は当時、米国が主導する国連安保理制裁決議に習近平政権が同調したことに反発し、北朝鮮が「米国への盲従で体質化された安保理事国らがかかしのように(決議賛成)に手を挙げた」(国防委員会声明)と中国を「米国のかかし」と罵り、また「反共和国制裁決議のでっち上げに共謀した国々」(労働新聞)と「米国の共犯」扱いにし、さらには「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」(朝鮮中央通信)と敵意すら露わにしていた。

 この年、習主席の特使として宋涛共産党対外連絡部長が11月17日から20日まで平壌を訪問したが、金正恩党委員長(当時)は宋涛部長に会わず、政治局常務委員でもある崔龍海(チェ・リョオンヘ)党副委員長が対応した。北朝鮮は中国共産党幹部らの訪問の際には必ず最高指導者が面談しており、極めて異例の出来事であった。

 中国もまた、この年の12月に汪洋政治局常務委員(副総理)が訪中した公明党の山口那津男代表と会談した際、「北朝鮮とは過去は血で結ばれた関係だったが、今では核問題のため双方の立場は対立している」と述べ、北朝鮮との関係悪化を認めていた。

 しかし、今年の習主席の答電(11月22日付)は以下のように長く、内容もひと味もふた味も違っていた。

 「中国共産党中央委員会の総書記に再選されたことについて情熱に満ちた祝電を送ってきてくれました、これは、総書記同志と朝鮮の党中央が私自身と中国の党と人民に対する親善の情を抱いて中朝関係の発展を高度に重視していることを示しています」

 「私は、中国共産党中央委員会と、そして私自身の名で総書記同志と朝鮮の党中央に心からの謝意を示すとともに、総書記同志と朝鮮の党と人民に心からの挨拶を送ります」

 「私は、中朝関係を高度に重視しております。近年、私と総書記同志は数回にわたって対面して一連の重要な共同認識を遂げ、中朝関係を導いて新しい歴史のページを開くことによって半島問題の政治的解決過程を主導し、両国人民の共同の利益を力強く守護し、また両国の社会主義偉業を力強く守り、地域と、ひいては世界の平和と安定を力強く守りました」

 「今、世界の変化、時代の変化、歴史の変化が前例のない方式で起こっています。新たな形勢の下で、私は総書記同志と共に中朝関係を設計し、導く事業を強化し、中朝関係を立派に守り、立派に強固にし、立派に発展させて両国人民により立派な福利を与え、両国の社会主義偉業の発展を促し、地域と、ひいては世界の平和と安定、発展と繁栄を促進するために新しくて積極的な貢献をする用意があります」

 「総書記同志が朝鮮の党と人民を導いて朝鮮の社会主義建設偉業において新しくてより大きな成果を収めることを願っています」

 中国は北朝鮮のICBMの発射には目をつぶっても、核実験だけは断固反対の立場を貫いている。中国の反対を押し切って強行すれば、中朝関係は5年前に逆戻りする恐れもないとは言えない。換言すれば、中国が黙認しなければできないということなのかもしれない。

(参考資料:中国が反対してもそれでも北朝鮮は核実験を断行する!?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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