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北朝鮮が3日に行った「重要な弾道ミサイル試射」とは何か?元CIA長官が警鐘を鳴らす北朝鮮のEMP爆弾

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮が11月3日に行った「重要な弾道ミサイル試射」(労働新聞から)

 北朝鮮が11月3日午前7時40分に平壌順安から発射したミサイルについて韓国軍当局は最高高度1920km、飛距離760kmの長距離弾道ミサイル「火星17」であると推定し、「1段と2段の推進体の分離には成功したものの弾頭部が飛行中に推力を失い、東海(日本海)に落下したようだ」と発表していた。

 日本の防衛省も浜田靖一防衛相が会見し、「中長距離弾道ミサイルで、日本列島を超えず、日本海上空にて消失した」と述べていた。

 ミサイルを発射した当事者の北朝鮮は軍参謀部が7日に談話を発表し、「国防科学院の求めに応じて敵の作戦指揮システムを麻痺させる特殊機能戦闘部の動作信頼性検証のための重要な弾道ミサイル試験発射を行った」としてミサイルの種類については触れず「火星15」に似たミサイルの発射写真を公開していた。

 韓国の軍事専門家やメディアの一部では「作戦指揮システムを麻痺させる特殊機能戦闘部」とは電磁波爆弾(EMP)を指すのではないかとの分析が行われている。

 仮に今回、核弾頭の上空爆発などを利用したEMP爆弾の実験を行ったならば、意図的に特定の高度で爆発させた可能性も考えられる。実際に北朝鮮はすでに9月末から10月初にかけて行った戦術運用部隊の訓練時もEMP攻撃に活用できる弾頭ミサイルの「上空爆発」について言及したことがあった。

 EMP爆弾については米情報局(CIA)で核兵器専門家として勤務していたピーター・フライ博士が今から9年前の2013年に「北朝鮮はスーパーEMP爆弾を開発した可能性がある」と語っていた。

 また、2016年6月にはトランプ政権下で国家安全補佐官に内定したマイケル・フリン氏が下院外交・軍事委員会で「北朝鮮は核ミサイルだけでなく、EMP兵器についても専門知識を共有してきた」と証言し、米共和党は1か月後の2016年7月に作成した党綱領及び政策で「北朝鮮は核ミサイルを保有し、核兵器を使用したEMP攻撃が(米国にとって)脅威となっている」と警告していた。

 衝撃的なのはトランプ大統領当選後の政権引き継ぎ委員会で外交安保担当参謀を務めたことで知られるトランプ前大統領のアドバイザーの一人、ジェームス・ウルジー氏が米議会専門誌「ザ・ヒル」への寄稿文(2017年3月29日号)である。

 ブッシュ政権下の1993年2月から1995年1月までCIA長官を務めたウルジー氏は米国民に次のような警告を発していた。

 「(米国の)一部官吏らによって北朝鮮は核兵器で米本土を打撃できる能力をまだ持ってない、北朝鮮は核弾頭の小型化技術や米国を狙ったICBMの大気圏再突入技術開発を完成していないとの誤った安堵感や認識を米国人に与えてしまった。米本土は北朝鮮が核兵器技術を完成していない以上、安全だとする神話は間違っている」

 「北朝鮮のような核兵器と長距離弾道ミサイルを開発した国ならば核弾頭小型化や大気圏再突入技術は簡単に克服できる。マスコミや公職者らがこれまでこうした事実を無視、あるいは軽視したのは、おそらくどの歴代政権も在任中に北朝鮮を実在する脅威と認めたくないからである」

 「米前高官らは2015年に北朝鮮を高高度EMP(電磁波爆弾)に特化した小型核兵器を衛星で飛ばせる国であるとみなすべきであった。米国人の90%が命を落とすかもしれない核電磁パルスを使用する可能性に対応しなければならない」

 ウルジー元CIA長官はこの論文を発表する3年前(2014年3月23日)に米下院軍事委員会の聴聞会に提出した書面で「ロシア人が2004年に『頭脳輸出』で北朝鮮がEMP武器を開発するのを手伝っていた。北朝鮮のような不良国家がEMP弾に必要な主要構成要素を確保することでロシアや中国に間もなく追いつくだろう」と警告していた。

 北朝鮮は非武装地帯で発生した「地雷事件」で緊張が高まっていた2015年8月15日、国防委員会スポークスマン声明で「世界が知らない近代的な最先端攻撃」を備えていることを明らかにした。北朝鮮の核開発とサイバー攻撃はすでに知られていることからこの「最先端攻撃」がEMP爆弾を指していることは自明であった。

 韓国の日刊紙「文化日報」が2016年10月20日に入手した韓国情報当局の「朝鮮人民軍作戦概念 HEMP(高高度核電磁気波)攻撃シナリオ」によると;

 ▲北朝鮮は空軍司令部、第3戦闘飛行団の航空機を電磁波の影響圏から安全な咸鏡北道・漁郎郡の第8飛行師団か、咸鏡北道・徳尚郡の第2戦闘飛行団に移動させる。電磁波攻撃直前から攻撃が終わる時点まで北朝鮮軍は戦車、電気装備すべてを切ったままにして待機する。また、電磁波攻撃のためのミサイル発射という事実が察知されないよう欺瞞戦術を駆使する。

 ▲開戦はすべて9段階で行われる。まず、米軍の戦力が殺到する状況で5~10キロトンの核を高高度で爆発させてEMP攻撃を仕掛ける。米韓の先端兵器と指揮体系が一時的に麻痺し、米韓空軍力の制空権が無力化した場合、兵力規模で優位の北朝鮮軍が絶対有利と計算している。

 ▲以後、最前線に配置された砲兵戦力が長射程砲などを発射した後に第24軍団、815機械化軍団、820機甲軍団がソウルの占領に向けて動き出す。同時に北朝鮮空軍が米韓航空施設を破壊し、海軍は釜山と鎮海、平澤港などの占領に向かう。A-2機とグライダーを使い、韓国全域に特殊戦兵力を投入し、後方攪乱作戦を行う。

 韓国国防部はこの時点では「北朝鮮がEMP弾を開発推進している可能性はあるが、EMP弾の技術は先進技術なので北朝鮮がそれを開発できるレベルには達してない」と判断していた。しかし、その一方で、EMP攻撃を防ぐ防御施設を備えていないことを危惧したのか、主要軍施設ではEMP弾に対応するための核心技術を段階的に開発することにしていた。また、韓国政府は2016年6月に金融委員会が金融監督院と証券、銀行など40か所を対象に北朝鮮による高出力電磁波攻撃への対応も点検していた。

 翌年の2017年9月3日、北朝鮮は6度目の核実験を成功させたが、同時に「EMPによる攻撃能力も手にした」と発表していた。

(参考資料:韓国と北朝鮮の発表 どちらが正しいのか? ミサイル発射の謎?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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