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北朝鮮が突然、ミサイル発射の公表を伏せた理由は何か? 「沈黙」こそが脅威!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
昨年1月に発射された長距離巡航ミサイル(労働新聞から)

 韓国は北朝鮮が昨日(17日)、平安南道の温泉から巡航ミサイルを2発発射したと発表したが、1日経っても北朝鮮からは何の報道もない。

 北朝鮮は4月16日に金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち会いの下、咸鏡南道・咸興から試験発射した新型戦術誘導兵器2発を最後にミサイル発射の事実を一切公表しなくなった。

 この期間、5月には4日に大陸間弾道ミサイル1発、7日に潜水艦弾道ミサイル(SLBM)1発、12日に短距離弾道ミサイル3発、25日に大陸間弾道ミサイルと短距離ミサイル2発の計3発が発射されていた。

 また、6月も5日と12日にも短距離弾道ミサイル8発と放射砲5発を発射していたが、北朝鮮は沈黙を守ったままだ。これまで発射すれば、必ずと言っていいほど「成功した」と大喜びでアピールしていたことを考えると異例の事態が続いている。

 これまでは発射の翌日には発射の事実を公表し、写真や時には映像まで公開してくれたおかげで日本も韓国も詳細を把握することができた。しかし、北朝鮮が伏せたためどのような種類のミサイルがいかなる実験のために発射されたのかデーターが取れなくなってしまった。

 昨日のミサイルについて韓国合同参謀本部は巡航ミサイルであると特定したものの飛行高度や飛距離については明らかにしていなかった。どれだけ飛んだかわからなければ、短距離巡航ミサイルなのか、長距離巡航ミサイルなのかわかりようがない。

 発射地点の平安南道・温泉からは昨年3月21日にも短距離巡航ミサイル(地対艦ミサイル)2発が発射されていたが、約半年後の9月11日と12日には短距離ではなく、長距離巡航ミサイルが発射されていた。

 長距離巡航ミサイルは北朝鮮の発表では「楕円及び8の字型の飛行軌道に沿って7580秒(126分)飛行し、1500キロメートル先の標的に命中した」とのことだが、距離的には韓国の上空を飛び越え、日本列島に十分に届く距離である。低い高度で目標物をめがけて飛行し、遠距離の目標物を精密に打撃するこのミサイルは米国のトマホークに匹敵すると言われている。

 長距離巡航ミサイルは今年1月25日にも2発発射されていたが、奇襲的に低空で飛んできたため韓国合同参謀本部は事前探知できず発射当日の25日に行ったブリーフィングで発射時間だけは「午前8時から9時の間」と推定したものの発射地点と飛行距離については「東海ではなく内陸で相当部分飛行したようだ」と抽象的な発表にとどまっていた。正確な発射時間、発射地点、飛行方向、速度、飛行時間、距離を掴めなかったのである。

 北朝鮮は韓国の情報能力を嘲笑うかのように発射から3日経って、「2時間35分17秒を飛行し、1800km先の東海(日本海)上の目標島(卵島)に命中した」と発表していた。

 北朝鮮の巡航ミサイルが注目され始めたのは2017年6月8日に金総書記が参観し、発射された新型地対艦巡航ミサイルからである。

 新たに開発されたキャタピラの移動式発射台から発射された巡航ミサイルは飛距離200km程度だったが、北朝鮮は「超低空巡航飛行のテストを行った」と発表していた。どうやら海面から3~5メートルの低空で飛んだようだ。

 短距離巡航ミサイルはその後も2020年4月14日に江原道・文川(元山付近)から、2021年1月22日に平安北道・亀城から発射され、そして3月21日の平安南道・温泉からの2発と続いた。

 「先制攻撃」であれ、「敵基地攻撃」であれ、「反撃」であれ、その前に探知能力の向上が先決だ。どこから、どのようなミサイルが何発発射されたのかが正確にわからないようでは対応のしようもない。

 例えば、発射されたミサイルの数だが、日韓の間では5月25日に平壌市順安から発射された短距離ミサイルを巡って韓国の3発に対して日本は2発、6月5日に発射されたミサイルも韓国の8発に対して日本は6発と発表するなど食い違いが生じていた。

 発射地点についても韓国は5年前に北朝鮮がSLBMを発射した時、「平安南道の北倉付近から発射された」と発表したが、実際には16kmも離れた平安南道・安州から発射されていた。北朝鮮が公開した動画により判明した。

 また、昨年3月25日に発射された新型短距離誘導ミサイル2発の発射地点についても韓国は咸鏡南道・咸州郡の咸州からなのか、宣徳からなのか直ぐには特定できなかった。咸州から宣徳までは12kmもある。

 それだけではない。今年5月7日に発射されたミサイルが昨年10月にテストされていた1段式のミニSLBMと断定するまでに随分と時間を要した。

 また、その3日前に平壌市順安から発射されたミサイルは高度約780km、飛距離は約470kmの弾道ミサイルと測定したが、未だにどのような種類のミサイルが、いかなる実験のために発射されたのかわからずじまいである。ということは、北朝鮮が写真や映像など情報を公開するまでは判別できないのが実情である。

 北朝鮮が公表を伏せているのは一連のミサイル発射が試験中で、まだ完成に至っていないことにあるとの見方もある。その一方で、手の内を、軍事機密を見せる必要がないと判断したならば、日韓にとっては実に困ったことである。北朝鮮の沈黙こそが脅威となるからだ。

(参考資料:ゴングが鳴った朝鮮半島の危険な「ウォーゲーム」 米韓合同軍事演習VS北朝鮮の核・ミサイル)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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