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日本が報復すれば「日韓共に大損害」  駐日韓国大使の発言に徴用工支援団体が「屈辱外交」と辞任を要求!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領(左)から駐日大使に任命された尹徳敏大使(大統領室提供)

 日韓の最大懸案である元徴用工問題を解決するため尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が立ち上げた官民協議会が本日(9日)外交部で3回目の会合を開く。

 原告団(元徴用工訴訟代理人)、各界専門家、経済人、それに外交部から成る官民協議会は先月4日、14日と2度会合を開いているが、今回は原告団及び支援団体抜きの変則会合となる。外交部が7月26日に原告側の了解を得ずに一方的に韓国大法院(最高裁判所)に意見書を提出し、現金化判決の留保、もしくは遅延を申し立てたことに反発し、協議会から離脱したためである。

(参考資料:元徴用工問題解決のための「官民協議体」が発足1か月で空中分解)

 原告団のボイコットにより早くも協議会の存在意義が問われているが、そうした最中、尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日大使は昨日、東京特派員らとの懇談会で日本企業の資産現金化は凍結されるべきとの自身の考えというか、外交部の立場を明らかにしていた。

 現金化に反対する理由として尹大使が挙げた理由は以下の3点である

 ①現金化されれば、日本が報復に乗り出す。そうなれば、日韓の企業が莫大な損失を被る。双方で数十兆ウォン、数百兆ウォン(数兆円、数十兆円)に上るビジネスチャンスを失うことになりかねない。

 ②仮に日本企業のブランドや特許権などの韓国内資産が売却されたとしても被害者への補償は微々たるもので(被害者が)十分に賠償を受けられない恐れがある。

 ③現金化で訴訟が終了すれば、被害者の尊厳と名誉の回復、心の傷の治癒などのプロセスは省略されることになり、結果として被害当事者が最も大きな損失を被る。

 結論として現金化は被害者だけでなく双方の国民、企業全てが大きな被害を受けることになるので「現金化を凍結して韓日間の外交が可能になる空間を設けて欲しい」と訴えていた。

 この尹大使の発言に対して被害者支援団体のメンバーである「民族問題研究所」が早速、反発し、批判声明を出していた。批判理由もおよそ以下、3点に要約される。

 ①大法院判決実現のための外交努力に先頭に立つべき駐日大使が大法院を圧迫するのは不適切である。

 ②被害者の人権を無視し、ひいては権利の実現を妨害している。

 ③支援団体と被害者の分裂とネガティブな世論を助長しようとしている。

 最後に「民族問題研究所」は「尹政権は日本政府の顔色を窺い、屈辱外交に汲汲となっている」として、尹政権下では被害者中心の問題解決は期待できないと、尹大使の辞任を求めていた。

 確かに三権分立の原則からして一介の公務員、外交官が司法に介入し、大法院の判決に異を唱えることには問題があるが、そうした問題とは別途に尹大使が反対理由に挙げた①と②については実際にそうなるのか、一度検証してみる必要もあるようだ。

 日本企業の資産現金化が着手された際の日本の報復措置については「手の内を明かすわけにはいかない」(麻生太郎副総理=当時)と日本政府は口をつぐんでいるが、安倍政権時代に菅義偉官房長官(当時)は「あらゆる対応策を検討している」と発言していた。

 韓国政府が予測している日本の「あらゆる対応策」について文在寅(ムン・ジェイン)前政権は以下、12項目に絞っていた。

 ▲駐韓日本大使の召還▲国際司法裁判所(ICJ)への提訴▲韓国への部品、素材の輸出規制強化▲韓国企業への日本金融界による貸出規制▲韓国製品への関税引き上げ▲貿易保険の適用から除外▲韓国に投資した日本資金の回収▲日本国内の韓国企業の資産差し押さえ▲日本国内の韓国企業の税務調査強化▲韓国人の本国への送金規制▲韓国人の入国ビザ審査強化▲韓国のTPP加入拒否。

 駐韓日本大使の召還と国際司法裁判所(ICJ)への提訴以外の「経済制裁」は韓国にとってはどれもこれも痛手である。幾つか、例を挙げると;

 日本政府が2019年7月から実施した韓国への半導体素材の輸出厳格化措置では韓国商工会議所が日本と取引している302社を対象に調査を行ったところ、直接的な影響を被った企業は16%に過ぎず、84%が「直接的な影響はなかった」と回答していたが、半導体以外の分野でも韓国への部品、素材の輸出を規制し、韓国製品への関税を引き上げれば、被害は甚大だ。

 韓国国内企業に対する金融制裁(新規貸出や満期延長の拒否、株式、債券市場からの投資資金の回収など)も相当にこたえるだろう。韓国国内の上場企業に15%以上の持株を保有している日本の株主及び企業はSBIホルディングス、日清紡、双葉電子工業、新日鉄化学、住友商事、NTTドコモなど16社ある。韓国に投資している日本企業が資本金を減らせば、韓国経済が受けるダメージは大きい。

 また、銀行など日本の金融機関が韓国の企業に投資している額は420億ドル相当(韓国ウォンで約50兆ウォン)と推算されているが、日本の金融機関が保証を撤回すれば、韓国企業のドル調達リスクが必然的に高まることになり、その被害は半端ではない。

 現金化で日本が報復をエスカレートさせた場合は文前政権下では「報復合戦」を覚悟のうえで「目には目を、歯には歯を」で強硬に対抗する方針であったことから日本側もそれ相応の被害を免れることはできないのは言うまでもない。

 日韓の企業の損害額が「数十兆ウォンから数百兆ウォン(数兆円、数十兆円)に達する」(尹大使)かどうかは何とも言えないが、相当規模の損失となることは否めない事実である。

 現金化反対のもう一つの理由である「日本企業のブランドや特許権などの韓国内資産が売却されたとしても被害者への補償は微々たるもので(被害者が)十分に賠償を受けられない恐れがある」というのも筋違いの話ではない。

 全国の裁判所で差し押さえ及び現金化命令が申請された日本企業の国内資産は2020年6月基準で総額52億7000万ウォンである。

 内訳は日本製鉄の国内資産であるPNR株(額面価格5000~7000ウォン)の9億7400万ウォン、三菱重工業の特許権(6件)、商標権(2件)の8億400万ウォン、不二越鋼材の韓国関連企業の株(額面価格1万ウォン)の34億9000万ウォンとなっている。

 韓国最高裁は日本企業に原告一人につき1億ウォンから2億ウォン相当の支払いを命じているが、文在寅前政権下で国会議長を務めた文喜相(ムン・ヒサン)氏によると、大法院で確定した3件を含め現在、大法院で係争中の9件、さらに地方裁判所で係留中の20数件を含めると、損害賠償金支給のためには「最低でも3000億ウォンが必要である」と推算していた。

 これまで韓国政府が盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代に認定した元徴用工被害者は21万8693人で、このうち7万2631人に対して現金補償がなされただけである。従って、今後、訴訟が増える恐れがある。

 尹大使の発言は尹政権の「日本企業の資産現金化を阻止」方針を反映したものであるが、この方針を最後まで貫き通すことができる保証はない。何よりも国会で多数を占めている最大野党「共に民主党」の有力代表候補である李在明(イ・ジェミョン)議員が反対していることにある。

 尹大統領と大統領の座を争った元京畿道知事の李議員は昨日、自身のフェイスブックに「戦犯企業の三菱重工業が強制徴用賠償を先延ばしにし、被害者の権利回復が遅れているが、外交部の余計な行動が(火に)油を注いだ」として、「政府は裁判部に対する不当な干渉を止めろ」と外交部の対応を批判している。

参考資料:不人気な尹錫悦大統領 支持率下落により元徴用工問題で日本に譲歩ができなくなった!)

(尹錫悦政権下で本当に日韓関係は改善されるのか? 前途多難な4つの「不吉な予兆」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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