東南アジア諸国連合(ASEAN)会議が開催中のカンボジアで林芳正外相と会談した朴振(パク・チン)外交部長官は日韓両国の懸案である元徴用工問題について日本企業の資産が現金化されることなく解決する方向で尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が努力していることを伝えたようだ。

 日韓外相会談は朴外相就任から2度目だが、初回の先月18日からまだ3週間も経っていない。

 初回の会談では朴外相は日本企業の国内資産が売却されれば、日韓関係は取り返しのつかない状況に陥るのを避けるため韓国外交部が主導して元徴用工、各界専門家それに外交部を加えた官民協議会を発足させ、7月4日、14日と、2度会議を開いたことを説明していた。

 今回の会談では韓国外交部が7月26日に韓国大法院(最高裁判所)に意見書を提出し、日韓両国の共同利益に合致する合理的な解決案を模索するため外交交渉を行っていることや官民協議会を通じて原告側を含め国内各層の意見を集約するなど努力していることを伝え、大法院に対して現金化判決の留保、もしくは遅延の申し立てを行ったことなどを説明したものと推測されている。ところが、この「意見書」が大事となり、外交部が主導した官民協議会が発足から僅か1か月で空中分解の危機に直面している。

 官民協議会に参加していた新日鉄、三菱重工業、不二越など日本企業を相手に訴訟を起こしている原告代理人団と被害者支援団(「太平洋戦争被害者支援団」)が3日、「今後、協議会から抜ける」と官民協議会からの離脱を宣言したからだ。

 協議会への不参加を決めた表向きの理由として「協議会は意思決定機構でなく、意見を収斂する機構に過ぎず、すでに2度にわたって我々の考え、立場を伝えているのでこれ以上、参加する必要性を感じない」ことを挙げていたが、決定的な理由は「外務省との信頼関係が破綻した」(原告代理人団)ことにあるようだ。というのも、外交部が原告側の了解を得ずに一方的に意見書を大法院に提出したことに不信感を抱いたようだ。事実、この日配られた「声明文」では「外交部が過去の反省もなく、民事訴訟規則を再び活用し、現金化手続きを遅らせようとしている」と外交部の姿勢を批判していた。

 「国家機関と地方自治団体は大法院に裁判に関する意見書を提出できる」との民事訴訟規則(政府意見書提出制度)は朴槿恵(パク・クネ)政権下の2015年1月に大法院が新設していた。

 

 朴政権は大法院の元徴用工判決が差し迫っていた2016年11月に今回と同様にこの規則に則り、大法院に意見書を提出し、最終判決の保留を要請していた。後にこれが問題となり、外交部は検察から家宅捜査され、判決を遅らせた大法院院長(最高裁判所長官)は逮捕、収監されるという事態にまで発展した。 

 三菱重工業を相手に全羅南道・光州で同じ訴訟を起こしている代理人及び支援団「日帝強制動員市民の会」は官民協議会には1回目の会議から参加しておらず、これですべての原告団が官民協議会 のボイコットで足並みを揃えたことになる。

 「意見書」の問題では光州の原告代理人及び支援団体は一足早く、記者会見(8月2日)を開き、「韓国の外交部は一体、どこの国の外交部なのか」と怒りを露わにし、外交部を真っ向批判していた。

 韓国外交部は2013年に日本企業を相手に訴訟を起こした元徴用工らが協力を要請した際には「私的な民事訴訟で裁判が行われている事案については政府が関与するのは適切ではない」と協力を拒絶していた。それが今回は一転、外交介入したことから原告団らは不満を抱いているようだ。

 韓国外交部は近々3度目の会議を開く予定だが、原告、即ち当事者のいない会議開催は無意味との声が上がっている。原告側が納得できる解決策を練るのは容易でないからだ。

それでも外交部は「官民協議会以外にも他に方法があるので今後も原告側の意見を聞く努力を行う」との見解を明らかにしている。外交部がまとめる最終案が「原告の意見が収斂されたものである」と既成事実化したいようだ。

 韓国の大法院は文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2018年10月に日本製鉄に、同年11月には三菱重工業に対して元徴用工1人につきそれぞれ1億~1億5千万ウォンの支払いを命じる判決を下している。

 これに対して日本企業は「元徴用工への賠償は1965年の日韓請求権協定で解決済である」として、判決に不服を唱え、支払いに応じていない。こうしたことから原告側は日本企業の韓国内にある資産の凍結及び売却の法的手続きに着手し、9月中には資産現金化に関する大法院の最終判決が下されることになっている。

(参考資料:尹錫悦政権の元徴用工問題の解決手法は朴槿恵政権を踏襲! 同じ轍を踏むか?)