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韓国のメディアは日韓外相会談をどうみているのか? 「日韓合意」は「8月15日」がタイムリミット

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
林芳正外相(左)と朴進外相(韓国外交部提供)

 東京で開かれた林芳正外相と朴進(パク・ジン)外相との会談は4年7か月ぶりの外相会談ということもあって韓国でも関心が集まり、注目された。

 韓国メディアの多くが東京発で伝え、「東亜日報」、「京郷新聞」、「韓国日報」、「国民日報」、「文化日報」そして「聯合ニュース」などが社説で取り上げた。

 「東亜日報」「新政府初の韓日外相会談 『反省と和解』解決策を共に探そう」と題した見出しを掲げ、「韓日企業など民間が参与する基金造成と韓国政府が代わって被害者に賠償金を支給する『代位弁済』案が有力視されているが、これを有効な解決策にするならば日本政府と企業の謝罪と基金参与があるべきだ。そうしてこそ、被害者の同意を得ることができ、国民を納得させることができる」として、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対して「代位弁済」は日本企業の謝罪と支出が大前提であると釘を刺していた。

 さらに「結局のところ、韓日間の外交努力で謝罪と許し、反省と和解の解決策を探るべきで、どちらか一方の解決策ではなく、両国の合作でなければならない」と強調し、日本政府に対して「日本は韓国に対して先に解決策を示せとの高圧的な態度を改め、心を開くべきだ。何よりも被害者の信頼を得なければいかなる解決策も意味はなく、また新たな葛藤の端緒となるであろう。急場しのぎから消さなければならないとは言われるが、それならば一方的な要求を止めて、真摯に膝を突き合わせるべきだ」と注文を付けていた。

 「京郷新聞」「韓・日が共感した強制動員早期解決、日本も誠意を示せ」の社説で「政府は尹錫悦大統領の8.15光復節祝辞の前に強制動員被害者問題を解決する方向のようだ。その解決策は日本企業による直接的な賠償ではなく、韓国政府が代わりに支給し、日本企業が参与する基金から受け取る『代位弁代』になるようだ。被害者が高齢である点を勘案すると、この問題の解決を急ぐのは当然のことだ。しかし、その背景には韓米日3か国協力を強調する米国の立場に従い、韓日関係改善の速度を上げる必要があった」と尹政権が日韓合意を急ぐ理由に一定の理解を示しながらも「政府は急ぐだけが能ではない。一部被害者らは大法院判決に伴う戦犯企業の直接賠償を求め、官民協議会に参加していない。より重要なのは日本の態度だ。この問題を解決しようとするならば、日本企業が被害者に謝罪し、どのような形にせよ賠償金を負担する案が含まれなければならない。日本政府が1965年の合意(日韓請求権協定)ですべての問題は解決済との立場を変えなければ韓国政府としては相応の措置が取りにくい。韓国政府の努力に合わせて日本も積極的に解決策を模索すべきだ」と「東亜日報」同様に日本に態度変更を求めていた。

(参考資料:尹大統領は元慰安婦問題で日本から謝罪を取り付けられる!? 日韓首脳会談に消極的な日本、積極的な韓国!)

 「韓国日報」「強制徴用 早期解決に共感した韓日外相」)は「日本の謝罪と反省が抜けた早期協商は座礁することを両政府は肝に銘じておくべきだ。2015年の慰安婦合意を反面教師とすべきだ。韓国だけが基金を負担するのは韓国政府が司法判決を無効にする措置となり、合理的ではない」と指摘し、韓国だけの補償金負担に異を唱えていた。

 また、日本政府に対しても「韓国からの提案が先だとする態度に固執するならば、(日本の)関係改善の意志が疑われるだろう。強制動員は個別企業を超え、 帝国主義の日本が侵略戦争の渦中に行った犯罪である。岸田政権には誠意ある態度と柔軟性を示してもらいたい」と、頑な姿勢を改めるよう求めていた。

 「国民日報」「強制徴用 大乗的解決策を通じて未来志向的な韓日関係を切り開くべき」)は「2018年の韓国大法院の判決で火がついた賠償問題は韓日関係悪化の直接的原因となっている。この問題を解決せずに両国の関係回復は期待できない。政府は外交部主導で構成された官民協議会で両国企業など第3者が基金を作り、代わりに賠償金を支給する『代位弁済』を検討しているようだが、被害者団体は被告企業の参与と謝罪のない賠償方式は受け入れられないとの立場だ」と、『代位弁済』への被害者団体の拒絶反応について触れた上で「解決策を探すのは容易ではないが、政府は被害者の意見を最大限に反映した解決策をつくり、彼らの理解を求めるべきだ。関係改善が切実で、日本政府が頑強だからといって、取り繕った解決案を押し付けるべきではない。被害者の同意を得ない解決策は新たな葛藤の火種となる可能性が高い。両国政府が大乗的解決策を出すことで未来志向の韓日関係を切り開いてもらいたい」と、被害者中心の解決を政府に促していた。

 「文化日報」「徴用賠償 韓日政府と企業が協力して8.15の前に解決を」)は「多様な解決策がすでに提案されている。2019年11月に文喜相(ムン・フィサン)国会議長は韓日企業の出資と国民の寄付で『代位弁済』する『1+1+α』案を提示しており、関連法案も発議されていた。NHKによると、当時安倍晋三総理も『韓国がきちっと約束を守るならば、検討してもよい』と肯定的な立場を見せていた」と書き、「代位弁済」の解決が現実的であるとの認識を示していた。

 その上で「日本は徴用賠償が1965年の日韓請求権協定で完結したとの立場で、日本企業の資産現金化措置を国際法違反と規定している。両政府と企業が真摯に『4者協力』をするならば、大法院判決と日本側の主張を曖昧に充足させる方案をつくるのは難しくはない。韓国にとっては日帝から解放された日であり、日本にとっては敗戦日となる8月15日まで1か月を切った。その前に解決策を探すのがあらゆる面で望ましい」と、日韓両政府が努力して8月15日までに合意するよう求めていた。

 「聯合ニュース」の社説にあたる「聯合時論」(「強制動員を議論した韓日外相会談・・・日本も誠意を示せ」)も韓国の世論を反映しており、その一部を抜粋する。

 「韓日関係改善への尹大統領の意志を日本も良く知っているはずだ。政権発足直後に官民協議会を構成し、朴進外相を派遣したのもそうした次元からだ。問題は日本の態度だ。両手で叩かなければ、音は出ない。被害者団体がいわゆる『代位弁済』に対して憂慮し、官民協議体に加わらないだけでなく日本の企業との直接交渉のため外交保護権の発動を求めているなど内部説得が簡単ではない状況下で日本が傲慢な態度に固執すれば、我々も立場を再考せざるを得ない。善意が悪用されれば、合意ができたとしても結局、拙速な合意となるであろう。2015年の慰安婦合意がそのことを端的に見せつけている。被害者は両国企業と韓国政府が基金をつくり、賠償する『代位弁済』については日本企業の謝罪と基金参与を最低ラインにしている。これには日本政府がやるべき役割があるはずだ。植民地支配の加害国として少なくとも強制動員について道徳的、倫理的責任が明白なだけに日本も我々の対話意志に供応し、誠意を持って行動してもらいたい」

(参考資料:不人気な尹錫悦大統領 支持率下落により元徴用工問題で日本に譲歩ができなくなった!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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