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北朝鮮がICBMでなく、想定外の短距離ミサイルを発射した3つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮が16日に戦術核運用のため試験発射した新型誘導ミサイル(労働新聞から)

 北朝鮮が4月15日の金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年に合わせて大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射か、もしくは核実験を実施するのではと日米韓軍事当局は警戒していたが、北朝鮮が実際に発射したのは短距離ミサイルであった。

 今朝、北朝鮮は16日に「新型戦術誘導兵器を発射した」と発表した。北朝鮮の発表によると、戦術核運用のための実験を行ったとのことだ。明らかにこれまでの新型戦術誘導ミサイルの発射とは次元が異なる。そのことは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が立ち会ったことからも読み取ることができる。

 韓国国防省の発表では咸鏡南道・咸興一帯から午後6時頃発射された新型戦術誘導兵器の最高高度は25km、飛距離は110km出たようだが、1月14日に発射されたロシアのイスカンデルに似た戦術誘導ミサイル「KN-23」は最高高度36km、飛翔距離430kmで、米国製「ATACMS」を類似した戦術誘導ミサイル「KN-24」は最高高度48km、飛翔距離410kmであることから同じものを発射したとは考えにくい。これらを改良した新たな戦術誘導ミサイル、それもより小型化したミサイルを開発した可能性が考えられる。成功しているならば、おそらく、今月25日に予定されている軍事パレードで披露目されることになるであろう。

 それにしても、予想外とも言える、このタイミングでの短距離ミサイルの発射の狙いは何か?およそ次のような3つの理由が考えられる。

その1.米韓合同軍事演習への対抗

 米韓軍当局は12日から15日にかけて朝鮮半島戦時状況を想定した事前演習危機管理参謀訓練(CMST)を実施したが、18日から28日にかけていよいよ野外訓練である連合指揮所訓練を本格的に実施する。すでに韓国沖には米原子力空母「リンカーン」が入港している。

 北朝鮮は米韓合同軍事演習への対抗上、これまでも米韓合同軍事演習前、或いは演習中にミサイルを発射した前例がある。

 例えば、2016年の春の演習(3月7日―4月30日)では直前の3月3日に短距離ミサイル6発、18日に中距離弾道ミサイル「ノドン」1発、21日に短距離ミサイル5発を発射していた。この時は4月に入ってもミサイル発射は続き15日に弾道ミサイル「ムスダン」を1発、そして4月23日には潜水艦型弾道ミサイル(SLBM)を発射していた。また、この年の夏の演習(8月22日―9月2日)でも開始2日後の24日には日本海に面した新浦付近から潜水艦弾道ミサイル(SLBM)1発を発射していた。

 さらに、2017年の春の演習(3月13日―4月30日)でも演習開始1週間前に「スカッドER」と推定される中距離弾道ミサイルを4発発射し、演習期間中も3回にわたって弾道ミサイルを発射していた。

その2.韓国の「先制攻撃」への「核攻撃」がハッタリでないことを証明するため

 北朝鮮は韓国の徐旭(ソ・ウク)国防部長官が4月1日に「北朝鮮のミサイル発射兆候が明確ならば先制打撃する」との趣旨の発言をしたことを批判する金与正(キム・ヨジョン)氏の談話を2度伝えていたが、与正氏は2度目の談話で次のように韓国に警告していた。

 「仮に韓国が誤判して先制攻撃のような軍事行動に出れば、我々の核戦闘武力は自らの任務を遂行せざるを得ない。恐ろしい核攻撃が加えられれば、韓国軍は壊滅、全滅するだろう。これは決して脅しではない」

 与正氏は韓国が北朝鮮に対して軍事挑発をしない限り、「韓国を攻撃する意思はない」と前置きしながらも「仮に軍事行動に出れば、状況は異なる」として核使用の理由を説明していたが、今回核弾頭搭載実験を行った戦術誘導ミサイルの射程距離が約110kmであることから対韓、対駐韓米軍基地向けであることは一目瞭然である。

その3.偵察衛星や核実験に向けた牽制

 金正恩総書記は昨年1月の第8回党大会で「国防科学発展及び兵器システム開発5か年計画」を明らかにしていたが、軍事偵察衛星の運用と核爆弾の小型化・軽量化が5か年計画の5大目標に含まれている。

 偵察衛星については2月27日、3月5日と二度にわたって発射実験が実施されているので3度目は本番になる可能性が高い。偵察衛星は長距離弾道ミサイル「テポドン」と称された過去の人工衛星の発射と異なり、東倉里衛星発射場に設置された固定式ミサイルからの発射ではなく、移動式発射台から弾道ミサイルを使って発射される公算が大である。

 また、核実験も2018年に爆破した北東部・豊渓里にある核実験場の復旧作業が急ピッチで進められていることから地震波探知など計測装備や、計測装備と地上統制所を繋ぐ通信ケーブルなども設置され、坑道の入り口が閉じられれば、いつでも核実験は可能となる。 

 従って、短距離ミサイルの発射は「来る日」に向けての「寄らば斬るぞ」との北朝鮮なりの日米韓に対する牽制と言えなくもない。換言すれば、偵察衛星の打ち上げや核実験が迫っている証でもある。

(参考資料:刻々と迫る北朝鮮の7回目の核実験  過去6回(2006年~2017年)の核実験を検証する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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