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韓国の進歩は「反日」で保守は「親日」は本当?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
与党の李在明候補と野党の尹錫悦候補(李氏と尹氏のHPから筆者キャプチャー)

 韓国大法院(最高裁)が三菱重工業に元女子勤労挺身隊員らへの賠償を命じた訴訟で大田地裁が9月27日に原告の2人が求めていた同社の商標権と特許権(総額で約4900万円)の売却命令を出したことに三菱重工業側は昨日(20日)即時抗告したようだ。

 大法院が2018年11月に同社に賠償を命じる判決を出して以来、韓国の裁判所が日本企業の資産売却を命じたのはこれが初めてであった。仮に現金化されれば、日本のレッドラインを越えることになり、日本からの報復は必至である。日本が経済報復すれば、韓国も対抗措置を取ることになり、そうなれば2019年の日本の輸出厳格化措置対韓国の日本製品ボイコット運動の再現どころか、全面的な経済戦を引き起こす恐れもある。

 三菱重工業の再抗告は裁判で争うというよりは日韓政府間で政治決着がつくまでの時間稼ぎをしている面も否めない。商標権と特許権の差押え裁判で敗訴していることを考えると、売却命令を巡る裁判での逆転勝訴の可能性は決して高くはなく、売却は時間の問題である。そうなると、一刻も早い韓国政府による解決案の提示を望みたいところだが、来年5月に退任する文在寅(ムン・ジェイン)政権が残り7か月間で日韓の裁判当事者が、また国民が共に納得できる解決策を示せるかと言えば、甚だ疑問である。日韓の電撃合意はまさに奇跡に近いと言わざるを得ない。

 文政権下でダメならば、日本としては次の政権に期待をかけるほかないが、韓国の次期大統領には与党の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事と野党の尹錫悦(ユン・ソッキョル)前検察総長の二人が最有力視されている。日本には左派の文政権の後継者である李在明政権よりも保守の尹錫悦政権の誕生を密かに期待する向きもあるようだが。それもこれも「左派イコール反日」あるいは「民族主義者イコール反日」という固定概念に囚われているからであろう。

 一般国民を含め日本の識者の多くが韓国について誤解していることがある。例えば「韓国の革新・進歩政権は反日」との「定説」である。これは錯覚である。濃淡の差はあったとしても野党も所詮「反日」に変わりはない。

 幾つか例を挙げると、例えば徴用工問題では進歩の盧武鉉政権下で日本企業は1審、2審で勝訴していた。これがひっくり返されたのは保守の李明博(イ・ミョンパク)政権とその後継の朴槿恵(パク・クネ)政権下であった。

 また、日韓関係悪化の引き金となったのが李明博元大統領の2012年8月の竹島(韓国名:独島)上陸、そして天皇陛下への謝罪要求であった。この一件からそれまで韓国に対して比較的好意を持っていた日本人が韓国に背を向け始めた。

 竹島については野党でも多くの議員が日本政府の抗議を無視し、これまで上陸している。例えば、日本のメディアが「美しすぎる議員」と持ち上げていた「自由韓国党」(野党「国民の力」の前身)No.2だった羅ギョンウォン議員(2020年4月の選挙で落選)にいたっては竹島に3度も上陸している。

 保守の最大地盤は慶尚北道である。「竹島」を管轄していることもあって同議会の反日度は進歩・革新の地盤の全羅南道の比ではない。日本の歴史教科書の問題ではその都度、対日非難決議が採択されている。

 本会議で決議が採択されると、議員らはトゥルマギと呼ばれる韓国式白い服に着替えて、頭に「独島守護」と書かれた鉢巻きを締め、万歳三唱して「独島は我が領土」を合唱している。韓国は4日後の25日は「独島の日」に当たる。もしかすると今年も同じようなパーフォーマンスが演じられるかもしれない。

 「国民の力」は領土問題だけでなく、日本の原発処理水の海洋放出などで最も激しい対応を取っているのに国会の場となると「文政権は韓日関係を不必要に悪化させている」と批判している。これこそまさに今、韓国流行の「二重基準」、ダブルスタンダードである。

 「保守の希望の星」である尹錫悦前検察総長は「過去の歴史問題で未来志向的な関係を損ねてはならない」と言っているが、同じことは文大統領も口にしている。今、問われているのは日韓の懸案で日本に譲歩する気があるのかどうかの一点にある。

 歴史問題について尹氏は韓国紙「中央日報」(7月14日付)とのインタビューで「指摘すべきは指摘すべきである。また、後世に対しても必ず歴史、真実を伝え、教えていかなければならない。こうした問題は明白にもしなければならない」と発言し、また9月11日には元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんを訪ね、「私が必ず日本から謝罪を取り付ける。(元慰安婦)お婆さんらの心の傷を必ず癒すようにする」と発言していた。

 そして、現在行われている大統領選の予備選では「領土、主権、過去史(歴史問題)に関する事項では堂々とした立場を堅持する」との公約を掲げ、大統領の座を目指し、予備選を戦っている。

 尹氏が今年6月29日に大統領選挙への事実上の出馬宣言を行った場所が「尹奉吉(ユン・ボンギル)義士記念館」であった。尹奉吉(ユン・ボンギル)は韓国では伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)のような存在である。

 尹氏が韓国では英雄視されている独立闘士の象徴である「神聖な場所」で出馬宣言を行った事実を考えると、尹氏のほうが李氏よりも組みやすいと思うのは早合点である。進歩も保守も対日では同類である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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