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日韓首脳電話会談の「ギャップ」と「温度差」 関係改善「熱望の韓国」に「冷淡な日本」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田文雄首相と文在寅大統領(岸田首相のHPと青瓦台のHPから筆者キャプチャー)

 岸田文雄首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領との電話会談が岸田首相就任(4日)から11目にしてやっと実現した。昨年9月に就任した菅義偉前首相の時(9日目)よりも2日遅れとなった。

 岸田首相はすでに米国のバイデン大統領(5日)、オーストラリアのモリソン首相(5日)、ロシアのプーチン大統領(7日)、中国の習近平主席(8日)、インドのモディ首相(8日)、英国のジョンソン首相(13日)と電話会談をしており、文大統領は順番では7番目ということになる。

 以前に比べて日本の外交にとって韓国の優先順位が下がっているのは衆院本会議での岸田首相の所信表明の演説文(約6900文字)のうち、韓国に関する言及がたった2文と、素気なかったことでも明らかだが、昨日の日韓首脳電話会談に関する岸田首相の会見での淡々とした発言からもその一端が垣間見られた。

 岸田首相は昨晩の会見で、文大統領と18時40分から約35分間、電話会談を行ったことを明らかにした。岸田首相の説明によると、文大統領に対して行った発言は以下のとおりである。

 1.私からは旧朝鮮半島出身労働者(元徴用工)問題、そして慰安婦問題等により日韓関係は引き続き非常に厳しい状況にある旨述べ、日本の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めた、

 2.北朝鮮への対応を始め、日韓、日米韓の連携を一層深めていくことで文大統領と一致した。

 3.拉致問題について私から支持と協力を求めたのに対し文大統領から日本の立場への支持が改めて示された。

 以上のように岸田首相は元慰安婦や元徴用工問題、北朝鮮問題での日米韓の連携問題、そして日本の外交課題である拉致問題の3点を取り上げ、韓国側の前向きな対応と協力を要請していた。

 文大統領との首脳会談の有無については「日韓の意思疎通は続けていくが、対面での首脳会談については今のところ何も決まっていない」と答えていた。菅義偉人前首相同様に韓国が元慰安婦や元徴用工問題で日本が納得できる解決案を示さない限り、首脳会談は眼中にはないようだ。

 会見後、記者から岸田首相が外相当時に結んだ「日韓慰安婦合意」からの6年間の評価及び健全な関係構築に必要なことについて聞かれると「私としては国際的な約束、国と国との約束、あるいは条約、国際法、これはしっかり守られなければならないと思っている。その観点から、韓国側にしっかりとした対応をお願いしたいと思っている」と答えていた。韓国側が求めている外交解決についてはこれまでと同様に一顧だに値しないのか、一言も触れなかった。

 また、会見では文大統領が元慰安婦や元徴用工問題に関する日本の一貫した立場にどう答えたのかについての説明はなかった。日本が求めた適切な対応に文大統領が何と返事したのか、良くも悪くも誰もが知りたいところだが、いつもながら会見の場で問い質す記者はいなかった。

 そこで、今度は日韓首脳電話会談に関する韓国大統領府の国民に向けた発表(書面ブリーフィング)を見てみる。以下のように丁寧に説明していた。

 1.文大統領は「民主主義と市場経済という価値を共有している最も近い隣国として、(日本を)東北アジア地域を越え世界平和と繁栄のためにも共に協力しなければならないパートナーと考えている」と発言した上で「韓半島(朝鮮半島)問題以外にもコロナ危機や気候変動への対応、グローバル供給網の問題など新たな挑戦と課題に両国が共に対応し、ポストコロナ時代を希望のある未来に導くために両国間の協力を一層強固なものにしなければならない」と述べた。(これに対して)岸田首相は「暖かい祝賀の言葉に感謝する。厳しい安保状況下にあって日韓、日米韓の協調が重要である」と返し、「日韓両国が未来志向の関係に発展させようとする文大統領の言葉に共感する」と述べた。

 2.文大統領は「両国関係が幾つかの懸案で困難を来しているが、意志を持って互いに努力すれば克服できると思う」と述べ、「1965年の韓日請求権協定の適用範囲を巡る法的解釈で隔たりがある」と説明し、「両国が外交的解決を模索することが望ましく、外交当局間の協議と疎通を加速化させよう」と語った。また、慰安婦問題との関連では「被害者らが納得し、外交関係にも支障を招かない解決策を模索することが何よりも重要であると思う」と発言した。

 3.強制徴用被害者の訴訟問題について文大統領は「1965年の韓日請求権協定の適用範囲を巡る法的解釈で隔たりがある」とした上で、「両国が外交的解決を模索することが望ましい」との認識を示した。また、慰安婦問題では「被害者らが納得し、外交関係にも支障を招かない解決策を模索することが何よりも重要であると思う」と述べ、「生存している被害者お婆さんらが高齢であるので解決する時間が残されていない」と強調した。(これに対して)岸田首相は強制徴用問題と慰安婦問題に対する日本の立場を説明し、首脳間の率直な意見交換を評価し、外交当局間の疎通と協議の加速化を督励すると語った。

(参考資料:韓国国会に再提出された「徴用工問題解決案」とその世論調査結果)

 4.文大統領は「北朝鮮の核・ミサイル能力の増強を防ぎ、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和定着を達成するため北朝鮮との対話、外交を早く再開させる必要がある」と述べ、「金正恩委員長と無条件に直接会うとの岸田総理の意志を高く評価する」と発言した。これに対して岸田首相は「北朝鮮の核・ミサイル活動が地域と国際社会の平和、安全に脅威なっていることから外交的努力が重要であり、米朝対話が早期に再開されることを期待しており、同時に国連安保理決議の完全な履行と地域の抑止力強化が重要である」と語った。

 5.文大統領は日本人拉致問題に関連してはこれまでと同様に韓国政府は引き続き関心を持って協力していくと述べ、(これに対して)岸田首相から謝意が表明された。

 6.文大統領は両国国民間の緊密な交流は両国関係の発展の基盤でもあり、堅い心張りであることを強調し、特別入国手続きの再開など可能な措置を速やかに取り、両国の人的交流活性化と再開の重要性を披露した。岸田首相はコロナ対応と両国間の往来回復のため共に努力しようと述べた。

 7.文大統領は岸田首相との頻繁な疎通を期待し、直接会って両国関係発展に向けて虚心坦懐意見交換ができることを期待し、(これに対して)岸田首相も両国首脳間の虚心坦懐な疎通が非常に重要である点で共感を示した。

 韓国大統領府の発表では、会談時間は約30分。日本側の発表よりも5分間短い。そのうち文大統領が発言した時間は約12分。どちらにしても岸田首相のほうが長く喋ったことになるが、その割には岸田首相の説明は短かく、あっさりしたものだった。損得勘定から長く説明する必要も、韓国側の回答を国民に知らせる必要もないと思ったのだろう。

(参考資料:未解決の「日韓紛争」ランキング「ワースト10」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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