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韓国次期大統領に最も近い男「李在明」とは何者? 対日政策は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
与党「共に民主党」の大統領候補に指名された李在明・京畿道知事(京畿道のHPから)

 韓国の政権与党「共に民主党」の大統領候補に予想通り、李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が選出された。

 李知事を含め4人の候補で競っていた「共に民主党」の予備選は昨日(10日)、最後の選挙区である首都・ソウル地区での選挙結果、李候補が地区投票と選挙人団投票を合わせて全国累計で過半数の50.29%の票を獲得したことで2位の李洛淵(イ・ナギョン)元首相との決選投票を経ずに公認候補に決まった。李在知事は全国11地区で行われた予備選で李洛淵候補の地元である全羅南道(光州)地区以外はすべてを制した。

 今年57歳の李知事が大統領候補として初めて名前が挙がったのは、首都圏の京畿道・城南の市長となった2010年で、当時の支持率は1%に過ぎず、泡沫候補だった。しかし、前回(2017年5月)の大統領選では朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追いこんだ「蝋燭デモ」で中心的な役割を担い、大衆政治家として人気を博したことからダークホースとして急浮上し、世論調査の支持率で文在寅大統領に肉薄していた。20代の支持率では文大統領を上回り、30~40代でも文大統領とほとんど差はなかった。

 腐敗体質の朴槿恵政権だけでなく、財閥との政経癒着を許してきた既得権勢力への国民の不満が極度に達していたことから国民は旧来の政治家よりも、より新鮮で中央政治に汚れていない指導者を求めていた。その意味では李知事は政策的にはむしろ米国の民主党大統領候補だったバーニー・サンダース氏に似ていた。

 最終的には党内に支持基盤がなかったことから党の予備選で21.2%しか取れず、57%の得票を得た文大統領に大敗した。捲土重来、李知事は2度目の挑戦で来年3月9日に行われる大統領選挙への切符を手にしたことになった。

 国会議員を一度も経験せず、市長から知事、そして大統領候補にまで上り詰めた李知事は一体、どんな人物なのか?

 伝統的な保守の地盤である慶尚北道・安東の出身で、家が貧しく、小学校卒業後に中学に進学できず、城南工業団地で働く。勤務中に機械に挟まれた左腕は今も曲がったままだ。その後、独学で中央大学法学学士を取得し、25歳で司法試験に合格し、人権派弁護士となった。

 政治の道を志すまでのプロセスは弁護士時代に社会的弱者のために活動した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領と似ている。盧元大統領も泡沫候補からスタートしたが、若者から圧倒的な支持を受け、2003年に大統領になっている。

 ソウル郊外にある人口100万人の城南市の市長を2010年から務め、破綻寸前の市の財政を立て直すなどその行政手腕は市民から高い評価を得た。若者向けの年間5万円の商品券や中学に入学する生徒への制服の無料提供など福祉にも力を入れ、当時、若者から絶大な支持を得ていた。

 城南市長を2期務めた後、2018年7月にソウルよりも人口の多い京畿道の知事選に立候補し、337万票を獲得し、野党の現職知事(212万票)に120万票以上の差を付け圧勝し、一躍与党の有力大統領候補に躍り出た。

 突進型で食いついたら離さない性格なことから「ブルドック」のあだ名が付けられている。また、歯に衣を着せぬ言動から一時期「韓国のトランプ」と称されたこともある。李知事の言動は国民からすれば溜飲を下げる「サイダー」のようなものだが、幾つか発言を列挙すると;

 「私は大衆の中に入って、大衆の声を聞いて行動する」

 「朴槿恵を拘束して、法は万人に平等であることを示さなければならない」

 「政経癒着し、労働を弾圧し、中小企業を苦しめる財閥を解体させなければならない」

 李知事は文大統領よりも対日では強硬である。そのことは、今年3月1日の「3.1独立運動」記念日での演説からも明らかだ。日本に対しては実に辛辣な内容だった。歴史問題や対日関連の発言を幾つかピックアップしてみると;

 「大韓民国は解放後も既得権を維持していた親日勢力の反発により親日残滓を清算する機会を失ってしまった。その負を我々は今も引きずっており、忘れたと思ったら毒キノコのように生えてくる過去史に関する妄言もまた親日残滓をきっちり清算できなかったことにある」

 「歪曲された歴史は歪曲された未来を生むことになる。歴史を正す理由は過去に縛られているわけでもなく、報復のためではない。今後(我々が)進むべき道を探すことにある」

(参考資料:「文在寅発言」よりも気になる次期大統領最有力候補の強硬な対日「3.1発言」

 李知事は一昨年の「3.1」100周年の記念式典でも「親日残滓を清算すること、過酷だった歴史的事実を記録保存すること、虐げられた過去を物心両面で慰労することはこれ以上自制すべきでもないし、自制してはならない。日本軍性奴隷被害者、強制労役動員被害者らを称え、支援することで残酷な歴史が繰り返されないようにしなければならない」と発言していた。

 慰安婦合意については再交渉すべきであるとの立場であり、日本大使館前の慰安婦像撤去にも反対している。最近では福島原発の処理水の海洋放出に反対している。

 昨年9月には自身のフェイスブックを通じて、日本の反韓・嫌韓派に対して「軍国主義軍事大国という愚かな欲望のために反韓感情を煽って自国民を糊塗するのをやめよ」と警告し、10月にはベルリンの慰安婦像撤去に反対する書簡をベルリン市長とミッテ区の区長に送っていた。

 なお、直近の韓国ギャラップの「次期大統領に相応しい人物を問う」世論調査(10月8日)で李候補は25%の支持を得て、野党「国民の力」の最有力候補である尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長(20%)よりも5%上回っていた。

(参考資料:政権交代を待望しているのに次期大統領選支持率では与党候補がリードしている摩訶不思議な韓国の世論調査)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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