韓国の大統領選挙予備選は与党「共に民主党」では京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)候補が元総理の李洛淵(イ・ナギョン)候補を大きくリードしているが、野党「国民の力」では前検察総長の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補が世論調査では他の候補を引き離している。

(参考資料:「李在明か、尹錫悦か」 次期有力大統領候補の支持率で割れる韓国世論調査結果)

 現状では来年3月の大統領選挙は李候補と尹候補の一騎打ちの公算が高いが、日本にとって気になるのは二人の対日姿勢である。

 史上最悪の日韓関係の原因が文在寅政権の「反日政策」にあるとみている日本では文大統領の後継者である李候補よりも「反文在寅」の旗頭である尹候補の方が望ましいとの風潮があるようだ。

 周知のように日韓関係が泥沼状態に陥った最大の理由は元慰安婦や元徴用工問題などを巡る対立にある。日本は1965年の日韓条約(日韓請求権協定)や2015年の「日韓慰安婦合意」で「過去の問題」は「清算済」「解決済」との立場なのに対して韓国は「まだ終わってない」として日本政府や徴用した企業に対して賠償や更なる謝罪を求めている。

 日韓にとっては「癌」となっているこの「過去の問題」に対する李候補の発言をみると、日本が「好ましからざる人物」と敬遠するのは当然かもしれない。今年3月1日に京畿道庁舎で行った以下の演説を見れば一目瞭然である。

 「大韓民国は解放後も既得権を維持していた親日勢力の反発により親日残滓を清算する機会を失ってしまった。その負を我々は今も引きずっており、忘れたと思ったら毒キノコのように生えてくる過去史に関する妄言もまた親日残滓をきっちり清算できなかったことにある。歪曲された歴史は歪曲された未来を生むことになる。歴史を正す理由は過去に縛られているわけでもなく、報復のためではない。今後(我々が)進むべき道を探すことにある」

 李候補は日本が求めている日本大使館前の慰安婦像の撤去についても「政府が強制撤去させることは不可能だ」と発言し、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)についても「破棄はいつでも可能だ」との考えを持っており、最近日韓の新たな懸案として急浮上している福島原発処理水の海洋放出も反対の立場を貫いている。

 また、「日韓慰安婦合意」については「破棄、再交渉すべきである。日韓合意は被害者が同意しなければ効力はない。密室で決めた結果であって、国家間の合意の最小限の条件も備えていない。正統性もなければ、国民の信頼も完全に失い、追い出される危機に瀕していた政府(朴槿恵政権)がやったことだ」との考えの持ち主である。明らかに李候補の対日スタンスは文大統領のそれと変わらないどころか、むしろより強硬である。対日強硬派の李候補が大統領になれば、日韓関係改善の道はさらに遠のくと、日本政府が危惧を抱くのは当然かもしれない。

 では、李候補よりも3歳年上の尹候補は「慰安婦問題」では日本が期待するような対応をするのであろうか? 

 尹氏の日本観をまともに検証した韓国のメディアはどこにもない。それもこれも、尹氏が日本について語るケースが少ないのが理由だ。後にも先にも日本について言及したのは事実上の出馬宣言を行った6月29日の記者会見の場で日本の記者から聞かれた際「韓日関係は過去史の真相を明確にする部分もあるが、未来の世代のため実用的に協力しなければならない関係である。慰安婦問題や強制徴用問題、韓日間の安保協力や貿易問題を全部同じテーブルに置いて論議するグランドバーゲンをやる方式で問題にアプローチすべきである」との抽象的な発言が唯一である。

安重根の写真をバックに記念写真を撮る尹錫悦大統領候補(尹錫悦候補陣営のHPから)
安重根の写真をバックに記念写真を撮る尹錫悦大統領候補(尹錫悦候補陣営のHPから)

 しかし、この出馬宣言の場所が伊藤博文を暗殺したことで韓国では英雄視されている安重根と並ぶ存在である尹奉吉義士の記念館であったこと、またその後、韓国紙「中央日報」(7月14日付)とのインタビューで「歴史問題については指摘すべきは指摘すべきである。また、後世に対しても必ず歴史、真実を伝え、教えていかなければならない。こうした問題は明白にでもしなければならない」と述べていたこと,さらに日本の植民地統治からの解放の日に当たる8月15日に独立運動家らが祭られているソウルの孝昌公園を訪れ、菅義偉首相がテロリストと呼んだ安重根の写真をバックに記念写真を撮っていることから日本にとって決して与し易い人物ではなさそうだ。そのことは昨日(11日)、尹候補が李容洙(イ・ヨンス)元慰安婦と会った際のやり取りからも窺い知ることができる。

 尹候補は慶尚北道・大邱市での遊説の合間をみて、市内にある「慰安婦記念館」を訪れ、短時間だが、李元慰安婦に会って慰労していた。 

 尹候補が「大邱にいるのを知っていました。もっと早く訪ねるべきでした」と挨拶すると、李さんから「会いに来ていただき、涙が出た。今からでも遅くはない。若い人々が歴史を正しく学び、日本軍慰安婦が何かを知る必要がある。そうした歴史観や教育観が必要だ。国際司法裁判所に訴え、完全な判断を仰ぐべきだ。私は慰安婦問題を必ず解決してくれる人を大統領選挙では選ぶ。公約してもらえるか」と迫られ、「私が必ず日本から謝罪を取り付けます。お婆さんらの心の傷を必ず癒すようにします」と指切りして約束していた。日本政府から再度謝罪を取り付けると言う点では文大統領と全く変わりがない。

 尹候補陣営では李元慰安婦とのツーショットの写真などをフェイクブックやツイッターに添付して流していたが、支持層からは「尹候補、大統領になって元慰安婦の恨みをはらしてください」「尹候補は約束をすれば、必ず守る人だ」「李お婆さん、尹候補が謝罪を取り付けるので余生を楽にお過ごしください」などの書き込みが殺到していた。

 日本では韓国の次期大統領については進歩派の李候補ではなく、保守派の尹候補になってもらいたいとの願望があるようだが、尹候補が大統領になっても対日スタンスは文政権とさほど変わることはないであろう。

(参考資料:韓国の検察総長は次期大統領になれるか? 最新世論調査から検証する)