日本では菅義偉首相の退陣表明を受け、事実上次期総理を決める自民党の総裁選挙が始まるが、韓国でも今日から最大野党「国民の力」の次期大統領候補を選出する予備選がスタートした。

 与党「共に民主党」はすでに予備選が始まり、「韓国のトランプ」と称されている「反日」の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が優位に立っているが、「国民の力」は下馬評では尹錫悦(ユン・ソギョル)前検察総長が本命視されている。しかし、ここにきて異変が生じている。

 朴槿恵前政権下の与党「自由韓国党」の代表だった洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員が急浮上し、直近の世論調査では尹候補を追い抜き、野党候補の中ではトップに躍り出たのだ。

 世論調査会社「R&サーチ」が9月3~4日にかけて全国成人男女約1千人を対象に実施した大統領候補に関する世論調査(5日発表)によると、洪候補は32.5%の支持を得て、29.1%の尹候補を3.4ポイントも上回った。洪候補は妻や義母の不正疑惑に続いて自身の検察総長時代のスキャンダルが表面化したことで支持率が下降気味の尹候補を急迫していたが、世論調査で尹候補を上回ったのはこれが初めてである。

 洪候補は60代を除く、すべての年代で尹候補よりも支持を得ており、20代、30代、40代では何と14%もリードしていた。また、地域別でも尹候補の故郷である忠清道以外のすべてで圧倒していた。この調査では「誰が野党大統領候補に相応しいか」の設問もあったが、尹候補の31.0%に対して29.1%とほぼ拮抗していた。

 洪候補は前回(2017年3月)の大統領選挙にも「自由韓国党」の候補に選出され、現大統領の文在寅「共に民主党」候補と競ったが、1342万票(得票率約41%)対785万票(得票率約24%)で大敗していた。敗因の一つは、「国民の党」から安哲秀(アンチョルス)代表が出馬し、三つ巴になったことが挙げられている。安候補も700万票(約21%)の票を得ていた。

 現状では洪候補が「国民の力」の大統領候補に選出される可能性も、また与党候補との一騎打ちで勝つ可能性も50%程度だが、北朝鮮、そして日本にとって気掛かりなのは洪候補の対北朝鮮政策、対日観である。

(参考資料:「文在寅発言」よりも気になる次期大統領最有力候補の強硬な対日「3.1発言」)

 洪候補の公約をみると、安全保障では米韓同盟の強化を訴えており、対北政策では圧力と制裁の「北風政策」である。

 具体的には▲戦術核兵器配備で韓国型均衡を保つことで戦争を防止する▲20万人の北朝鮮特殊軍団(第11軍団)を叩くため既存の陸海空の3軍体制から4軍体制に転換し、海兵特殊戦司令部を創設する▲強力な米韓同盟強化で北朝鮮政権を枯死させる作戦を敷く▲北朝鮮が核兵器を放棄しない限り、開城工業団地を再稼働せず、北朝鮮に1ウォンも渡さないの4点に集約される。

 また、2017年の大統領選挙に出馬した際には公約として▲米国と協議し、戦術核兵器を再配備する▲北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に備えるため原子力潜水艦の戦力化を推進する▲(北朝鮮に対して)全方位的に圧力と制裁を掛け続け、非核化を推進する▲国際協調を通じた外交対応能力を強化するの4点を挙げていた。

 洪候補の北朝鮮政策は昔も今も変わらず、強硬一辺倒である。先週も韓国メディアのインタビューで「南北共に内政不干渉の立場を取って、体制競争をすれば良い。そうすれば自ずから勝負が付き、ドイツのようなことになる」と、北朝鮮が最も警戒しているドイツ式吸収統一を唱えていた。

 では、日本に対してはどのような立場なのか?

 文大統領が訪中した2017年12月に「自由韓国党」代表として来日しているが、滞在中に大統領の訪中に言及し、「我々にとって重要なのは中国ではなく、米国であり、日本である。北朝鮮が中露と社会主義核同盟をやるならば、韓米日の自由主義核同盟こそが唯一の対抗手段である」と対日重視を打ち出していた。

 安全保障や対北政策では自民党政権と共通する部分が多いが、日韓の火種となっている元慰安婦問題や領土問題では与党の李在明候補に劣らず、強硬である。

 まだ慶尚南道知事だった2017年3月には「3.1(解放記念日)」記念式典で朴槿恵大統領が苦労して交わした「日韓慰安婦合意」を「(朴政権は)10億円で取引してしまった。人間の尊厳問題である慰安婦被害を物質的な補償対象とするのは外交ではなく、裏取引である」と痛烈に批判していた。

 また、その直後の日本のメディアのインタビューでも「日本は慰安婦問題をまるで売春婦のように罵倒している。この問題で、交渉も合意もする考えもない。我が民族が国家を失い、力を失ったときに遭遇した痛みのある歴史だ」と述べ、合意の履行に否定的な考えを示していた。

 大統領選挙に突入したこともあってその後も「慰安婦問題はナチスのユダヤ人虐殺に比肩する犯罪だ。大統領になれば合意を破棄する」(4月28日)と言い続けていたが、2019年7月に日本の輸出厳格化措置に対抗して韓国で巻き起こった日本製品不買運動については「感情的に対応してはならない。過ぎ去った過去は我々だけが記憶に留めておけば良いことで、未来と結び付けてはならない」と、日本に報復すれば、IMF危機(1997年の国際通貨危機)以上の混乱を招くとして、国民に自制を呼び掛ける一面もあった。

 しかし、一昨年2月、当時国会議長だった文喜相(ムン・サンヒ)氏がメディアとのインタビューで天皇陛下に謝罪を要求する発言をした際には「極めて当を得た指摘である」と支持し、「いくら否定しても、日本の植民地犯罪の事実がなくなるわけではない。東アジアの未来のために協力しなければならない時期に日本の反省のない時代錯誤的な歴史認識が障害物になってはいけない」と日本側の反発を非難していた。

 また、竹島(独島)問題ではこれまた一貫して強硬で、李明博(イ・ミョンパク)政権下の2011年の与党「ハンナラ党」代表時代には「静かな外交、消極的な対応の時代は終わった。独島守護の意志を明確に示す時が来た」として竹島への中継地である鬱陵島に中隊級の海兵隊を配置し、巡回させることを提案する一方で野党「民主党」の孫鶴奎(ソン・ハッキュ)代表にこの年の8月15日に「共同で独島を訪問しよう」と呼び掛けていた。この海兵隊による巡回構想は2017年の大統領選挙の時の公約に掲げていた。

参考資料:「反文在寅」の保守大統領候補は「親日」か「反日」か 「野党の希望の星」尹錫悦前検察総長の対日観