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日本は「嫌韓」のままだが、韓国は「反日」から「克日」に転換へ

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
龍山駅前に建てられた「徴用工像」を参拝する李洛淵与党大統領候補(李氏のHPから)

 韓国は長年トラウマだった「反日」から「克日」にシフトする傾向にある。

 「G7」(先進国首脳会議)拡大会議である「G11」のメンバーになったことや全国経済人連合会(全経連)の最新レポートで示されているように主要経済指標で日本を追い抜いたこと、さらには映画「パラサイト」のアカデミー賞受賞や「BTS」(防弾少年団)に象徴される「韓流」の世界進出に自信を深めたことで日本の植民地統治時代から引きずっていた日本に対する劣等感が薄れ、対等意識が台頭してきたことによる。

 明日(15日)韓国は「光復節」(解放記念日)を迎えるが、実は「克日」を今から40年前の「光復節」記念式典で強調していた大統領がいる。歴代大統領の中で最も不人気かつ悪名高い軍人出身の全斗煥(チョン・ドファン)氏である。

 クーデターで政権を奪取した全斗煥氏はこの記念式典での演説で「我々は国を失った民族の恥辱をめぐり、日本の帝国主義を責めるべきではなく、当時の情勢、国内的な団結、国力の弱さなど我々自らの責任を厳しく自責する姿勢が必要である」と述べていた。全氏はまた翌年の式典でも「異民族支配の苦痛と侮辱を再び経験しないため確実な保証は、我々を支配した国よりも暮らし易い国、より富強な国を作り上げる道しかあり得ない」と「克日」を強調していた。

全氏の対日観は「同期の桜」でもある後継者の盧泰愚(ノ・テウ)元大統領にも引き継がれ、盧大統領も1990年6月に来日した際、日本の国会での演説で「我々は国家を守ることができなかった自らを反省するのみであり、過去を振りかえって誰かをとがめたり恨んだりはしない」と語っていた。

(参考資料:韓国歴代大統領の「対日赦免」発言)

 漫談家の綾小路きみまろの口上ではないが、あれから40年、韓国のメディアに「『反日』を止め、『克日』で」という声が沸き始めた。

 1つは、東京オリンピックの閉幕から4日後の12日、インターネット経済新聞「メディアSR」に掲載されたイ・ソック元ニューヨーク中央日報社長の以下の寄稿文である。少し長いけど、引用してみる。

 「我々の抗議にもかかわらず日本はIOCから(五輪ホームページ地図の竹島表記の)是正指示を受けなかった。平昌五輪で南北単一チームを構成し、半島の地図に独島を表記した時には是正指示を受けたのとは対照的だ。これがまさに国力であり、現実である。国家の威信は自然に生じるものではない。それだけの力を持って初めて可能となる。日本は今回、58個のメダル(金27、銀14、銅17)を取り、総合順位で3位を占めた。韓国は20個のメダル(金6、銀4、銅10)だった。言葉で騒ぐべきではない。中国がなぜ韜光養晦(表に出ず、時を待ち、力を蓄える)を強調し、身を低くしていたのかを心に刻むべきだ。G―2となった今、中国は韜光養晦を捨て、米国と対決姿勢を見せているが、正面から立ち向かってはいない。まだ、力不足だからだ。国家の威信は自然に向上するものではない。国家安保も口で言ってできるものでもない。外敵を追い出す力があってこそ初めて国を守ることができる。日本が憎く、復讐をしたければ、何よりも力を蓄えよう。そうしてこそ堂々と立ち向かい、それなりの待遇を受けることができる。日本は強者には頭を下げる。反日ではなく、克日に力を注ごう」

 イ・ソック氏は文の前段では「日本が憎たらしいと思う国民感情や情緒は当然だ。しかし、少なくとも国を想う政治家はそうであってはならない。ことごとく日本に恨みを抱き、対立すれば隣国として一緒に生きてはいけない。政治、経済的に複雑に絡み合った両国の関係を考えれば、なおさらのことだ。冷徹に国益を優先させ、対処すべきである。政治家は国民のように感情におぼれてはならない」と政治家が「反日」を政治利用することに釘を刺していた。

 五輪期間中に一文を載せた「メイル(毎日)新聞」のチョ・ドジン論説委員も「克日」を唱えている一人である。

 「1960年世界で最も貧しかった韓国が60年目にして国内総生産(GDP)が世界10位、貿易規模が世界9位、輸出が世界7位の先進国となったのは『反日』のお題目を唱えたからではなく、克日の『協力と学習』によるものだ」と、チョ氏は書いている。

 少数者のためのメディアとして知られている「マイナータイムズ」は五輪絡みでスポーツに限定し、「克日」の必要性を説く記事を以下のように載せていた。

 「日本の骨にしみる植民地支配を経験した韓国では長い間、韓日戦は栄光と屈辱の象徴だった。勝てば、栄光の象徴であり、負ければ屈辱の象徴であった。(中略)しかし、いつまでも日本を相手に幼稚な自尊心争いを続けていかなければならないのか。韓国はすでに多くの領域で日本を相手に自尊心を回復した。サムスン電子のスマートフォンは全世界の人々の必需品となり、『K-カルチャ』に代表される韓国文化も世界の人々から愛されている。オリンピックで韓国が日本を超える真の克日を成し遂げるには韓日戦の勝敗に恋々としているのではなく、競技で最善を尽くし、競技が終わった後は和合するスポーツ精神に忠実であればよいことだ」

 スポーツの世界では現在、次期大統領最有力候補である尹錫悦前検察総長の国民キャンプ組織総括本部副本部長の座にあるカン・スンギュ元大韓野球協会会長が日本の輸出厳格化措置への対抗措置として日本製品不買運動が始まった2年前に「会長時代、日本の全国高校野球を観戦したことがある。競技開始から進行過程、終わるまでの全ての過程を観察したが、(韓国のように)敗者が怒って、グローブを投げ捨てるような光景はなかった。むしろ、勝者が記者会見を終え、グランドを去るまで見守っていた。津波が日本列島を覆い、混乱した時もスーパーマーケットの前で整列する日本人の姿に世界は驚いた。韓国は過去史の問題も外交紛争も日本との安保協力も日本の力と現実を直視したうえで勝てる方法を探すべきだ。まさに、反日ではなく、克日なのである」とコメントしたことがあるが、「マイナータイムズ」の記事はその延長線上にある。

 メディアだけでなく、識者らも口を揃え、「克日」を呼び掛けているが、そのうちの一人が3年前に日本で出版された「韓国ビジネス 53の成功ルール」の著者である徐承範氏である。

 徐氏は五輪期間中の8月2日に「嫌韓の反対が反日である。本来は嫌日なのだが、反日のほうが馴染み深い。日本は逆に反韓よりも嫌韓のほうが慣れている。私は3年前に日本で『韓国ビジネス 53の成功ルール』を出版したが、私が考えていた表題は「嫌韓を捨てられる」だった。韓日間のコミュニケーションについて書いた本である。我々は今こそ、反日でなく、克日をしなければならない。その時がやって来たのだ」とツイートしていた。

 また、先月、韓国で「日本 同行と克服」を出版したInha大学国際通商学科のチョン・スンヨン教授も「克日」提唱者の一人である。

 本の帯には「我々は日本をどう克服すべきか?」と書かれてあるが、チョン教授は強制徴用被害者賠償問題を巡り日本政府が韓国に対して半導体素材輸出規制を強化してから2年経過したが、文在寅政権が「日韓経済戦争」で韓国が勝利したと自評していることについて「技術国産と対日貿易赤字改善を100メートルのレースに例えるならば、文政権の2年間の努力は僅か5メートルを走ったに過ぎない。それにもかかわらず、文政権は『我々が勝った』と言っている。韓国が代表するサムスン電子や現代自動車は日本の素材や部品、装備を積極的に活用したから日本の業者を克服できた」として、文政権の自画自賛の対日政策に全面的な批判を加えている。

 金沢大学で経済学部教授だった日本経済の専門家でもあるチョン教授は著書の中で「『失われた30年』を経て右傾化の道を急ぐ日本に対して文政権のように反日感情で顔を赤らめていては決して克日はできない」と指摘し、「韓国の生存と未来のため必要ならば日本と同行し、同行を通じて初めて日本を克服することができる」と「反日」から「克日」への転換の必要性を説いている。

 日本では「嫌韓」「反韓」記事、書籍が乱舞しているが、日本が「克韓」にシフトするのはいつの日になるやら。。。

(参考資料:日韓は「不毛の争い」にピリオドを! 「反日」と「反韓」ムードに引きずられた10年)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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