平和の祭典である五輪期間中も日韓は何かと張り合い、いがみ合っている。ネットや一部メディアでは凝りもせずネチネチと相手の揚げ足取りを続けている。両国はかつては「一衣帯水」とか「近くて近い国」と言われたものだが、もはや遠い昔話で、今では完全に形骸化してしまった。

(参考資料:未解決の「日韓紛争」ランキング「ワースト10」)

 それもこれも元徴用工・元慰安婦問題など「歴史問題」に起因しているからに他ならない。韓国は相も変わらず日本を「過去を反省しない国」「歴史から学ばない国」とのレッテルを貼り、これに対して日本は韓国を「いつまでも謝罪と補償を要求するしつこい国」「約束を守らない国」と「韓国バッシング」に余念がない。

(参考資料:「日本の態度は不誠実!」文在寅大統領の訪日断念で韓国メディアは「日本非難」合唱!)

 もうそろそろ、手打ちにしてもよさそうなものだが、言うは易く行うは難しで、事はそう簡単ではない。何よりも韓国で元徴用工・元慰安婦問題で意思統一ができていないのが問題だ。対日問題を巡って国論が分裂しているとまでは言えないが、日本に対する対応が与野党、メディアで二分されているのは事実だ。特に司法の判断が二転三転していることが事態をより複雑化させている。

 「日本の不法行為に国際法上の主権免除は適用できない」とした大法院(最高裁)の3年前の原告(元徴用工)勝利の判決を今年1月にソウル中央地裁が継承し、日本政府に一人1千万ウォンの支払いを認める判決をしたかと思ったら、その僅か3か月後に同じソウル中央地裁で逆に国家は他国の裁判権に服さないとする「主権免除」を理由に原告「敗訴」の判決が出されたのは周知の事実だ。

 この判決にはメディアの評価も分かれ、文在寅政権寄りの「ハンギョレ」は「荒唐無稽」と批判し、「反文」の朝鮮日報は「歴史問題を政治的に利用してきた文在寅政権と超法規的な判決を行った金命洙(大法院長官)司法部の責任である」として、2015年12月の日韓合意を順守、履行しなかった文政権に批判の矛先を向けていた。

 「反日」と「親日」が正面から対立した時こそ、「仲裁役」としての知日派の役割が求められるのだが、大法院の判決を地裁がひっくり返す「下剋上」を問題視している政治家の一人が何と、日本では知日派と称される李洛淵元総理であることも事の複雑さを表している。

 与党「共に民主党」の次期大統領候補の一人である李洛淵元総理は東京特派員経験もあり、韓日議連副会長を担った韓国の代表的な知日派である。その人物が「逆転判決」を下したソウル中央地裁のキム・ヤンホ裁判官を「日本側に偏向した政治観を持っている」と非難し、「上告審で間違った判決を正さなければならない」と主張しているのである。青瓦台(大統領府)には「反国家、反民族的判決を下した裁判官の弾劾を求める」との請願が出される始末である。

 ソウル中央地裁では先月、元徴用工や遺族らが日本製鉄(旧新日鉄住金)や三菱重工業など日本企業16社を相手取り、損害賠償を求めた訴えは却下されたものの大田地裁では五輪前の7月20日に三菱重工業が韓国内資産(商標権2件、特許権6件)の差し押さえ命令を不服とした即時抗告が棄却されている。三菱重工業は大田地裁が公示送達していた国内資産差し押さえ決定文の効力が発生した昨年12月に「日韓請求権協定に伴い強制執行には問題がある」として即時抗告状を提出していた。

 また、大邱地裁でも日本製鉄の韓国内にある同社の差し押さえ資産(韓国鉄鋼最大手ポスコとの合弁リサイクル会社「PNR」の株式)の鑑定が行われ、賠償に向け資産の現金化のための手続きに入っている。日本企業の資産が現金化されれば、日本が予告通り「報復」するのは必至で、そうなれば今でも「最悪」と言われている日韓関係は修復不可能な関係に陥ることは火を見るより明らかだ。

 ソウル中央地裁が大法院の判決と真逆の判決を出した際、左右のメディアである「ハンギョレ」と「朝鮮日報」を除けば、「韓国日報」や「中央日報」など多くのメディアは「非常に困難な事案なので外交での解決策を模索すべきである」との論調が多かった。

 これまで韓国では政治家、経済人、民間団体、研究機関から事態打開のための様々な提言が行われているが、先月28日にはソウル大学日本研究所(IJS)が出版したブックレット「大転換時代の韓日関係」の中で日韓関係改善のための10の提言を行っていた。

 同研究所は日韓関連では研究論文を発表するだけでなく、セミナー、学術会議などを頻繁に開催しているが、今年も「菅内閣発足後の韓日関係を構想する」(3月17日)、「韓日のコロナ対応、違いと協力の可能性」(3月25日)、「安倍政権10年と日本政治の変化」(4月30日)と題するセミナー、学術会議を開催している。

 この日韓関係改善のための10の提言は5月24日に開催されたセミナー「大転換の韓日関係」をベースにしているが、2012年の李明博大統領(当時)の竹島(独島)訪問で悪化し始めた日韓の葛藤は「貿易から安保まで拡大し、さらには葛藤が歴史の政治化から歴史の司法化に拡大してしまった」と指摘したうえで、関係悪化の要因の一つに「日韓関係が定立されていないこと、目標が定められてないことにある」として、以下関係改善のための10の提言を行っている。

 ①(元徴用工・元慰安婦問題など)強制問題は韓国政府が先制的、独自的な行動で判決を履行すること。

 ②慰安婦問題は歴史研究と歴史教育機構を設置し、未来に向け解決を導くこと。

 ③過去史とその他の懸案を分離対応する対日ツートラックの外交基礎に復帰すること。

 ④韓日米の対北共助を通じて日米を朝鮮半島平和プロセスに積極的に牽引すること。

 ⑤米中戦略競争の長期化に備え、韓日関係の改善と共に豪州、インド、アセアン勢力との多国間外交を強化すること。

 ⑥輸出規制撤回を導くためには無理な政治的解決策よりも時間をかけて強制動員問題を解決していく環境を造成すること。

 ⑦巨大地域主義に積極的に参加することで輸出規制の実質的な無力化を早めること。

 ⑧貿易では脱日本化を進めても、脱日本企業化には注意すること。

 ⑨「先進文化国」という共通点を認知し、解決策を共有すること。

 ⑩成長を越え、生活の質と幸福に向けた善意の競争関係に転換すること。

 具体的には「日本企業の資産現金化措置を避ける努力を通じて日本との関係悪化を防ぐことが現実的な提案である」としている。但し、同提言には「菅政権の謝罪」が前提となっている。

 同研究所の提言からも窺えるように韓国政府は少なくとも1993年の「河野談話」、95年の「村山談話」そして98年に当時小渕恵三首相が金大中大統領との間で交わした「日韓パートナーシップ宣言」を踏まえた菅総理の謝罪を首脳会談が行われた際の共同声明に盛り込むことを求めているようだ。「日韓パートナーシップ宣言」は「過去を直視し相互理解と信頼に基づいた関係を発展させていくこと」を誓い合っている。

(参考資料:韓国経済の「日本離れ」を加速させた日本の対韓輸出厳格化措置 丸二年を回顧する)