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日中両国にとって「悪しき教訓」は「南北海戦」 韓国と北朝鮮の海上衝突はなぜ起きたのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の警備艦(朝鮮中央テレビから)

 米国で政権交代がある度に日本政府は尖閣諸島が日米安保条約第5条(防衛義務)の適応範囲にあるとの確約を新政権から取り付けることに腐心しているようだ。

(参考資料:韓国は日米「2プラス2会談」をどう取り上げたのか?韓国マスメディアの「見出し」)

 今回も外交・防衛相「2プラス2会談」でバイデン政権から確約を取り付け、安堵している。米国の公式見解が日本にとっては「金科玉条」となっている。それはそれで中国への牽制となっていることは疑う余地はない。

 それでも気になるのは、米国が「尖閣」の領有権の問題では態度を鮮明にしていないことだ。「日中どちらにも与しない」との「中立的な立場」と言うか、「曖昧な態度」を取り続けている。誰もがこの点に不安や疑問を抱いているのに今回もプリンケン国務長官に日本のメディアはあえて聞こうとはしなかった。対照的に中国人記者は米国務省で会見があると必ずと言っていいほど問い質している。おそらく、日本の場合、日中間に領有権問題は存在しないとの政府の方針がネック、足枷になっているのだろう。

 そもそも、これまで日本の歴代政権はなぜ日本の領有権を認めるよう米国に密かに働きかけてこなかったのだろうか?尖閣が日本の領土であることが明白で、そもそも中国との間には領土問題が存在しないためその必要性を感じなかったからなのか?

 バイデン大統領が副大統領として仕えていたオバマ政権下で当時、パネッタ国防長官が「どちらにも与しない」と発言した時も「歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土である」と常日頃、声高に叫んでいた日本政府は抗議せず、沈黙していたことを記憶している。

 米国が他国の領土問題で日本と一緒になって中国と合戦するとは正直、信じがたい。現に、北方領土問題では日本の領土であることを認めながらも、施政下(実効支配下)にないとの理由で第5条の適応から外している。

 一度、恐れずに米国内で日中・尖閣関連の世論調査を行い、「尖閣諸島のために米国は中国と戦うべきか」と米国人に問うてみたらどうだろうか?イラクやアフガンでこりごりなのに無人島のために軍事大国の、それも核保有国の中国と一戦を交える覚悟があるのかどうか、是非知りたいところだ。

 米国が助っ人しようが、傍観しようが、どちらにしても、日本は頻繁に領海侵入を繰り返す中国の漁船や海警局の巡視船に独自で対処しなければならないのは言うまでもない。現状は、中国の漁船や公船が領海を侵犯しても、領海から出るよう警告を発するだけで留まっているが、漁船を相手にいつまでもおしくらまんじゅう,モグラたたきというわけにもいかない。限界があるし、これでは日本が先に疲弊していまいかねない。最も憂慮すべきは、武器使用の権限が付与され、海軍化した海警局巡視船と海上保安庁の巡視船による偶発的な衝突、銃撃戦が起きるかもしれないことだ。

 日中双方ともに「悪しき教訓」とすべきは、隣国の韓国と北朝鮮による西海(黄海)上の軍事境界線と称される北方限界線(NLL)での公船、艦船による衝突と言うか事実上の「海戦」である。

 NLLを認めない北朝鮮の領海侵犯により南北間では過去3度大きな「海戦」があった。なんと、そのうち2度は大統領自らが訪朝し、金正日総書記と会談するなど北朝鮮に融和的だった金大中政権(1999年)と盧武鉉政権(2002年)下で起きている。こと領土、領海問題はいかなる政権が相手であっても妥協できない問題であることを示した事例でもある。

 1度目は1999年6月で、NLL南側5kmにまで侵入した北朝鮮の警備艇7隻に韓国の高速艇など10数隻が体当たりして追い出そうとして撃ち合いとなった。小銃から始まり最後は25mm砲と40mm砲、70mm砲の応酬となった。

 途中で北朝鮮側から魚雷艇が、韓国側からは哨戒艇が応援に駆け付け、合戦に加わった結果、北朝鮮の魚雷艇1隻沈没(15人乗務)、警備艇2隻(110人乗務)が大破。韓国も哨戒艇1隻(95人乗務)がエンジン破損、警備艇1隻(30人乗務)が機関室被弾という被害を被った。

 そして、2度目は2002年6月でこの時も、北朝鮮の警備艇と韓国の高速艇数隻が衝突し、85mm砲と76mmバルカン砲の撃ち合いに発展した。25分間にわたる交戦で、北朝鮮の警備艇1隻(50人乗務)が炎上し、死傷者が30人前後出た。一方の韓国も高速艇1隻(28人乗務)が沈没し、死者4人、行方不明者1人、負傷者19人も出した。

 NLLの韓国側に侵入した北朝鮮は1回目の時は「韓国が領海を侵犯した。韓国は侵犯を謝罪し、領海から撤収せよ。海上での事件の責任はすべて韓国側にある」と、韓国とは逆の主張を繰り返していた。また、2回目の時は「南朝鮮軍(韓国軍)が西海海上で正常な海上警戒勤務を遂行していた我が人民軍海軍警備艇に銃砲撃を加える厳重な軍事挑発を行った。そのため我が艦船は止むを得ず自衛的措置を取らざるを得なかった」というものであった。北朝鮮を中国に置き換えてみれば、今後の日中交戦の際の中国側の主張を想定できるというもの。

 そして、3度目が李明博政権下の2009年11月で、この時は翌年(2010年)3月に死者36人、行方不明10人を出した韓国哨戒艦撃沈事件、そして11月に死者4人、負傷者19人を出した延坪島砲撃事件に発展したことはまだ記憶に新しい。

 軍事境界線で70年以上も対峙し続けている南北と違って、日中間には国交もあり、人的、経済交流も盛んなだけに「南北海戦」のような愚を犯す可能性は低いと思われていたが、国交正常化時に発表された49年前の日中共同声明の「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立する」合意が死文化しているならば、今後、何が起きても不思議ではない。

(参考資料:日本とは異なり韓国が「米国か、中国か」の「二者択一」ができないのは進歩政権も保守政権も同じ!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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