朴槿恵前政権下で交わされた2015年12月の「日韓慰安婦合意」は文在寅政権下の2017年に官民合同のタスクフォースが検証した結果、「重大な瑕疵があった」との結論が出された。これにより合意に基づき翌年7月に慰安婦を支援する目的で設立された和解・癒し財団は存在価値を失い、理事長を含む理事全員が辞職するなど解散に追い込まれたが、日本政府はすでに財団には政府予算から10億円(当時のレートで100億ウォン相当)を拠出していた

(参考資料:日本の歴代総理の「慰安婦謝罪発言」)

 朴槿恵政権はこの拠出金から生存者一人あたり1億ウォン、死亡者には2000万ウォンを現金で支給し、その結果、元慰安婦の7割以上に当たる35人が受け取った。現在、財団の口座には57億8000万ウォンが残っている。財団の残余財産の法的処分の手続きはまだ行われておらず、2年以上も手付かずのままである。

 その一方で、文在寅政権は「日本からの10億円は使用せず、韓国政府の予算から充当する」として、2018年7月に10億円を充当するための予備費(総額で103億ウォン)支出案を国務会議で計り、捻出した。文政権がこうした措置を講じたのは日本と再交渉するには10億円を日本に返却する必要があると判断したからだ。実際に、2017年当時、日韓合意に反対する韓国の政治家らは口を揃えて、「10億円を日本に返そう!」と叫んでいた。

 例えば、現在、ソウル市長選挙に名乗りを上げている与党「共に民主党」の禹相虎前院内総務は「(日本では)振込詐欺にあったようなものだと言っているのもいる。それなのに外相は何一つ反論もできない。これほどの屈辱はない。10億円を日本に返そう。10億円のため国民は辱めを受けるのか。一刻も早く返そう」と言い放ち、また、同じ党の洪イッピョ議員も「我々の立場からすれば、不必要に10億円を貰う理由はないので返却すべきだ」と口を揃えていた。

 また、第2野党の「国民の党」の黄柱洪議員も「屈辱的だ。10億円を直ちに返却して、合意無効化を宣言し、再交渉しよう」と同調し、さらに大統領候補の一人でもあった保守の劉承敏議員も「(日韓合意は)間違った合意で、売国行為である」と批判し、「10億円を返して、元に戻すべきだ」と主張していた。

 国連事務総長在任中は日韓合意を評価していた潘基文氏でさえ退任後は「10億円が(日本大使館前にある)少女像の撤去と関係があるものなら間違っている。むしろ金を返すべきであり、話にならない」と態度を豹変させていた。

 石原慎太郎都知事時代に東京都が尖閣諸島問題で当時副知事だった猪瀬直樹氏のアイデアで2012年4月から尖閣諸島購入資金確保のため寄附金を募り、その結果翌2013年1月末の募集打ち切りまでに約14億円集まったことを参考にしたのか、金大中政権下で統一部長官を務めた経験のある重鎮の丁世鉉元議員は「10億円と言えば、我々の金で100億ウォンだ。チョン・ユラ(崔順実被告の娘)の馬代にもならない。100万人が一人につき1万ウォン出したほうが早い」と国民募金による返却を提唱し、実際に「挺身隊対策協議会」を中心に383の市民・社会団体が日韓合意の無効化を主張し、「10億円国民基金」のための募金運動を全国で展開していた。

 しかし、いつの間にか募金運動も影を潜め、現在では「10億円を返そう!」の声は全く聞こえてこない。管轄の女性家族部は10億円の返還について「日本政府との協議が必要である」としているが、日本政府が受け取りを拒否しているのが実情である。また、文政権は今では「慰安婦合意」を「公式な合意」と認め、「日本に再交渉を要求しない」としていることから実現性はゼロである。返金は事実上、合意の無効を通達することに等しいからだ。

 女性家族部は手付かずの残金57億8000万ウォンについて「被害者や関連団体の意見を聞いたうえで合理的に処理する」としているが、現実には有効的に活用する方法を検討しているようでもある。

 文喜相前国会議長は2019年に元徴用工に関する大法院判決に日本政府が反発するや「残った金を併せて日韓政府が真に共同体となって基金を作ったらどうか」と提案したことがあるし、姜昌一新駐日大使も「残金も含め日韓共同体基金を作るべき」と主張している

(参考資料:日韓共に韓国国会議長の「元徴用工解決案」に反対!)

 しかし、戻さず、活用する仲裁案も元徴用工や元慰安婦ら当事者らが強く反発しているためこれまた宙ぶらりんとなっている。

 日本政府や企業を訴えている原告人の弁護士や支援団体では返金しなければ、「合意を守れ」との日本の圧力が強まるだけだとして日本が受け取りを拒否しても韓国政府は返却の意思を明らかにすべきであるとの強硬姿勢を貫いている

(参考資料:元慰安婦の「ICJ提訴」爆弾発言で吹っ飛んだ文在寅政権の「解決策」)