前代未聞の法相と検察総長の「仁義なき戦い」 文在寅大統領はどちらの手を上げるのか?

秋美愛法相と尹錫悦検察総長(二人のHPから筆者加工)

 韓国では法務大臣と検察総長による前代未聞の抗争が繰り広げられている。

 事の発端は、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官が24日に尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長に職務停止を命じ、懲罰委員会に懲戒を請求したことによる。法務部長官が現職の検察総長に対し、職務の執行停止を命じたのは韓国の憲政史上初めてのことである。

 前代未聞の秋長官の「強権」に尹総長は「違法、不当な処分である」として反発し、訴訟を起こすなど来年7月までの任期を最後まで全うするため徹底抗戦する構えである。

 問題は二人だけの「抗争」に留まらず、尹総長を擁護する高等検察庁長や地方検察庁長らを含む検事らが続々と、秋法務部長官に反旗を翻し、総長職務停止措置に反発する声明を出したことにより法務省対検察の「仁義なき戦い」の様相も呈している。

 裁判所が尹総長が申し立てた職務停止の執行停止を認めれば、尹総長はとりあえず職務復帰が可能となる。しかし、一難去って、また一難で、来週開かれる検事懲戒委員会で法務長官が求めた懲罰が認められれば、最悪の場合、解任もしくは免職処分が下されるかもしれない。懲罰委員(7人)の人選は秋長官が担うため解任は避けられないというのが大方の見方である。

 職務停止理由として秋長官が尹総長に掛けた容疑は幾つかあるが、中でも「重大な犯罪」とみなされているのが今年2月に最高検察庁の捜査情報政策官室が作成した裁判官の「査察ファイル」である。秋長官はこれを理由に昨日、職権乱用容疑で大検察庁に対して尹総長の捜査を要請している。

 「不法ではない」として先手を打って尹総長自らが公開した7ページに及ぶ関連文書には13の裁判所、計37人の裁判長を含む裁判官に関するファイルがあった。出身から家族関係、趣味に至るプライバシーから関わった裁判の主要判決、世評などに区分されていた。例えば、

 「A裁判官」:「ウリ法研究会出身だが、合理的な人物である」

 「B裁判官」:「主観が明白でなく、世論や周辺から影響を受けやすい」

 「C裁判官」:「存在感が全くない」

 「D裁判官」:「検察に敵対的ではない」

 「E裁判官」:「淡々と裁判を進行するので検察として対応しやすい」

 「F裁判官」:「目立つような進行をする」

というふうに評価、採点していた。

 世評の部分では「物議を呼んだ裁判官」などと記されているが、裁判官に関する個人情報収集について検察は「公判手続きに関与する検事らの指導のための業務参考資料に過ぎない。査察でもなんでもない」と反論しているが、法務部は「尹総長の指示により裁判官を不法に査察し、文書を作成し、悪用していた」と批判し、具体的な一例として、検察に不利な判決を下した進歩的な弁護士の集いである「ウリ法研究会」出身の裁判官が攻撃されたことなどを挙げている。

 秋法相と尹検察総長の究極的な対決を世論はどう見ているかと言えば、職務停止を命じられた尹総長に総じて同情的だ。

 昨日発表された世論調査会社「リアルメータ―」が行った調査では56.3%が秋長官の措置を「正しくない」とみており、「正しい」(38.8%)を上回っていた。中道層では66.6%が批判をしており、進歩層でも21.6%が否定的な評価をしていた。

 懲罰委員会も職務停止執行停止裁判も来週開かれるが、懲罰委員会の開催が12月2日と先に決まったことからここで懲罰決定が下され、それを最終的に文在寅大統領が裁可すれば、尹総長の訴訟は後の祭りとなってしまう。

 沈黙を守っている文大統領がどちらの手を上げるのか、国民は注視しているが、どちらにしても二人のうち一人は切らざるを得ないのは確かなようだ。

 もしかすると、自らの保身のため「喧嘩両成敗」でまず尹総長を解任し、続いて内閣改造で秋長官を更迭するという、二人同時に首を切る「ウラトラC」を考えているのかもしれない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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