「リビア方式」の次は「イラン方式」 バイデン新政権の対北政策はオバマ政権時代に回帰!

バイデン次期大統領と金正恩委員長(バイデン氏のHPと労働新聞から筆者加工)

 トランプ政権はボルドン大統領補佐官のアドバイスもあって北朝鮮核問題の解決策として「リビア方式」に拘っていた。北朝鮮が先に完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化核をすれば、後に制裁解除など体制保障をするのが「リビア方式」である。

 ▲「リビア方式」

 カダフィ政権下にあったリビアは米英両国との合意に基づき2003年12月、核計画放棄を宣言し、大量殺傷兵器(WMD)の破棄を約束した。リビアは米英両国の専門家とIAEA(国際原子力機関)による主要疑惑施設への査察を受け入れ、大量破壊兵器関連施設の廃棄にも着手した。核関連物資や機材、スカッドCミサイルなどが米国に引き渡され、米テネシー州のオークリッジの国家安保団地倉庫に運び込まれ、保管された。化学兵器はリビア国内で米英両国の兵器専門家らの立ち会いの下、処分された。

 ブッシュ政権下の米国はこうした手続きを経て2004年、リビアに対する経済制裁を大幅に緩和し、連絡事務所を設置したうえで、2006年5月にテロ支援国リストから解除し、大使館をトリポリに開設した。

 しかし、リビアで内乱が起きると、英仏を中心に7か国が連合して、カダフィ大佐の政府軍に攻撃が加えられた。結局、反政府軍に追われたカダフィ大佐が2011年10月に拘束、殺害され、42年間続いたカダフィ政権が終焉してしまった。当時、北朝鮮外務省報道官は「リビア核放棄方式とは、安全保証と関係改善という甘い言葉で相手を武装解除させた後、軍事的に襲う侵略方式だということが明らかになった」との談話を発表し、「リビア方式」に警戒感を示していた。

 こうした北朝鮮の根強いアレルギーもあってボルドン氏が主導した「イラク方式」はトランプ政権下では事実上不発に終わった。そこで、バイデン次期大統領は副大統領として仕えていたオバマ政権下で成果を上げた「イラン方式」の採用を検討しているようだ。

(参考資料:北朝鮮は「バイデンよりもトランプ」 オバマ前政権の「二の舞」はNO!

 ▲「イラン方式」

 「イラン方式」とは国連安保理常任理事国5か国とドイツ、イランによる「包括的共同行動計画」(JCPOA)のことで、イランが核能力を減少すれば、経済制裁を緩和するというものである。具体的には遠心分離機の数を減らすことや原子力発電所に使用する濃縮ウランを低濃縮にすることなどがイランに義務付けられた。また、ウラニウムの備蓄量も制限された。

 結局、イランは制裁解除を条件に2015年7月15日、国連安保理の経済制裁発動から9年目にして核保有、核武装をしないことを国際社会に向けて宣言した。

 バイデン新政権下で国務長官に任命されたアントニー・ブリンケン氏、また大統領補佐官(国家安全保障担当)に起用されたジェイク・サリバン氏はいずれも「イラン方式」の提唱者である。というのも、当時、ブリンケン新国務長官は国務副長官として、またサリバン新大統領補佐官はバイデン副大統領の国家安保担当補佐官としてイラン核合意に関わっていたからだ。

 ブリンケン次期国務長官はシンガポールでの初の米朝首脳会談(2018年6月12日)前日に「北朝鮮の核交渉の最善のモデルは? イラン」との見出しを付けた寄稿文をニューヨーク・タイムズに掲載しており、また、サリバン次期大統領補佐官も2016年5月、ニューヨークで行われたアジアソサイアティーでの政策演説で「北朝鮮に対してはイランと同じ戦略を行使する計画である」と述べていた。

 「イラン方式」に基づけば、バイデン政権は一気には核放棄させることはできないとして経済制裁の一部緩和を条件に核プログラムの公開、国際監視下におけるウラン濃縮施設や再処理施設の凍結、一部核弾頭とミサイル撤去などの中間合意を目指すようだ。

 核施設の廃棄ではなく凍結、あるいは弾頭とミサイルの全部でなく一部除去という段階的アプローチという点では、また北朝鮮が約束を履行すれば、その都度制裁を緩和するという点では明らかに「リビア方式」とは異なるが、北朝鮮が米国の要求を受け入れるまで国連の経済制裁や米韓合同運時演習など軍事的圧力を強化すべきとの「強硬策」の併用も主張している。それもこれも、オバマ政権は国際社会が一致団結して9年にわたって経済制裁を科した結果、イランを追い込むことができたとみているからだ。実際にイランには2006年12月、2007年3月、2008年3月、そして2010年6月と4度も国連制裁が掛けられていた。

 北朝鮮は2006年10月から2017年12まで延べ10回も制裁を掛けられているが、「イラン方式」が功を奏するかは「平和的人民が被っている苦労を少しでも和らげようと一部国連制裁と国の中核的な核施設を交換しようと提案したベトナムでのような交渉は二度とやらないだろう」(金正恩委員長)と公言した北朝鮮の豹変が前提条件となる。

(参考資料:「バイデン」の人身攻撃に無言の「金正恩」 ツケを払わすのか、自制するのか!

 「米国が我々に対する敵対、敵視政策を先に撤回しない限りは米国との交渉には応じない」(金与正党第一副部長)とする北朝鮮がバイデン大統領当選が決まってもまだ反応しないのは「米朝交渉再開のボールは米国側にある」とみなしているからに他ならない。

(参考資料:「バイデンVS金正恩」 米国の新政権に対する北朝鮮の「A」と「B」プラン

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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