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中国がWTO事務局長選挙で韓国を支持しなかった3つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2017年ワシントンでの米韓通商会議での兪明希候補(韓国産業通産省HPから)

 韓国政府はWTO(世界貿易機関)事務局長選挙の最終ラウンドで同じ女性のナイジェリアのヌコジ・オコンジョイウェアラ元財務相に完敗した兪明希・産業通商資源部通商交渉本部長の引き際を巡って苦心しているようだ。

 両候補への支持国の数は公式的には明らかにされていないが、AFPなどの外電によると、オコンジョイウェアラ候補はWTO加盟国(164か国)のうちアフリカ連合やEU諸国を含め104か国から支持を得たとされている。

 「票差」が僅差ならば、事務局長の選出は全加盟国のコンセンサス(全会一致)が条件となっていることから米国の後押しがあれば、1999年の時のように任期を6年とし、両候補に3年交代で事務局長をさせる案も浮上する可能性もあったが、これだけ大差が付くと、選出されることの正統性が問われ、現実的に難しい。

(参考資料:WTO事務局長選挙 ギブアップしない韓国に起死回生の逆転のシナリオはあるのか?

 韓国としては、オコンジョイウェアラ候補を推したアフリカ諸国やEU諸国との関係上、また保護主義の米国と歩調を合わせれば、WTOが掲げる自由貿易主義の基調に反することから本来ならば、WTO理事会が先月28日にオコンジョイウェアラ候補を推挙した段階で撤退を表明すべきだったが、WTOの最大スポンサーである米国がオコンジョイウェアラ候補への拒否権を行使したため辞退のタイミングを逃してしまったようだ。

 次期事務総長は9日に開かれるWTOの一般理事会で決まることになっているが、どうやら延期される見通しだ。オコンジョイウェアラ候補の選出案を上程しても、米国が拒否すれば、否決されるのが目に見えているからだ。

 開催地のスイスは新型コロナウイルスが再び拡大し、現在5人以上の集会が禁じられている。そのため延期は表向き「コロナ」を理由にしているが、実際は米国の大統領選挙結果に伴う米国の態度変更を期待しての引き延ばしとみられている。大統領選挙の結果、国際協調主義のバイデン氏が当選すれば、米国が拒否権を行使しない可能性もあるからだ。

 どちらにせよ、米国の反対でいつまでもトップが決まらなければ、WTOの正常な活動が制限されかねない。このためWTOにとっての理想は兪明希候補が進んで辞退することだが、韓国としても米国との関係上、そう簡単には引き下がることができないのが実情である。

 韓国にとって予想だにしない展開となったのは、EU諸国の支持を取り付けられなかっただけでなく、アジアの大国・中国が韓国を支持せず、ナイジェリアの後方支援に回ったことだ。

 なぜ、中国は韓国の兪候補を支持しなかったのか?その理由は主に3つある。

 一つは、アフリカは中国にとって一帯一路(シルクロード経済ベルトと海洋シルクロード)を実現するうえで欠かせないことだ。

中国にとっては投資拡大も含めてアフリカへの進出は国家戦略となっているし、友好国のナイジェリア出身の事務局長選出は中国の利益になるとみている。オコンジョイウェアラ候補は中国の戦略を理解していることで知られている。彼女は2018年にファイナンシャル・タイムズ紙に「中国とアフリカの人口は全世界の人口の3分の1を占めているので両国が相乗作用すれば世界経済に莫大な影響を及ぼせる」と寄稿していた。

 次に、韓国の兪候補が事務局長に選出されれば、事務次長のポストを失うからだ。

現在、4つの事務次長の一つを中国の易小准WTO常駐代表が占めている。中国人初の次長である。仮に事務局長が韓国から選出されれば、次長は同じアジアから出すことはできない。ちなみに、前任のブラジル出身のアゼベド事務局長の時は中国のほか、ドイツ、ナイジェリア、米国から選出されていた。

 最後に、中国は兪候補を「親米派」とみなしていることだ。

 中国は米国と貿易戦争の真っただ中にある。すでに米国とは訴訟合戦も始まっている。米国の中国製品に対する関税は不当として、WTOの紛争処理小委員会で争っている。従って、WTOの事務局長が中国寄りか、米国寄りかは、中国にとっては死活的な問題でもある。

 兪候補は昨年発効した米韓自由貿易協定(FTA)の改定に産業通算資源部通産交渉室長として携わったことで米国の受けが良い。米韓FTAの改定は2018年1月に交渉が始まり、9月に署名、批准,発効と短期間で決着している。米通商代表部には友人も多く、そのことは今回、米国が「紛争解決の仕組みがコントロール不能で基本的な透明性の義務を守る加盟国がない時期において、実戦経験を持つ真の専門家が率いる必要がある」として兪候補を全面的に支持したことからも明らかだ。

 WTO事務局長選挙に手を挙げてしまったがために貿易パートナー1位の中国と2位の米国の板挟みにあい、どうやらあちらを立てればこちらが立たぬの状況に置かれてしまったようだ。まさに、進むも地獄退くも地獄である。

(参考資料:WTO(世界貿易機関)事務局長選挙で韓国が勝てない4つの理由

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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