「金正恩後継者」と俄然注目されている「与正」とは何者?

金正恩党委員長と妹の金与正党第一副部長(出所:労働新聞)

 米CNNの報道で金正恩委員長の「重篤説」が取りされたことで国際社会の目が北朝鮮に注がれている。

 仮に「重篤」が事実で、金委員長に万一のことがあれば、後継者の問題が次の関心の的となる。早くも日米韓のメディアの中には跡を継ぐのは実妹の金与正(キム・ヨジョン)政治局員候補兼党第一副部長であると報道しているところもある。異論のないところだ。しかし、与正氏の実像を知っているメディアはそう多くはない。

 金与正氏は父・金正日総書記と在日帰国者である母・高容姫との間に1987年9月26日に生まれている。兄の正恩委員長(1984年1月8日)よりも3歳年下である。

 国内ではなく、オーストリアのウィーンの病院で産まれたとの説があるが、幼児の頃から母親に連れられ外国を旅行している。例えば、1991年5月には兄ともども来日し、ディズニーランドに行ったことが確認されている。また、翌年の1992年にも7月20日から8月7日まで母親と一緒にスウェーデンでバカンスを過ごしていた。

 与正氏は1998年(11歳)から2000年(13歳)まで正恩兄と同じスイスのペルン公立学校に留学していたが、その時の名前は「ジョン・スン」で、当時の学友らの話では趣味はイラストを描くことと踊りで、ダンス部に属していたそうだ。

 兄と共に2000年に帰国してから消息が途絶えたが、10年後の2010年9月に開催された労働党代表者会の記念写真に「金正日総書記の第4夫人」と称された秘書の金玉と共に写真に納まっていたことで注目された。

 翌年の2011年2月には英国のミュージシャン、エリック・クラプトンの公演を鑑賞するため長兄の正哲(1981年生まれ)氏と共にシンガポールに現れたと報道されたが、正哲が同行した女性が妹の与正氏なのか、それとも正哲氏の婚約者なのか今もって確認されてない。

 この年の12月19日、父・正日総書記が死去したが、10日後に開かれた追悼大会で与正氏が後継者となった正恩氏の後ろに立っていたことから今後、兄をサポートする重要な地位に就くのではとの憶測が流れた。実際に3年後の2014年11月には党副部長になっていた。この日の労働新聞には兄の後ろでメモ用紙を片手に微笑を浮かべている写真も掲載された。

 父の正日総書記が28歳で、叔母の慶喜書記が30歳で、それも指導員から課長と段階を経て副部長になっているのに比べ、若干27歳でいきなり党副部長抜擢とは明らかに異例の出世である。現に3年後の2017年10月には一気に政治局員候補に選出され、肩書の上でも30人から成る党最高幹部の一人となった。

 与正氏が国際社会のスポットを浴びたのは2018年2月に韓国の平昌で開催された冬季五輪の開幕式に北朝鮮の代表団の一員として出席した時からだ。団長の金永南最高人民会議常任委員長(党序列No.2)が団員の与正氏に席を譲るなど奉っていたこともあって、韓国政府もメディアも与正氏が「影のNo.2」であることを見て取った。与正氏は物怖じすることもなく、大統領官邸を訪れ、文在寅大統領と会見した際にも冗談を言うほどの余裕を見せるなど威風堂々としていた。

 現在の肩書は党第一副部長だが、引き続き宣伝部門を担当しているのか、それとも組織部門の担当なのか不明だ。ただ、今年になって北朝鮮がトランプ大統領に対して、あるいは文在寅大統領に対して外務省高官でもなく、対南担当の祖国平和統一委員会の高官でもなく、与正氏の名前で談話を出しているところをみると、金正恩委員長の「名代」あるいは「代行」のような役割を担っていることが窺い知れる。

 与正氏のプライベートも兄同様に一切秘密裏に伏せられているが、2014年10月頃から「結婚しているのでは」との噂が流れていた。実際に翌2015年1月2日に公開された写真をみると、左手の薬指に指輪がはめられていた。さらに、2か月後の3月12日に兄の部隊視察に同行した際の写真を見ると、膨らんだお腹を隠すかのようにゆったりした服を着ていたことや踵の低いシューズを履いていたことから妊娠説も流れていた。

 今回の「金正恩重篤説」に象徴されるように「朝鮮日報」をはじめとする韓国内の北朝鮮専門メディアは「北朝鮮内部情報筋」や「消息筋」を引用して北朝鮮のトップシークレットである金正恩委員長のプライバシーを伝えているが、韓国政府もメディアも今もって、与正氏の夫が誰で、子供が何人いるかも割り出せないでいる。

 与正氏についてもしばしば健康不安説が取り沙汰されており、2015年頃からは「骨結核を患っており、抗結核藥を服用している」との噂が韓国で流れたこともあったが、これまた今もって確かなことは何一つわかってない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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