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米国のイラン軍司令官殺害に金正恩委員長は委縮?それとも挑戦!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

 イランの革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が訪問先のイラクで米無人機から発射されたミサイルで殺害された事件に関連して韓国メディアの一部には北朝鮮が米国のレッドラインを越える大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射などの軍事挑発を行えば、金正恩委員長も同じ目に合うかもしれないとの見方がなされている。

 トランプ大統領はソレイマニ司令官が「米国人への邪悪な攻撃を企てていたため殺害した」と説明していた。米国防総省も「在外アメリカ人を守るための断固たる防衛措置である」と正当化していた。トランプ大統領は主権侵害との国際社会の批判にも意に介さず、悪びれた様子もなく「もっと前に除去すべきだった」とツイートしていた。

 「米国ファースト」のトランプ大統領ならではの決断は確かに先の党中央委員会総会で米国との全面対決を表明した金正恩委員長兼最高司令官に向けての警告に聞こえなくもない。金委員長が心理的に圧迫を受け、委縮し、もしかすると予告していた「新たな戦略兵器」の発射を自制するのではとの見方がなされても不思議ではない。

 ソレイマニ司令官の殺害には1000km離れた所から目標物を監視、攻撃、破壊する「空の暗殺者」と称される無人機MQ-9リーパーが使用されているが、この無人機はシリア北部に潜伏していた「イスラム国」(IS) 最高指導者バグダディが昨年10月に殺害された際にも使用されている。

 昨年12月4日に北朝鮮が「クリスマスプレゼントに何を選ぶかは全的に米国の決心次第だ」とトランプ政権を威嚇して以来、米軍が北朝鮮全域に対して頻繁に偵察活動を行っているのは周知の事実である。先月だけで無人機などを使って32回も偵察を行っていた。従って、今回のイラン司令官殺害は北朝鮮にとっては「対岸の火事」とみなすわけにはいかず、今後は当然、金委員長の身辺警護にナーバスにならざるを得ないだろう。

 しかし、北朝鮮がこれに怖気づいて、「直ちに我が人民が受けた苦痛と抑制された発展の代価をきれいに全て受け取るための衝撃的な実際の行動に移る」と宣言し、「世界は我々が保有する新たな戦略兵器を目撃することになるだろう」との計画を取り止めることはなさそうだ。逆に急ぐのではないだろうか。そのことは、2017年4月に起きた米軍のシリア空爆後に北朝鮮が取った行動をみれば説明が付く。

 トランプ大統領が命令を下したシリア空爆(4月7日)は地中海に待機していた艦船から巡行ミサイル60発が発射され、シリアの軍事基地などを破壊した。「アサド政権が化学兵器を使用し、民間人を殺害したのは人類に対するこの上ない冒涜であり、無垢の子供や幼児らを殺害したのは一線を越えた」ということと「化学兵器の拡散と使用を阻止、抑止することは米国の安全保障にとり死活的に重要である」との理由による。また、トランプ大統領は「シリアのアサド大統領の態度を変えさせようとする過去の試みは全て失敗したため」とも説明していた。

 当時、米国のこうした定義、理屈は核・ミサイルなどの大量破壊兵器を放棄しない北朝鮮がレッドラインを越せば、北朝鮮にも適応されるとみられていた。というのも、トランプ大統領が「北朝鮮が全世界の脅威であり、世界の問題である」として「北朝鮮は直ぐに処理しなければならない」と公言していたからだ。

 ところが、北朝鮮外務省は「一部にはシリアに対する米国の軍事攻撃が我々に対する警告的行動であると騒いでいるが、そんなことに驚く我々ではない」とのスポークスマンの談話を出し、実際にシリア空爆から2日後に日本海に面した新浦から弾道ミサイル1発を発射したのを皮切りに4月は弾道ミサイルを4度発射したのをはじめ、5月には潜水艦弾道ミサイルを地上型に改良した「北極星2号」とグアムを照準に定めたIRBM級の新型ミサイル「火星12号」を、7月には米西海岸を標的にした準ICBM「火星14号」を、そして11月にはICBM「火星15号」の発射実験を立て続けに行っている。何と、9月には6度目の核実験、それも水爆実験まで強行していた。

 金正恩政権が米国のシリア空襲に恐れおののいていたならば、この年の新年辞で予告していた「火星15号」の発射も、水爆の実験も踏み切れなかったはずだ。

 昨年12月の北朝鮮の「クリスマス挑発」に対してトランプ大統領は北朝鮮に対して「武力使用が必要なら武力を使う。敵対的行動をするならば、すべてを失うだろう」と述べ、また、チャールズ・ブラン太平洋空軍司令官も「「(鼻血作戦など)2017年にやった多くのものがある。埃をはたいて利用する準備はできている」と警告を発していた。

 それだけに金正恩政権が予告どおり「新たな戦略兵器」の発射(実験)を行った場合、今度はトランプ政権が「決断」を迫られることになるだろう。

 「米朝チキンレース」のゴングが3年ぶりに鳴るのは時間の問題である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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