世界が注目する「金正恩新年辞」――軍事対決にシフトするのか!?

労働党中央委員会全員会議で報告する金正恩委員長(労働新聞)

朝鮮労働党中央委員会総会(全員会議)が今日も継続して開かれる。開幕日の28日から4日連続だ。今から29年前の祖父・金日成政権下の5日連続(1990年1月5-9日)に続く長さである。事の深刻性、重大性が読み取れる。

 全員会議を伝えている朝鮮中央通信によると、金委員長は3日連続で演壇に立ち、「延べ7時間にかけて国家建設、経済発展、武力建設に関する報告を行った」とされている。

 昨日は「国の自主権と安全を徹底的に保障するための積極的かつ攻勢的な政治外交及び軍事的な対応措置を準備することについて」の報告があったようだ。「積極的かつ攻勢的な政治外交及び軍事的な対応措置」の詳細は明らかにされていないが、明日元旦に金委員長が読み上げる新年辞でその全容が明らかにされるものとみられる。

 ポンペオ米国務長官は昨日、FOXニュースとのインタビューで北朝鮮に対して「対峙ではなく、平和の道に繋がる決定をするよう」呼び掛けていたが、金委員長が「革命の最後の勝利に向けて再び辛苦かつ長躯の闘争を決心した」と、持久戦、長期戦を暗示する発言をしているところをみると、さらなる経済制裁と外交孤立を覚悟した上での行動を取るのかもしれない。

 金正恩政権発足からの過去7回の金委員長の新年辞はいずれも事前収録され、午前9時に放送される。但し、2016年と2017年は昼の12時に放送されていた。

 今年(2019年)は党本部(党舎)の、それも先代の指導者(金日成主席と金正日総書記)らが描写された絵画と国旗と党旗が掲げられていた応接室らしき部屋でソファーに座ったままでの演説となった。応接室に入る前に妹の金与正党第一副部長ら3人の側近を引き連れていた。服装は党服ではなく、2018年に続いて2年連続背広姿だった。

 今年の新年辞では「私は米国との関係でも今後良い関係が築かれるものと信じたい。私はこれからも、いつでも、再び米大統領と会う準備が出来ており、必ず国際社会が歓迎する結果がもたらせるよう努力する」と確約したこともあって「核武力」「並進路線」など慣用語が消えていた。

(参考資料:「核武力」「並進路線」など慣用語が消えた!――経済重視の「金正恩新年辞」を読む

 「先軍」という枕詞も消えていた。「先軍朝鮮」「先軍政治」「先軍革命」「先軍の旗」は禁句となった。核とミサイルを指す「核武力」「並進路線」「我々式の威力ある最尖端武装」などの言葉も見当たらなかった。昨年(2018年)の「新年の辞」で核兵器発射のボタンは「常に自分の机にある」と語ったのとは天と地ぐらい差があった。

 何より「経済」に関する言及が大幅に増えていた。昨年の新年辞では21回登場したが、今年は38回とほぼ倍増していた。経済を重視していたことがわかる。それもこれも2016年に36年ぶりに開いた労働党第8回大会で打ち出した国家経済発展5か年戦略の最終年度が来年に迫っているからに他ならなかった。金委員長が軍拡から経済にシフトした背景には米国による体制保障への期待があったはずだ。

 金委員長は今年の新年辞で「6.12(シンガポール首脳会談)米朝共同声明で明らかにしたように新たな時代要求に沿い、両国関係を樹立し、朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制を構築し、完全な非核化に向かうことが我が党と共和国政府の不変な立場で、私の確固とした意志である」と発言していた。待望していた米朝交渉が進展しなかったことから明日の新年辞で「朝鮮半島の非核化」を言及するかどうかが最大の注目点となるだろう。

 仮に、北朝鮮が一触即発の状態に陥った2017年の状況への回帰を覚悟しているならば、1月から2月の間に軍事的アクションを起こす可能性が大だ。

 緊張状態にあった2015年から2018年の過去4年間の新年辞を振り返ると、2015年では「核武力建設と国防力強化で新たな転換を起こし、軍事強国の威力を一層高めなければならない」と言及し、2月6日に元山から新型艦隊艦ミサイル、27日には新浦から「北極星1号」という名のSLBM(潜水艦弾道ミサイル)の水中実験があった。

 2016年も「軍需工業部門は国防工業の主体化、現代化、科学科水準を一層高め、敵らを完全に制圧できる我々式の軍事的打撃手段をより多く開発・生産しなければならない」との言及があったが、新年辞から5日後の6日に核実験があり、翌2月7日には人工衛星と称しての長距離弾道ミサイル(テポドン)の発射があった。核実験は金正恩委員長誕生日の2日前、テポドンは人民軍創建日の前日に行われた。

 2017年は「朝鮮人民軍創建85周年となる今年は軍力強化で熱風を起こさなければならない。国防部門では我々式の威力のある主体武器をより多く生産しなければならない」との発言があり、2月12日に平安北道・亀城から「北極星1号」を地上型に改良した「北極星2型」の発射があった。

 2018年も「核兵器研究部門とロケット工業部門ではすでにその威力と信頼性が確固として担保された核弾頭や弾道ロケットを大量生産し、実戦配置する事業に拍車を掛けなければならない。敵の核戦争策動に対処した即時的核反撃作戦態勢を常に維持しなければならない」との発言があったものの平昌冬季五輪(2月)への参加と米朝首脳会談(6月)開催が決まったことで行動を起こさなかった。

(参考資料:北朝鮮が対米交渉で一転、強気な背景

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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