31年間も海外にいた「金正恩の叔父」(金平日大使)が本国に召還された理由!

帰国した金平日駐チェコ大使(写真:Shutterstock/アフロ)

 金正恩委員長の叔父の金平日(キム・ピョンイル)駐チェコ大使が最近、大使の任を解かれ、北朝鮮に帰国したようだ。

 金平日大使の離任説は今年4月頃から流れていたが、このほど韓国の情報機関・国会情報院(国情院)が確認し、国会情報委員会で報告したことで明らかとなった。

 金大使は今年65歳。異母兄の故・金正日総書記よりも一回り年下である。兄は金日成主席の前妻(金正淑)の子であるが、弟は後妻(金聖愛)との間の子である。

 兄よりも父親(金日成主席)似の金平日氏は金日成総合大学で学び、卒業後、「軍人になれ」との父親の勧めもあって金日成軍事総合大学で軍事を学んだ。参謀長育成過程教育を修了し、歩兵指揮官として軍に勤務した後、27歳の時にユーゴ大使館に武官として派遣された。約2年間務めた後、30歳で人民武力部作戦副局長に起用されるなど軍人としての出世街道を歩んでいたが、1988年に突如、ハンガリーの大使に任命された。当時、まだ34歳の若さだった。

 金平日氏がなぜ、軍服を脱がされ、海外に出されたのか?今もって謎とされている。若手将校の人気が高かったことから軍における勢力拡大が金正日後継体制確立への障害になるのを恐れ、外に出されたとも言われていたが、以後、ブルガリア、フィンランド、ポーランド大使を転々とし、2015年3月からチェコの大使に就任していた。この間、一度も本国に召還されたことはなく、大使をたらい回しされ、現在に至るまで延べ31年にわたって海外生活を強いられた。

 甥の金正恩委員長が政権基盤を確立した2015年7月に平壌で開かれた大使会議に出席のため一時帰国したが、会議終了後に大使ら外交官全員が金委員長と一緒に納まった記念写真をみると、金平日大使は同じように帰国することになった異母姉(金慶鎮)の夫、金光燮駐ハンガリー大使と共に2列目の左隅に立たされていた。すでに権力の中心から外されていることは誰の目にも明らかだ。

 駐中国大使やソ連大使、あるいは国連大使らが揃って党中央委員(128人)あるいは党中央委員候補(106人)に選ばれているのに「偉大なる首領様(金日成主席)」の息子が選出されてないことがそのことを物語っている。

 金平日氏が帰国後、新たなポストに就くのか、それとも夫(張成沢元党行政部長)の処刑後、全ての地位を解かれ、66歳で「隠居生活」を強いられた義姉(金慶喜)と同じ道を辿るのかは定かではないが、北朝鮮の権力構造上、おそらく金正恩委員長の実兄(金正哲氏)同様に表に出て来ることはなさそうだ。

 性格的には内向的で、華やかな所に出るのを好まず、ブルガリア大使時代に現地の新聞「トルード」のインタビューに応じたのを含め、海外メディアとのインタビューは過去にたった2度しかない、目立つこともなく、ひっそりと暮らしていた金平日氏がなぜ、31年にわたる大使の任を解かれ、本国に召還されたのか?これまた謎である。

 韓国国内の北朝鮮ウォッチャーの間では▲査問・粛清するため▲金正恩のライバルではないため▲金正恩体制の安定を誇示するため▲身内が少ないため相談相手になってもらうため▲重責に登用するためなど様々な説が流れているが、帰国の背景には金平日大使が北朝鮮要人らの亡命を画策している闇組織「自由朝鮮」の標的にされていることと無関係ではなさそうだ。

(参考資料:衝撃的な「駐スペイン北朝鮮大使館襲撃事件」の全容)

 「自由朝鮮」は今年2月にスペイン駐在の北朝鮮大使館を襲撃したことで知られている「打倒金正恩政権」の闇組織である。スペイン警察当局の捜査で、銃やナイフなどで武装し、大使館に押し入り、大使館員らを縛り上げ、頭から頭巾を被せ、首筋にモデルガンを突き付け「西側の国に亡命しろ」と亡命を強要していたことが明らかになっている。

 誘引、懐柔、脅迫などを弄し海外駐在の北朝鮮外交官や貿易関係者に亡命を促すことも辞さない「自由朝鮮」の前身は2017年2月に起きた金正男殺害事件に絡み息子の漢卒(ハンソル)氏をマカオから緊急脱出させたことでその名を轟かせた脱北者救出団体の「千里馬民防衛」である。

 金正男氏は殺害される1週間前にマレーシアに入り、ランカウイ島のホテルで韓国系CIA要員から情報提供の見返りとして多額の現金を受け取っていた。スペイン大使館襲撃事件のリーダーであるホン・チャンも事件前にCIAと接触していた。米CIAの庇護の下、ホン・チャンが亡命政府の樹立を計画し、数回にわたって金正男氏に接触し、北朝鮮を見限って、亡命政府の首班になるよう説得していたことは周知の事実である。

(参考資料:「打倒金正恩政権」の亡命者組織「自由朝鮮」の背後に米CIA!)

 金体制を揺さぶる心理作戦を展開している米CIAはこれまで情報価値のある北朝鮮の大物、VIPの亡命にはほぼ関与してきた。金正日総書記の甥(李韓永)の亡命(1982年)、金正男氏の母(成恵琳)とその姉(成恵良)の亡命騒動(1996年)、さらには金正恩委員長の叔母(高容淑)夫婦の亡命(1998年)はロイヤルファミリーの亡命だけに北朝鮮に与えた衝撃は半端ではなかった。

 これ以外にも張承吉駐エジプト大使の亡命(1997年)にも絡み、金正恩政権を真っ向批判している太永浩・元駐英北朝鮮公使の3年前の韓国亡命でも「ガーディアン」や「サンデー・エクスプレス」などの報道で「CIAが手助けをした」ことが確認されている。

 ホン・チャンが金正男氏を亡命政府の首班に擁立しようと再三、アプローチしていたこと、また金正男氏が殺害された直後に保護した息子をその後釜に据えようとしているのは臨時政府であれ、亡命政府であれ、その正当性をアピールするには金一族のDNAを継承している人物が相応しいと考えていることに尽きる。

 駐スペイン北朝鮮大使館を襲撃した「自由朝鮮」は3月31日付のウェブサイトに新たな声明を載せ、「我々は今、大きなことを準備している。その時まで暴風前夜の沈黙を守る」と引き続き新たな行動を起こすことを予告していた。こうしたことから金平日大使が狙われていたとしても不思議ではない。

 実際に、海外にある北朝鮮の大使館をめぐっては「不穏な動き」が起きている。

 例えば、今年4月29日に何者かが金正日総書記の側近だった金容淳(党書記=03年死去)の子息である金星・駐国連大使が居住している建物に侵入し、小包を置いていく事件が発生している。小包には脅迫の手紙とアルコール入りの小瓶2本、それに大使が利用する駐車場を映した写真3枚が入っていた。

 写真の裏には「X」の文字が表示されていたが、手紙には「我々の秘密連絡員を通じてある団体と協力すること、協力に応じなければ、身を保障しない」と書かれていたとのことである。6月(13日)にも「大使級高位関係者」の安全が脅かされる事件が起きている。

 国連駐在の北朝鮮大使館はニューヨーク警察に被害届を出す一方で、国連本部にも書簡で大使館の警備と大使館員の警護強化を求めていたが、金平日大使や異母姉(金慶鎮)の夫、金光燮駐ハンガリー大使の帰国は「自由朝鮮」など海外で暗躍する反北朝鮮組織の迫りつつある「魔の手」から逃れるための「予防策」なのかもしれない。

(参考資料:米国は北朝鮮大使館を襲撃した容疑者らをスペインに引き渡すのか)

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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