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「北朝鮮漁船衝突事故」の気になる北朝鮮の反応――報復も?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
水産庁取締船が北朝鮮漁船と衝突(提供:第九管区海上保安本部/ロイター/アフロ)

 昨日起きた日本の排他的経済水域での日本水産庁の取締船と北朝鮮漁船の衝突は起こるべきして起きた事故と言える。

 事故が起きた能登半島沖の大和堆はスルメイカなどの漁業資源の宝庫で、4~5年前から北朝鮮の漁船が大挙押し寄せている。海上保安庁によると、外国漁船の警告件数は2016年が3,681隻、2017年は5,191隻、そして昨年は5,315隻と年々増加している。

 今年もすでに5月下旬から昨日(10月7日)まで海上保安庁による退去勧告が1、065隻、水産庁による退去勧告も5月下旬から8月5日までの約3か月間で498隻に上る。その圧倒的多くは北朝鮮の木造漁船だが、退去してはまた入ってくるいたちごっこが続いている。日本への漂流・漂着件数だけでも2013年度からの5年間で372件に達する。

 今回、どのような経緯で衝突に至り、漁船が沈没したのか、漁船に何人乗っていたのかなど詳細は不明だが、全員救助されたならば、不幸中の幸いと言える。しかし、万に一つ、一人でも、二人でも死者(行方不明者)が出ているならば、逆に北朝鮮からの反発は避けられそうにない。

 日本からすれば、日本のEZZ内に侵入し、不法操業を行っていた漁船に退去を命じたのに漁船が警告に応じず 急旋回しため衝突事故が起きたわけだから非は北朝鮮側にある。日本政府が北朝鮮に抗議するのは至極当然である。衝突の原因については尖閣諸島で9年前に起きた中国漁船衝突事件時と同じように衝突現場の映像を公開すれば、そのことは一目瞭然である。

 しかし、仮に、日本が証拠となる映像を公開できないとなると、北朝鮮の反発を買いかねない。乗組員を記者会見させ、漁船が「日本によって不当に沈没された」と言い出しかねない。損害賠償も求めてくるかもしれない。仮に、死者が出ていれば、慰謝料を要求するだろう。というのも、今から44年前の1975年9月に日本のフグ延縄漁船が黄海北部において操業中に北朝鮮の警備艇による銃撃で死者が出た際、 北朝鮮に一人当たり、2万ドルの弔慰金を出させた経緯があるからだ。

 そうでなくても、北朝鮮は今年になって、唐突に事故が起きた海域は「自国の排他的経済水域である」と言い出しているだけにややこしい。

 今年8月23日、24日と大和堆の西方で警備艇とみられる北朝鮮の武装船が海上保安庁の巡視船に約30メートルの至近距離まで近づき、小銃らしき武器を向け、威嚇する事件が発生したが、北朝鮮の外務省はこの件について翌9月17日、スポークスマンの談話を発表し、「我々のEZZに不法侵入した海上保安庁の巡視船と船舶を自衛的措置を取り、追い出した」と主張していたからだ。

 北朝鮮が外交ルートを通じて日本に対して「我々の漁船への操業妨害行為を再発させない対策を講じるよう厳重に注意した」のが事実ならば、「妨害行為」が再発したどころか、沈没されたわけだから、黙っている筈はない。仮に、今回、何の反応もしないならば、現場が日本のEZZであること、また、北朝鮮の漁船に非があることを自ら認めることに他ならないからだ。

 特に、2日後に迫った労働党創建日(10日)を前に、また経済5か年計画の最終年度である来年に向け、水産量を飛躍的増大に向け大胆かつ大きな目標を掲げて「決死的な漁獲戦闘」を展開している北朝鮮が日本の取締船によって漁船を沈没されたことを「屈辱」として捉えているならば、何らかの報復も考えられなくもない。

 北朝鮮は今年5月から北朝鮮版「イスカンデル」と呼ばれる単距離弾道ミサイルや米国の戦術地対地ミサイル「ATACMS」と似た地対地弾道ミサイル、さらには大型大口径操縦ロケット砲の発射を繰り返し、かつ、10月2日には新型潜水艦発射弾道ミサイル「北極星3号」の試射を強行している。

 北朝鮮は「周辺国の安全に些細な否定的影響を与えなかった」と、あたかも日本に配慮したかのようなことを言っているが、「北極星3号」は明らかに日本のEZZ内の大和堆の近海に着弾していた。

 国際民間航空機関(ICAO)にも国際海事機関(IMO)にも事前通告せず唐突に発射しておきながら「周辺国の安全に些細な否定的影響を与えなかった」と言うのは言語道断だが、今回の衝突事故で北朝鮮が態度を硬化させれば、日本の安全に悪影響を及ぼしかねない行為に及ぶ可能性はあり得る。

 北朝鮮は今年2月、日本が青森と島根で遭難していた6人の乗組員を保護、治療し、中国経由で北朝鮮に送還した際、珍しく「近年、遭難したわが船員たちが無事に帰国できるように数回にわたって人道的援助を提供してくれた」として赤十字社を通じて日本政府に謝意を表していた。

 それが、今度は一転して、非難と変わるのか?日朝関係の更なる悪化に繋がりかねないだけに北朝鮮の反応が注目される。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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