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WTO提訴で韓国に勝算はあるのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
WTO(世界貿易機関)本部(写真:ロイター/アフロ)

 韓国は来月(8月)にも日本が輸出上の特恵を与えていた「ホワイト国」(27か国)から除外されることを既成事実として受け止め、その対応、対策に大わらわである。

 日本政府が安全保障上「友好国」として認め、「ホワイト国」にリストアップされれば、日本からの軍事転用可能な戦略物資は輸出手続き簡素化など優遇措置が与えられる。韓国は2004年に指定され、恩恵を受けてきた。従って、指定解除となると、今後ほぼすべての産業分野でもろに影響を受けることになる。

 具体的に言えば、非「ホワイト国」扱いとなると、工作機械、尖端素材、電子、通信、センサー、化学薬品など幅広い部材(食品と木材を除く)が今後、個別ごとに政府の許可が必要とされる。韓国の場合、その対象は1,110品目に及ぶ。当然、韓国経済に与える影響は今月4日に半導体素材3品目に限定された輸出審査厳格化措置の比ではない。

 こうした状況を「非常事態」とみなす文在寅大統領をはじめ青瓦台(大統領府)、政府、国会、経済界では連日会議、会合を開き、企業の被害を最小限に止めるための予防、防御策を模索する一方で、日本が直接交渉に応じないことから当事者による外交解決は困難とみて、WTO(世界貿易機関)への提訴を急ぐことにしている。

 日本では一連の措置は輸出の禁止、規制ではなく、安全保障上の理由から韓国へのこれまでの特別扱いを止め、一般の国並みに書類審査、検査を厳格化するだけなのでWTOに違反してないことから提訴の対象にならないこと、仮に韓国の提訴が受理されたとしても、日本が「敗訴」することはないと自信満々だ。

 確かに日本の視点からみると、韓国に勝ち目がないようにみえるが、韓国には韓国なりの勝算があるようだ。

 韓国は日本の措置は元徴用工訴訟判決に対する政治報復であり、自由貿易の原則に反するとの観点から訴え、争う方針のようだ。そのことは、一昨日、ソウルの世宗国策研究団地で「日本の輸出制限措置の分析と展望」と題して開かれた国策研究機関・対外経済政策研究院(KIEP)主催のセミナーに集約されていた。

 政府の通商交渉を論理的に、政策的にバックアップするKIEPは日本の反論を国際通商法的見地から論破できるとしている。例えば、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)第11条第1項は会員国が輸出許可などで輸出を禁止、あるいは制限できないよう義務化していることから韓国は日本の「厳格化措置」が事実上、輸出制限措置に該当する素地があるとみている。

 日本はこれまで韓国に付与してきた特恵を外し、元に戻し、普通の国として扱うだけだからWTOの規定に反してないとの立場だが、韓国は国際貿易規範の基本であるWTO貿易規範第1条第1項に該当する最恵国待遇義務には他に例外理由が存在しない限り、特恵を取り消す措置については争点にすることができることから日本の今回の措置によって日本の対韓輸出が具体的にどれだけ減少したのか、また、他国への輸出に比べて処遇がどの程度不公平だったのかを立証すれば日本の措置を撤回させることも可能とみている。

 KIEPはまた、今回の日本の措置が貿易規則を一貫して、公平かつ合理的方式で施行する義務を明示したGATT第10条第3項に違反しているとみなし、問題提起すべきと政府に進言している。このGATT条項によれば、日本の輸出規制が類似した状況にある利害関係者らを同じように待遇していない場合、特定国家の輸出に限って不必要に複雑で過度の申請書類の提出を要請し、不当な行政処理遅延をもたらす場合がこの事例にあたるようだ。

 日本は戦略物資輸出統制制度を順守するため例外措置として輸出規制が認められることを定めたGATT第20条(d項)と必須的な国家安保保護例外措置に該当する同第21条(b項)を法的根拠として日本の対応を正当化するものとみられるが、この場合、日本は韓国への輸出が安全保障に脅威を与えていることを立証しなければならない。即ち、対韓輸出の審査厳格化を行った根拠としている安全保障上の「不適切な事案」を明かにし、理解を得る必要がある。

 韓国は日本の水産物輸入制限をめぐるWTOの裁定で逆転勝訴した時の担当者らを集め、提訴の準備をしているが、先週訪米し、マルバニー大統領首席補佐官とこの問題で協議した金ホンジュン大統領府国家安保室2次長は米国で弁護士なった後、WTO(世界貿易機関)首席弁護士を経て、盧武鉉大統領が秘書室長として仕えた盧武鉉政権下で日韓自由貿易協定(FTA)交渉を担当し、近年では米韓自由貿易協定をまとめたこの道のプロである。

 米国が日韓の争いごとで一方に与することはないが、韓国がWTO提訴に向けて環境整備しているのは間違いない。世界貿易機関は今月23日から24日までスイス・ジュネーブの本部で一般理事会が開かれるが、すでに韓国側の要請が認められ、理事会の正式な議題となっている。

 果たして、どちらの言い分が通るのか、10日後には判明する。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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