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日本の「対韓輸出規制」は安全保障上の理由?政治報復?どっちが本当?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日韓両政府の課長級による実務レベル会合(韓国共同取材団)

 昨日、日韓通商摩擦関連で課長級による会合が開かれ、韓国の担当者が半導体素材の対韓輸出の審査厳格化を行った根拠である「不適切な事案」について説明を求めると、日本の担当者は「第三国への横流しを意味するものではない」と回答したようだ。

 「第三国への横流しを意味するものではない」との「答弁」を聞いて、アレっ?と思った。一般には横流しの確証が、あるいは疑いがあるからこそ、日本が今回の措置を取らざるを得なかったと受け止められているからだ。

 日本からの戦略物資が大量破壊兵器を開発している北朝鮮など第三国に輸出されている疑いがあれば、疑いが晴れるまでは輸出審査の厳格化、規制は至極当然のことである。ところが、今朝の産経新聞によると、日本の担当者は韓国の輸出管理が脆弱であることを指摘しつつも、日本政府が規制強化に踏み切った理由である「不適切な事案」については意外にも「北朝鮮をはじめとした第三国への輸出を意味するものではない」と釈明したというのだ。

 テレビでの萩生田光一自民党幹事長代行の「(過去輸出した分の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだからこうしたことに対して措置を取るのは当然だと思う」(7月4日)の発言、さらに小野寺五典元防衛相の「今までウラン濃縮素材(フッ化水素)について韓国企業が“100欲しい”と言ったら100渡していた。しかし工業製品に使うのは70ぐらいで残りを何に使うか韓国は返答しなかったので必要な量を渡すために規制した」(7月6日)の発言があっただけに「もしかしたら」との疑念を韓国に抱くのはある意味では当然かもしれない。

 まして、フジテレビ系列ニュース(7月5日)にいたっては、萩生田代行の発言を紹介しながら、某与党幹部の言葉を引用し、「ある時期、今回のフッ素関連の物品(高純度フッ化水素、エッチングガス)に大量発注が急遽入って、その後、韓国側の企業で行方が分からなくなった。今回のフッ素関連のものは毒ガスとか化学兵器の生産に使えるもの。行き先は“北”だ」と報道していたからなおさらだ。「フジ」に限らず、他のテレビ媒体でも「北朝鮮に横流し?韓国不適切輸出管理」などの見出しを掲げ、行き先不明のフッ化水素など戦略物資が北朝鮮など第3国に流れた疑惑が横並びで取り上げられていた。

 日本政府は今回の日本の対韓措置について元徴用工訴訟への対抗措置でも、報復措置でもないと主張しているが、当初は誰もが元徴用工訴訟絡みと受け止めていたはずだ。G20サミットまで第三者委員会に応じるよう求めたにもかかわらず文在寅政権が梨のつぶてだったことへの当然の「対抗措置」という見方が支配的だった。何よりも、麻生太郎副総理兼財務相がすでに3月の時点で「対抗措置」を示唆していたからだ。

 元徴用工訴訟で賠償を命じられた日本企業の差し押さえ問題を受け、麻生副総理は衆院財務金融委員会(3月12日)で「関税に限らず、送金の停止、ビザの発給停止とか対抗措置には色々ある」と明言していたことはまだ記憶に新しい。

 また、安倍晋三総理も参院選公示前日に日本記者クラブで行われた党首討論会(7月3日)で「国際約束である請求権協定・慰安婦合意が守られてない。約束を守らない国に優遇しないのは当然の判断である」と優遇措置を外したのは韓国が日韓条約や日韓「慰安婦合意」を守らないことにあると自らの口で語っていた。

 安倍首相はこの日、テレビ朝日の番組でも韓国への半導体素材輸出管理強化について元徴用工問題を念頭に「国際約束を反故にされた」と強調した上で「日本もやるべき時はやると示すことは国際関係の中でも常識の範囲内だ」との認識を示していた。

 ところが、報復目的の輸出規制強化に内外で批判が高まったことや、韓国がWTO(世界貿易機関)への提訴に動き出すと、政治上の理由ではWTO違反になりかねないと危惧したのか、「安全保障上の理由」を前面に持ち出した。要は、「韓国は国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理において、守れないと思うのは当然ではないか」(安倍総理)の論理で半導体素材の対韓輸出の審査厳格化を決めたということだ。即ち、「安全上の理由」ではなく、「信用上の理由」だ

 日本から輸入したフッ化水素など戦略物資の北朝鮮への横流しの疑いを「いいがかりである」と反発していた韓国は昨日、金ユグン青瓦台安保室1次長が会見で「日本政府は韓国政府の(国際)規範不履行と不適切行為に関する明白な証拠を提示しなければならない」と述べ、「(我々は)国際機関の検証を受ける用意がある。日本の言う通りならば、謝罪するが、事実無根ならば、日本は(我々に)謝罪し、制裁措置を撤回しなければならない」と迫っていたが、韓国が国際機関に持ち込む前に先手を打って「第三国への横流しを意味するものではない」と断っておいたのだろう。

 「不適切な事案」が日本の安全を脅かす北朝鮮をはじめとする第三国への流出ではないとすると、一体「安全保障上」とは何なのか?日本の取った措置が正当なものであることを国際社会に証明するためにも日本政府は責任をもってきちんと説明する必要がある。今は何らかの事情があって、説明ができないとしても、WTOで争うことになれば、否が応でも説明を求められることになる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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