「虐める姑(米国)よりも止めるふりする小姑(中国)が憎い」 北朝鮮の嫌中感情

訪中した金正恩委員長歓迎宴での習近平主席(労働新聞)

 金正恩委員長の4度の訪中と習近平主席の初の訪朝によって中朝関係はかつてのような「唇と歯」のような蜜月関係に戻りつつあるが、過去14年間の疎遠は北朝鮮の核とミサイル発射をめぐる対立と北朝鮮の反中感情が原因であった。

 北朝鮮が初の核実験を行ったのが2006年10月。中国はそれ以来、北朝鮮が核実験やミサイル発射実験をやる度に国連安保理常任理事国として米国が主導する制裁決議や非難声明に賛成し、北朝鮮はその都度反発してきた。

 北朝鮮の初の核実験に中国政府は「国際社会の普遍的な反対を無視し、勝手に核実験を実施した」と強く批判し、胡錦涛主席(当時)の特使として外交担当の唐家セン氏が9日後の18日訪朝し、金正日書記に中国側の憂慮を伝達したが、唐特使が帰国した直後の労働新聞(21日)は「干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、真の独立国家とは言えない」との論評を掲載し、中国の抗議を意に介さない姿勢を示していた。

 そして、3年後の2009年4月に「人工衛星」と称して長距離弾道ミサイルを発射した際には、衛星発射を批判する国連安保理議長声明に中国が拒否権を発動しなかったことに背信感を感じた北朝鮮は中国が議長国の6か国協議合意の破棄を宣言し、翌5月には2度目核実験に踏み切った。

 北朝鮮は「6か国協議は我々の平和的科学技術(人工衛星)開発まで妨害し、正常な経済発展までも抑制しようとする場に転落した」と非難し、「結局、我々を武装解除させ、なにもできないようにさせたうえで自分らが投げ与えるパンくずで延命させようとするのが他の参加国らの下心である」と「他の参加国」との表現を用い、初めて中国に不満をぶつけていた。

 中国は1か月後に採択された国連制裁決議「1874」に賛成したことに怒り心頭の北朝鮮は中国を「(米国に)へつらう、追随勢力」とのレッテルを貼り、「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」(労働新聞)と中国への反発を露わにした。さらに、金正日総書記はこの年の8月に訪朝した現代グループの玄貞恩会長との会見で「中国は信用が置けない」とまで口走った。

 金総書記は2年後の2011年12月17日に急死したが、後継者の金正恩委員長や側近らに「歴史的に我々を最も苦しめた国が中国である。中国は現在、我々と最も近い国だが、今後、最も警戒すべき国となる。中国に利用されてはならない」との遺言まで残していた。

 中朝は2度目の核実験以後は6カ国協議議長の中国の武大偉外務次官、外交担当の戴秉国国務委員、温家宝総理、梁光烈国防相らの訪朝が相次ぎ、また翌年の2010年にから2011年にかけて金正日総書記が3度も訪中したこともあって、関係修復の兆しも見えていたが、父の後を継いだ金正恩委員長が2012年4月に人工衛星発射を強行してから再び関係が悪化した。

 人工衛星関連で安保理議長声明が出されたことに反発した北朝鮮は「常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししている」と名指しこそ避けたものの中国を間接的に批判。さらに中国が同調して2013年1月に制裁決議「2087」が採択された際には「間違っていることを知りながら、それを正そうとする勇気も責任感もなく、誤った行動を繰り返すことこそが、自身も他人も騙す臆病者の卑劣なやり方」(外務省声明)と糾弾し、続く国防委員会の声明では「米国への盲従で体質化された安保理事国らがかかしのように(決議賛成)に手を挙げた」と中国を「米国のかかし」とまで言い放った。

 北朝鮮は3度目の核実験(2013年2月)に中国外交部が非難声明を発表した際には労働新聞を通じて「世界の公正な秩序を立てるうえで先頭に立たなければならない国が米国の横暴と強権に押され、初歩的な原則もかなぐり捨てているのは嘆かわしい。(制裁決議案)に賛成の手を挙げた自らの行動が何を意味しているのか意識もできないほど世の中が変わってしまった。決議案に賛成した国に問いたい。我々に対する圧力はいつの日か自らの首を絞めるけっかとなるだろう。我々をひっかけ、米国と自らの難問の取引できると考えているなら、それは誤算だ」と辛らつな対中批判を展開していた。

 北朝鮮の党創建70周年記念式典(2015年10月)に中国が序列5位の劉雲山政治局常務委員を派遣し、祝賀したことで北朝鮮の怒りは一時鎮静化したものの、2か月後の12月にモランボン楽団の北京公演がミサイルの発射を正当化させる演目に中国がクレームを付けたことでドタキャンしてから再びおかしくなった。

 翌年の2016年1月に4度目の核実験を行うや、労働新聞に「我々は自らの力で暮らしており、誰の目も気にせず、誰にもぺこぺこと頭を下げることなくすべてのことを我々の意図、我々の決心、我々の利益に沿ってやっている。外部の支援はあっても、なくても良いというのが我々の決心である」との記事を掲載し、翌2月の人工衛星発射では朝鮮中央通信が「一部大国までが米国の卑劣な脅迫と要求に屈従し、血で結ばれた共通の戦利品である貴重な友誼関係を躊躇うことなく放り出している」と伝え、さらに国防委員会までもが「米国の強盗的要求に無作戦に同調したことで貴重な過去の遺産と伝統をかなぐり捨ててしまった代価は何をもってしても保障できない」との談話を出し、中国への不信、不満を剥き出しにしていた。

 北朝鮮の対中憎悪は2017年にピークに達し、4月の朝鮮中央通信(21日付)は「我々の意志を誤判し、どこかの国(米国)に乗せられ、我々に対して経済制裁に走れば敵から拍手喝さいを浴びるかもしれないが、我々との関係に及ぼす破局的な関係を覚悟せよ」と警告し、同年5月3日付の労働新聞は「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない。制裁を強めれば手を上げて、関係復元を求めてくると期待することこそ子供じみた計算である」と中国への反感を露わにしていた。

 一昨年(2017年)8月の中長距離弾道ミサイル「火星14型」発射に怒った中国が国連制裁決議「2371」に賛成した時は、労働新聞(8月24日付)は「公正性を投げ捨てたカカシ機構」との見出しの論評を載せ、中国を「『ズボンを売ってでも核を持たなくてはならない』と言って制裁と圧力を跳ね除け核保有の夢を実現した国」だとして、「こうした国は過去と今日の立場を全く考えず、自尊心もなく、我が共和国の核と大陸間弾道弾ミサイル事件発射にむやみに言いがかりをつけ、米国の制裁騒動に加わっている」と辛らつに批判していた。

 ちなみに「ズボンを売ってでも核を持たなくてはならない」と言ったのは中国が核実験を行った1964年当時外相だった陳毅副総理の「ズボンを質屋に取られたとしても何としてでも核を造らなければならない」との言葉である。

 北朝鮮の党機関紙「労働新聞」は2013年5月3日付の社説で「一極化世界を企む米国と他の核保有国らはお互いに対峙する国家利益と理念を持っている。しかし、他の国の核保有についてはいかに相手が長い付き合いの友であっても、また、その国の生死存亡がかかっていたとしても、意に介さず、お互いに野合し、必死で妨害している。19世紀の欧州のブルジョア政治家が『永遠の聯盟はない。あるのは永遠の利益だけだ』と言ったことがある。今日の核大国はこの政治家の説教とおり、動いている」と書いていたが、習主席が中国の国益のため、即ち、米中貿易摩擦で米国から譲歩を引き出すための「カード」として「訪朝」したならば、再び中国に裏切られることになるだろう。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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