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「中国を信用するな!」が先代の遺訓 14年ぶりの中国最高指導者の訪朝と表裏の中朝関係

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
訪中した金正恩委員長と握手を交わす習近平主席(労働新聞)

 中国の最高指導者である習近平主席が今月(6月)20日から1泊2日の日程で訪朝する。胡錦涛主席の2005年10月の訪朝以来、中国最高指導者としては14年ぶりの訪朝となる。

(参考資料:「金正恩訪露」の次は「習近平訪朝」!)

 この14年間、訪朝した中国の最高位の要人は2009年10月の温家宝総理(序列2位)が最高で、2015年の労働党創建70周年は序列5位の劉雲山政治局常務委員(当時)を、また、金正恩委員長の訪中で関係が好転したにもかかわらず、昨年9月の建国70周年の式典にも習主席は訪朝せず、序列3位の栗戦書全国人民代表大会(全人代)常務委員長の派遣に留めていた。

 北朝鮮としては本来ならば「民族の、国家の一大慶事」と位置付けていた昨年の建国70周年の式典に習主席に来てもらいたかったはずだ。それが、No.2の李克強総理でもなく、No.3の全人代委員長の出席となったわけだから内心失望していたはずだ。それだけに、今回の習近平主席の訪朝は北朝鮮からすればやっと念願が叶ったということになる。

 問題はなぜ、中国の最高指導者の訪朝に14年もかかったかにある。何よりも北朝鮮の最高指導者がこの期間、8度も訪中したにもかかわらず、中国の最高指導者が一度も答礼訪問しないのは隣国として、伝統的友好関係からして、また外交原則からして考えられないことだ。

 故・金正日総書記は「胡錦涛訪朝」翌年の2006年1月、2010年5月、2010年8月、2011年5月と4度も訪中した。また政権の座について6年間訪中しなかった金正恩委員長も昨年3月、5月、6月と立て続けに3度も訪中し、今年1月も中国に赴き、その都度、習主席に平壌を訪問するよう要請していた。

 しかし、前任の胡主席は金総書記が死去する2011年まで4度も訪中したにもかかわらず2013年3月までの在任中、2度と平壌を訪問することはなかった。まして、後任の習主席にいたってはこれまでの中朝外交慣例を無視し、2014年7月に韓国を先に訪問していた。

 加えて、No.2の李克強総理も2015年10月に日中韓首脳会議に出席するため訪韓し、No.3の張徳江全人代委員長(当時)までもその4か月前の6月に韓国を公式訪問し、朴槿恵大統領(当時)と会談していた。この期間、中国のビッグ3は全員揃って訪韓したにもかかわらず平壌には誰一人足を運ぶことはなかった。

 中国の最高指導者が14年間も訪朝しなかった、あるいはできなかった理由は中国からすれば、2006年10月から2017年9月にかけての6回にわたる北朝鮮による核実験に尽きる。同時に中国が国連安保理で米国主導の制裁に同調したことへの北朝鮮の反発も原因の一つである。

 例えば、金正日総書記は中国が2009年に国連制裁決議「1874」に賛成した時は「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」(労働新聞)と中国への反発を露わにした。

 後継者の金正恩委員長もまた、2012年4月のミサイル(衛星)発射で安保理議長声明が出された時に「常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししている」と名指しこそ避けたものの中国を間接的に批判していた。

 金正恩委員長は2016年2月に核実験を強行した時も「一部大国までが米国の卑劣な脅迫と要求に屈従し、血で結ばれた共通の戦利品である貴重な友誼関係を躊躇うことなく放り出している」(朝鮮中央通信)として「(中国は)米国の卑劣な脅迫や要求に屈従した」(労働新聞論説)と対中不信を表明していた。

 極め付きは一昨年4月に朝鮮中央通信を通じ「我々の意志を誤判し、どこかの国(米国)に乗せられ、我々に対して経済制裁に走れば敵から拍手喝さいを浴びるかもしれないが、我々との関係に及ぼす破局的な関係を覚悟せよ」(21日)と威嚇し、翌5月3日の労働新聞では「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」と中国を名指しで批判したことだ。

 祖父の金日成主席は生前、同盟国の旧ソ連と中国が韓国と国交を結んだことに衝撃を受け「大国は自らの国益のため同盟国を犠牲にする。永遠の友はいない」と後悔し、また父の金正日総書記も「中国は決定的な段階で我々を裏切る。中国を信用してはならない」との言葉を残していた。

 北朝鮮は2014年6月5日の党中央委員会内部指示で「習近平(主席)は文化大革命の時に受けた被害を中国共産党の弾圧と思っている人物である。今の中国は我々の核自衛力までも米国と一緒になって誹謗中傷する悪い隣人ある。過去、中国共産党は金日成、金正日大元帥様らと抗日伝統で結ばれ継承された革命的友誼関係にあったが、今の中国共産党は改革開放の概念よりもカネを一番に置く習近平式利己主義の党である」とみなしていた。北朝鮮が心底から習主席をあてにしてないことがわかる。

 金委員長は中国からの外交、経済支援欲しさに昨年6月の3度目の訪中の際、「中国は我々の偉大な隣国である、習主席は頼もしい偉大な指導者である」と習主席を持ち上げてみせたが、中国が北朝鮮に対する経済制裁を緩めてこそ、また北朝鮮側に立って米国を説得してこそ「頼もしい指導者」と言えるのではないだろうか。

 どちらにせよ、中朝の思惑が交錯する14年ぶりの中国最高指導者の訪朝に目が離せない。

(参考資料:恥も外聞も捨てたなりふり構わぬ「金正恩3度目の訪中」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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