政府が「特定失踪者」を北朝鮮による拉致被害者として「認定」しない理由

拉致被害者救出を訴える国民大集会(写真:アフロ)

 北朝鮮が2002年に日本の調査要請リストに含まれてなかった曽我ひとみさんを出したことで「もしかしたら、うちの息子も、娘も北朝鮮に拉致されたかも」との疑惑が全国で高まり、警察発表ではその数は現在、883人に上る。ところが、政府も、警察も2005年4月の田中実さんに続き、2006年11月の鳥取の松本京子さんを最後にこの13年間誰一人、拉致被害者として認定していない。

 認定には▲本人の意思に反して連れて行かれた▲北朝鮮に存在している▲北朝鮮の国家的意思があったなどの要件が整ってなければダメなようだ。小泉政権時の警察庁長官は3条件を定めたことについて「拉致ではないものが一件でもあれば、北朝鮮から大反撃を食らう。慎重に捜査しないといけない」と語っていた。

 昨日(5月20日)、千葉県警は北朝鮮による拉致の疑いのあった男性が国内で発見されたと発表した。男性は1992年に失踪し、家族から捜査願いが出されていた。失踪から発見まで27年もかかっている。

 横田めぐみさんら政府認定の拉致被害者(17人)は1977年から1983年の6年間に集中的に拉致されている。認定された田中さんは1978年6月、松本さんは1977年10月に拉致されている。いずれも77年~78年の枠内だ

 千葉の男性が失踪した1992年は日本政府が1978年に失踪した田口八重子さんが北朝鮮に拉致され、「李恩恵」と名乗って暮らしていることを大韓航空爆破事件(1987年)の金賢姫容疑者の証言から割り出し、日朝交渉の場で北朝鮮側に突き付け、拉致問題が日朝外交懸案として急浮上した頃だ。千葉の男性が拉致されていたならば、北朝鮮は大胆不敵にも1991年から始まった日朝国交正常化交渉本会談中も日本人拉致を継続していたことになる。

 警察が「慎重に捜査しないといけない」理由は、実際に捜査してみたら、日本国内で発見されたケースが後を絶たないことにも理由がある。実際に2003年から2013年までの10年間で48人の所在が国内で確認された。その多くは自ら名乗り出たことで判明したが、1978年に失踪した東京の「I」さんは26年後の2004年、別件で警視庁に自首した男の自宅の床下から遺体で発見されていた。

 また、2004年6月に漁に出たまま行方不明となった「K」さんは9年後中古船舶を輸出入する会社の敷地内で保管されていた漁網から白骨となって発見されていた。漁網は船の解体業者から買い取ったまま一度もリールを外すことがなかったため遺体に気づかなかったとのことだ。

 安倍現政権下においても2015年7月、「京都へ仕事に行く」と言って自宅を出たまま行方がわからなくなっていた大阪出身の「I」さんが33年目にして関西地方で発見され、また運転免許の取得のため通っていた長野市内の自動車学校に行ったまま行方不明となっていた「N」さんも45年経った2015年10月、警察の職務質問で国内にいたことがわかった。翌年の2016年にも日本海でのタンカー事故の影響を見に行くと言い残したまま19年間、行方不明になっていた福井県の「M」さんが国内で発見されている。

 民主党政権下で拉致担当相(2012年1月~9月)だった松原仁衆院議員は4年前の2015年10月、ある会合で拉致認定されていない特定失踪者の大澤孝司さんと藤田進さんに関して「自分が大臣だった当時、情報機関などから得た確度の高い情報で2人は北朝鮮により拉致され、生存していると確信していた」と述べていた。

 大澤孝司さんは1974年(当時27歳)に新潟県佐渡市で、藤田進さんは19歳の時の1976年に埼玉県川口市で失踪し、特定失踪者の中では北朝鮮による拉致の可能性が最も濃厚と注目されている方々である。

 松原議員は 「担当大臣としての様々な情報源からその当時、2人は間違いなく(北朝鮮に)拉致をされたと私なりに確信をし、そして生存も確信をしていた」と述べたことからその場にいた親族は「元大臣の“生存を確信”という言葉は何ものにも変えがたい喜びだった」と語ったそうだ。

 松原議員の発言はそれなりの根拠、裏付けがあってのものなのだろう。ではなぜ、担当大臣の時に2人を拉致被害者として認定しなかったのか疑問が残る。拉致担当大臣は警察庁を所管する国家公安委員長も兼ねている。間違いない「生存情報」と「確信」があれば、認定できたはずだ。 

 北朝鮮の国営通信・朝鮮中央通信は今年1月16日、「特定失踪者」が日本国内での生存が確認されていることに言及し、「自国の社会悪が生じさせた問題を我々と無理に結び付け、躍起になって食い下がっている」との記事を配信していた。北朝鮮が「特定失踪者」の存在を頑として否認しているだけに政府が慎重な理由はわからないわけでもないが、日本が認定しないのに北朝鮮に認定させ、帰国を求めることが果たして可能なのだろうか?

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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