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スペインで北朝鮮大使館を襲撃した「闇の組織」の次のターゲットは?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金日成主席の次男・金平日駐チェコ大使(写真:Shutterstock/アフロ)

 スペインにある北朝鮮の大使館が2月22日に武装グループに襲撃された事件は3月1日に金正恩政権打倒を目指し、臨時政府樹立を宣言した闇組織「自由朝鮮」の犯行であることが判明したが、同組織は3月31日付のウェブサイトに新たな声明を載せ、「我々は今、大きなことを準備している。その時まで暴風前夜の沈黙を守る」と引き続き新たな行動を起こすことを予告していた。

 今回、襲撃グループが銃やナイフなどで武装し、治外法権の大使館に押し入ったこと、大使館員らを縛り上げ、頭から頭巾を被せ、監禁し、暴力を振るい、数人に負傷を負わせた荒っぽい手口からしてこの組織が目的のためには手段を選ばない組織であることがわかる。中でも商務官の首筋にモデルガンを当てて脅迫し、「西側の国に亡命しろ」と亡命を強要していたことはこの組織が単純に脱北者を救出することを目的とした慈善、人道団体ではなく、誘引、懐柔、脅迫などを弄し海外駐在の北朝鮮外交官や貿易関係者に亡命を促すことも辞さない反北活動組織であることも明らかになった。

 また、スペインや韓国のメディアの中には襲撃が時間をかけて、緻密に計画されていたこと、活動資金が潤沢であること、犯行グループ(10人)が十分に訓練されていたことなどから米CIAが米朝対立ピーク年の2017年に作動させた「金正恩政権除去(レジームチェンジ)作戦」との関係も取り沙汰されている。CIAはこの年の5月に北朝鮮を限定対象とした500~600人から成る特別組織「コリア・ミッションセンター」(KMC)設立していた。

 「大きなこと」とは何か?

 「大きなこと」が何かは声明には示唆されてないが、少なくとも、マスコミが騒ぐような衝撃的な事件を画策していることは間違いなさそうだ。

(参考資料:衝撃的な「駐スペイン北朝鮮大使館襲撃事件」の全容

 例えば、金正恩委員長の訪ロが噂されているが、ロシアまで専用列車で移動した場合、途中で待ち伏せしてテロを企てるのか、あるいは、昨年11月に亡命を求めて失踪したとされるチョ・ソンギル駐イタリア代理大使絡みなのか、それとも、一昨年2月にマカオからの脱出を手助けし、身柄を保護していた金正男氏の長男、漢卒(ハンソル)氏を表舞台に登場させるのか、どちらにしてもマスコミが飛びつくような事件を企てるのではないだろうか。

 もしかすると、今回と同様に大使館を襲うことも考えられる。その場合、最もターゲットにされやすいのが東欧のチェコ大使館であろう。大使が金正恩委員長の叔父にあたるからだ。

 「自由朝鮮」の前身である「千里馬民防衛」のリーダー、エイドリアン・ホン・チャンが金正男氏を亡命政府の首班に擁立しようと再三、アプローチしていたこと、また金正男氏が殺害された直後に保護した息子を今なお、その後釜に据えようとしているのは臨時政府であれ、亡命政府であれ、その正当性をアピールするには金一族のDNAを継承している人物が相応しいからだ。

 実際にかつて韓国の情報機関や米CIAが関わった金正日総書記の甥(李韓永)の亡命(1982年)、金正男氏の母(成恵琳)とその姉(成恵良)の亡命騒動(1996年)、さらには金正恩委員長の叔母(高容淑)夫婦の亡命(1998年)はロイヤルファミリーの亡命だけに北朝鮮に与えた衝撃は半端ではなかった。

 標的は金平日駐チェコ大使?

 チェコの金平日大使は今年65歳。異母兄の故・金正日総書記よりも一回り年下である。兄は金日成主席の前妻(金正淑)の子であるが、平日大使は後妻(金聖愛)との間の子である。

 兄よりも父親(金日成主席)似の金大使は金日成総合大学で学び、卒業後、「軍人になれ」との父親の勧めもあって金日成軍事総合大学で軍事を学んだ。参謀長育成過程教育を修了し、歩兵指揮官として軍に勤務した後、27歳の時にユーゴ大使館に武官として派遣された。約2年間務めた後、30歳で人民武力部作戦副局長に起用されるなど軍人としての出世街道を歩んでいたが、1988年に突如軍服を脱ぎ、ハンガリーに大使として赴任した。まだ34歳の若さだった。

 金平日氏がなぜ、軍隊生活を止め、外交官に転出したのか、今もって謎とされている。一部では、軍での勢力拡大が金正日後継体制確立への障害になるのを恐れ、外に追い出されたとも言われていたが、真相は藪の中だ。

 以後、ブルガリア、フィンランド、ポーランド大使を歴任し、2015年3月からチェコの大使に就任している。この間、一度も本国に戻り、重要なポストに就いたことはなく、大使をたらい回しにされ、その結果、現在に至るまで延べ31年に亘って海外生活を強いられている。

 甥の金正恩委員長が政権基盤を確立した2015年7月に平壌で開かれた大使会議に出席のため一時帰国したが、金委員長が会議終了後に大使ら外交官全員と一緒に納まった記念写真をみると、金大使は異母姉(金慶鎮)の夫、金光燮駐ハンガリー大使とともに2列目の左隅に追いやられていた。

 金平日大使は「偉大なる首領」(金日成主席)の実子(次男)であるにもかかわらず、党中央委員(128人)にも候補委員(106人)にも、最高人民会議代議員(687人)にも選ばれていない。姪にあたる金与正党宣伝第一副部長は29歳で党中央委員、30歳で政治局員候補、32歳で代議員になっている。北朝鮮の最高幹部は金正恩党委員長を筆頭に29人(政治局員18人、政治局員候補11人)から構成されているが、与正氏が最高幹部の地位にまで昇りつめているのとは好対照だ。

 性格的には内向的で、華やかな所に出るのを好まない傾向があり、ブルガリア大使時代に現地の新聞「トルード」のインタビューに応じたのを含め、海外メディアとのインタビューは過去にたった2度しかない。

 金正男氏が暗殺された時にはどこからともなく「(金正恩政権の)次の暗殺の標的にされるのでは」との情報が流れたが、確かなことは「自由朝鮮」の次の標的にされるかもしれないことだ。

(参考資料:最大の謎 「悲運のプリンス」金正男はなぜ殺害されたのか

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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