「イランの二の舞」にあった北朝鮮!イランと同じ道を歩むか!?

昨年8月にイランを訪問し、ザリーフ外相と会談した李容浩外相(イラン国営通信)

 ベトナムでの米朝首脳会談に随行した北朝鮮の対米実務交渉の一人である崔善姫外務次官は3月15日、米朝首脳会談で合意が得られなかったことについて金正恩委員長が「故国に戻る途中、『一体何のためにこんな汽車旅行をしなければならないのか』と失望の念を口にしていたことを明らかにした。そのうえで、「核実験とミサイル発射猶予を続けるかどうかは、我々の最高指導部が近く自らの決心を明らかにするものとみられる」と金委員長が一転強硬姿勢に転じる可能性まで示唆していた。

 崔外務次官はベトナム滞在時も「米国は千載一遇のチャンスを逃した。今後、同様の機会が(米国に)与えられるとは予断できない」としたうえで「金委員長は米朝交渉に意欲を失ったようだ」と、落胆した金委員長の心境を代弁していた。

 金委員長が「自らの決心を明らかにする」時期とその内容に世界の注目が集まっているが、金委員長は今年の新年辞で「米国が依然として制裁と圧迫を続けるならば、我々としても止むを得ず国の自主権と国家の最高利益を守り、朝鮮半島の平和と安定を実現するための新しい道を模索せざるを得なくなるかも知れない」と公言していることから、声明でこの「新たな道」が表明されることになるのだろう。それが、ミサイル発射実験と核開発の再開を指すかは不明だが、米国との交渉中断を宣言する可能性は否定できない。

 崔次官は会談が物別れに終わったのはポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官の二人が「敵対と不信のムードを作り、指導者の交渉努力を妨害したからだ」と怒りをぶつけたもののトランプ大統領に対しては「両国の最高指導者の個人的な関係は相変わらず良好である」として非難めいたことは一切口にしなかった。

 しかし、寧辺の核施設廃棄への相応措置として制裁解除を求めた金委員長の段階的、並行的解決案を拒否し、席を立つ決断したのは他ならぬトランプ大統領である。実際にトランプ大統領自身が首脳会談後の記者会見の場で「北朝鮮は完全な経済制裁の解除を求めてきたが、米国はそれに応じることはできない。寧辺の核施設の廃棄だけでは十分ではない。我々はより多くを求めている」と述べていたことからも明らかだ。「信頼もし、尊敬もしている」と絶賛していたトランプ大統領に裏切られたことに等しい。

 北朝鮮のみならず韓国も含め世界中の多くの国が「合意は成立するだろう」と予測していたが、北朝鮮にとって惨めな結果を予測していた国が他ならぬ中東のイランであった。

 ベトナム会談が「決裂した」との一報を受けたイランのザリーフ外相は3月1日、「トランプ大統領の見せかけの政治ショーやシャッターチャンス、いきなりの政策変更が真剣な外交とは全く異なるということに(北朝鮮は)気づくべきだ」とツイートしていた。

ザリーフ外相はその理由について実質的にオバマ前政権下で交わされた最良の「核合意」をトランプ政権によって反故にされたことを根拠に上げ「トランプ大統領とは決してこの核合意より良い合意にいたる事はない」と断言していた。

 そもそもイランはトランプ政権を相手に核交渉に応じた金正恩政権に対して「トランプを信じるべきではない」と警鐘を鳴らしていた。昨年6月にシンガポールで▲朝鮮半島の恒久的平和▲米朝の新たな関係構築▲非核化を骨子とした米朝共同声明が発表された際もイラン政府のノバフト報道官は「北朝鮮が交渉しているのは知性のない米国の政治家だ。帰国するまでに合意を取り消さないかも不透明だ」と述べ、トランプ大統領を信用すべきでないとの見方を示していた。図らずもイランの予測が的中したことになった。

 かつてブッシュ政権からイラクと並び「悪の枢軸」とのレッテルを張られた北朝鮮とイランは1979年のイラン革命によるホメイニー政権発足以後同盟関係にあり、核とミサイル開発でも協力関係にはあるが、対米外交(核交渉)では共同歩調を取っていたとは言い難かった。

 例えば、イランは2015年7月15日、国連安保理の経済制裁発動から9年目にして米国を相手に制裁解除を条件に核保有、核武装をしないことを宣言し、国際社会から歓迎されたが、当時北朝鮮外務省は「北朝鮮もイランに見習え」とのオバマ政権の呼び掛けに対して「イランと我々とは実情が異なる。結び付けること自体が話にならない」との談話を出して、反発していた。

 「名実共に核保有国であり、核保有国には核保有国としての利害関係がある」と、まだ核を保有してないイランとの違いをことさら強調した上で「一方的に先に核を凍結したり、放棄したりすることを論じる(米国との)対話には全く関心がない」とイランに倣う気がないことを明らかにし、「一方的に、先に核を凍結、放棄した」イランに不快感を示していた。

 そして、今度はイランがトランプ大統領を相手に金委員長が会談したことに不満を示し、北朝鮮に対して「米国の本質は楽観できるものではなく、注意深く対応すべきだ」と注文を付けていた。 

 イランが米朝首脳会談に冷淡だったのは「米国の振る舞いや意図については懐疑的であり、極めて悲観的に見ている」(イラン外務省)からであったからで最高指導者ハメネイ師直属の精鋭軍事組織「革命防衛隊」のジャファリ司令官はトランプ政権の「イランが望めば会う」との対話の呼び掛けに「イランは会談を受け入れた北朝鮮とは違う」と、4年前の北朝鮮と同じようなことを言っていた。 立場変れば、言動も異なるものだが、トランプ政権に翻弄されている点においては両国とも共通しているようだ。 

 イランはトランプ政権がイラン核合意からの一方的な離脱を表明したことから「この男(トランプ大統領)は米国民を代表しておらず、有権者が次の選挙で距離を置くことは明白だ」と、「トランプ相手にせず」との立場でいるが、今後トランプ政権の対応が変わらなければ、北朝鮮もイランと同じ道を歩むかもしれない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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