何年経っても日本政府が「竹島」領土問題をICJに提訴できない理由

「竹島の日」に抗議するソウルでの「反日デモ」(写真:ロイター/アフロ)

 「竹島の日」(2月22日)を前に再び日韓周辺が騒がしくなってきた。

 「竹島=韓国名:独島」の領有権を島根県と競っている韓国の慶尚北道知事は島根県主催の記念行事を非難する声明を発表するようだ。竹島への出港地である鬱陵島道洞は村民による糾弾決意大会を開くとの報道もある。

 日本は日本で数年前から韓国による竹島周辺での採泥など海底調査活動が行われていたことが明らかになったことでいきり立っている。今月15日にも韓国海洋調査船が竹島周辺海域を航行したことにも「受け入れられない」と抗議したばかりだ。日本からすれば、韓国の竹島を巡る一連の動きは目に余るようだ。

 韓国は昨年だけでも8月と11月に海洋調査船を使って海洋調査を実施している。これに留まらず、韓国の国立海洋調査院も昨年3月から11月にかけて無人観測機器を使って海洋調査を実施している。

 さらに、6月と12月には再三にわたる日本の警告を無視し、海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダー照射をしたことで知られる駆逐艦(クァンケトテワン艦)などを繰り出し、海軍と海兵隊及び海上警察合同による「独島防御訓練」を実施している。

 訓練の目的は「外部勢力の独島上陸を阻止する」ことにあるが、この「外部勢力」が領有権を競っている日本を指すことは自明だ。これに加え、10月には国防委員会所属議員らが超党派で竹島に上陸している。自制を求めても、再発阻止を求めても、ことこの領土問題では韓国は全く聞く耳を持たない。日本の苛立ちが半端でないことがわかる。

 本来ならば、対抗手段として、目には目で、同じことをやることも可能だが、韓国側との「衝突」を覚悟しなければできることではない。

 

 実際に2006年に日本も竹島周辺海域で海洋調査を実施しようとして日本の海上保安庁と韓国海洋警察隊による睨み合いがあった。当時官房長官だった安倍総理はこの時の状況について「銃撃戦が起きる寸前だった」と回顧していた。

 日本政府はこの「竹島問題」でも「徴用工問題」と同様に国際司法裁判所(ICJ)での決着を再三チラつかせてきた。

 その一例として、安倍総理は2014年、国会での答弁(1月30日)で国際司法裁判所への単独提訴を検討し、「準備を進めている」と発言していた。

 単独であれ、韓国との共同であれ、ICJへの提訴の動きはその前の民主党の野田政権下でもあった。

 李明博大統領(当時)が2012年8月10日に竹島に上陸したことに反発し、この年の8月21日に共同提訴を求める外交書簡を送っていた。韓国政府に蹴られることを承知の上での措置だった。案の定、韓国政府が日本の提案を拒否すると、一転単独提訴に切り替え、この年の10月にはICJに単独提訴する方向で調整に入っていた。

 この時からすでに7年近くも経過している。準備完了のはずだ。安倍総理は5年前に「種々の情勢を総合的に判断して適切に対応する」と時期については具体的に言及しなかったが、一体、いつになったら「適切に対応」するのだろうか。

 もちろん、日本政府が単独で訴訟を起こしたとしても、韓国政府が応じなければ裁判は開けない。但し、提訴すれば、ICJは強制管轄権を行使し、韓国に対して裁判への出席を強制できる。それでも「日本との間には解決すべき紛争はない」との理由で韓国が拒みつづければ、裁判はいつまで経っても開けない。国際法上、提訴された側の韓国が同意しなければ、裁判は開けないことになっているからだ。

 韓国は国際裁判所での決着を毛頭考えていない。日本政府が実効支配している尖閣諸島をICJで解決する考えがないのと全く同じ立場で、誰が大統領になっても「日本との間には領土問題は存在しない」とのスタンスが変わることはない。それでも、日本がダメもとで提訴するのはそれなりの狙いがあってのことだろう。

 一つは、国際社会に韓国との間に領土問題が存在することを印象付けることができる。

 次に、韓国と争っている領土問題を平和的に解決する努力をしていることをアピールすることができる。

 三つ目に、日本が国際法の遵守を強調することで、韓国にICJの強制管轄権を受託するよう圧力を掛けることができる。

 最後に、仮に竹島をめぐり紛争が起きたとしても、あるいは日本が実力行使に訴えたとしても、すべての責任はICJで黒白を付けようとしなかった韓国にあることを正当化することができる。

 その一方で、単独提訴には幾つかのリスクが伴う。

 一つは、韓国側の一層の反発を招き、竹島の韓国の「実効支配」をさらに強めることになりかねない。

 次に、尖閣諸島への対応との矛盾、二重基準を国際社会から問題視される恐れがある。「中国との間に領土問題は存在しない」との立場からICJでの解決を全く考えていないのにその一方で韓国との間には「存在する」として一方的に提訴するのはダブルスタンダードとの批判を招きかねない。

 さらに、尖閣諸島では国際社会に「現状の維持」を訴えながら、竹島では「現状の変更」を求めるのはこれまた矛盾しているとの批判を国際社会から浴びかねない。「竹島」で騒げば騒ぐほど、その反動で「尖閣」がクローズアップされるというデメリットもある。

 最後に、同盟国・米国の反発を招く恐れがあることだ。

 ICJ提訴の動きが野田政権下で表面化した時、訪韓したジェイムズ・スタインバーグ国務副長官は竹島問題について「ICJなど国際メカニズムを通じて問題を解決するのは正しい方法ではない」と反対していた。「尖閣」も「竹島」も現状維持が望ましいというのが米国の立場である。安倍総理がICJに提訴すれば、日韓の良好な関係こそが米国の戦略的国益とみなす米国を失望させることになりかねない。

 揺るぎない日米同盟関係を標榜している安倍総理にICJへの提訴が果たしてできるのだろうか?

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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