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知られざる「トランプ・金正恩単独会談」のこぼれ話

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
首脳会談で握手するトランプ大統領と金正恩委員長

 史上初の米朝首脳会談でトランプ大統領と金正恩委員長は全体会議の前に38分間、単独会談を行った。会談の具体的なやりとりについては双方とも伏せているが、幾つかこぼれ話がある。

(参考資料:「同床異夢」の「トランプ・金正恩」の7つの共通点

 一つは、電話番号の交換にまつわる話である。

 トランプ大統領は金正恩委員長に自身の直通電話番号を教えたことを明らかにし、17日(日本時間18日)に「金委員長に電話する」とフォックスニュースのインタビューで語っていた。

 両首脳間のホットラインの設置は単独会談中にトランプ大統領が「これから頻繁に連絡を取り合おうと」と提案し、サンダース大統領スポークスマンと金与正氏を会談場に呼び、二人を通じて電話番号を交換したことによる。

 トランプ大統領は15日、ホワイトハウスで記者団に対し「私は金正恩氏に電話ができる。私は彼に直接繋がる電話番号を教えた。問題があれば、彼は私に電話を掛けることができる。私も彼に電話ができる。我々は意思疎通ができることになった。大変良いことだ」と語っていた。

 ホットラインの設置はどうやら金委員長が会談中に今年の新年辞で豪語した「核ボタン」について触れたことがきっかけとなったようだ。

 金委員長が元旦の「新年の辞」で「米本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンが私の事務室の机の上に常に置かれていること-これは決して威嚇ではなく、現実だということをはっきり理解すべきだ」と米国を威嚇し、これに対してトランプ大統領が即座に「自分の核ボタンの方がもっと大きく、強力だ。それに私のボタンは作動する」と応酬したのはまだ記憶に新しい。

 金委員長は単独会談の場で「全世界の人々が一つ知らなければならないのは私のテーブルの上にあった核ボタンが無くなったのはトランプ大統領のおかげであるということ。全世界はこのことでトランプ大統領を尊敬しなければならない」と述べ、トランプ大統領を持ち上げたようだ。

 結果として、両首脳は執務室のテーブルの上にはこれからは核ボタンではなく、ホットラインを常設し、早期に稼働することで合意したとのことだ。

 トランプ大統領は共同声明に「完全で検証可能で、不可逆的な非核化」(CVID)を盛り込めなかったことで国内外から批判を受けているが、メディアとのインタビューやツイッターで「(金委員長と)合意しなければ、戦争になる。戦争になれば、3千万、4千万、5千万の人が死ぬ。オバマ大統領は核問題を解決できなかったが、もう核の脅威はない。核問題は解決した」ことの実績をことさら強調していたが、どうやら金委員長の前述の発言に鼓舞されたようだ。

 なお、昨年10月に戦争の危機が高まった折、米議会調査局は「米国の可能な対北接近法」と題する報告書で米朝ホットラインの必要性を提案していた。ちなみに米国と旧ソ連はキューバ危機後の1963年にホットラインを構築し、意思疎通のチャンネルを設置した。これは双方の誤判による核戦争を防ぐためであった。米朝のホットライン設置はこれをモデルにしたようだ。

 もう一つは、首脳会談で発表された共同声明の4項目のうち1項目を除き、3項目については事前に合意ができていたことだ。

 共同声明では▲新たな米朝関係の構築▲平和体制の構築▲完全なる非核化▲戦争捕虜及び行方不明者の遺骨の発掘と送還に関する4項目で合意が交わされたが、戦争捕虜の問題以外は事前に合意をみていたことのことだ。ということは、CVIDについては実務協議の段階ですでに適応外とすることで合意していたようだ。

 また、ワシントンポスト(WP)によると、シンガポールに到着したトランプ大統領は会談を一日前倒して、11日にできないかと側近らに催促していたこともわかった。

 トランプ大統領は「私も、金正恩も二人ともここにいるのになぜ11日にできないのか」とポンペオ国務長官やサンダース報道官らに疑問を呈したが、二人から11日は準備に要すること、また急に予定を早め11日にやれば、米国時間は日曜の夜にぶつかり、テレビ中継もやりにくくなると説得され、結局断念し、予定通り12日に臨んだとのことだ。

 なお、前出のWPによれば、トランプ大統領は私的な場では知人らに対し金委員長と親密な関係を築くため北朝鮮での収益性の高い開発事業について不動産開発業者や金融界のお偉方を紹介、斡旋することもできると言っていたようだが、実際に金委員長にそうした打診をしたのかはわかっていない。

(参考資料:4度目の正直の「相思相愛」の米朝首脳会談

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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